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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
新の領域
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脱魔女の章⑥

 魔女となったのはちょうど半年くらい前の話。目の前で仲間をイギリス魔術結社の七賢人は第2のクロス・ハイドンに残虐に殺されたことで私の中の魔女が覚醒した。それからというもの学校で学んだ魔術知識と日本に入ってきた逃亡軍が持ってきた魔術の知識を頭に叩き込んでクロス・ハイドンを殺すために戦場に立ち続けた。心を無にして死んでいく人たちから目を背けて生きてきた。その残酷すぎる私の姿を見て味方も私の姿を見て怯えた。私はずっとひとりだった。

 人のぬくもりも優しさも私にはもう無縁の存在に等しかった。

 でも、こうして戦場から少し離れた小さな村で私はその無縁の存在となっていた人のぬくもりに再びつかることになった。

「お姉さん!いますか!」

 元気よく私を呼ぶ声がする。

「ヨナさんですか」

 風也さんたちと食事をしているときだった。その光景にヨナさんは少し戸惑っていた。

「手錠は外れたんですね」

「はい」

 笑顔で手錠のない手首をヨナさんに見せる。

 その手首には紫色のあざがかすかに残っているがこれも時間が経てば消えるだろう。

「手錠が外れたということはこれから何の制限もなく魔術を学べるんですね!」

 うれしそうにいつも魔術のことをメモする手帳を手にとって笑顔になる。

「そういうことですね」

 一応、彼女には魔術に関することは大方教えることにするつもりだ。それからこの村を発っても遅くはないだろう。この村まで結社が迫ってきていないということは前線部隊が後退して前線がすぐに下がるというわけではなさそうだ。今はちょっとした休戦状態なんだろう。だから、もう少しここにいてもいいかな。

「じゃあ、俺たちは農作業に言ってくるからな」

「はい。いってらっしゃい」

 と4人を見送った後に食器を私が洗ってそれをヨナさんが手伝って私の魔術講座が始まる。その始まり時を狙って村の子供たちが何人か家にやってくる。その都度、手錠がなくなった、奴隷じゃなくなったとか言ってくる。でも、こうして自由に動けることがこうも幸せなことなんて知らなかった。普通のことが普通にできることがどれだけ幸せなことなのか私はここでひしひしと感じた。

 そして、今日も私は子供たちに魔術を教えた。昨日は属性魔術の話をしたばかりなのでその続きだ。

「属性魔術を発動するためには魔術師の持つ魔力の波長が大きく関係しています。無属性魔術は波長に発動条件は左右されないんですけど、属性魔術は大きく影響します。例えば、私の魔力は雷属性の波長です。だから、使える属性は主に雷属性です。ですが、雷属性魔術を発動するときに必要な波長と類似した波長を必要とした属性があります」

「火属性ですか!」

 ヨナさんが勢いよく手を上げて私の言おうとしたことを言い当てる。

「そうです。正解です、ヨナさん」

 周りの子達が拍手を送る。

「雷属性は火属性以外とは求められるまったく魔力の波長が異なります。ですが、雷属性と火属性の魔術に必要な魔力の波長は非常に似ているということらしいので発動が可能らしいんです。これは他の属性にもいえることです」

 だが、法則的に発動可能でも必要な魔力の波長は類似するだけであって同じではない。だから、発動には波長を多少なりとも操作する必要がある。それには魔術師の得意不得意に左右される。ちなみに私は得意なほうだ。

「あの!」

 ヨナさんが手を上げる。

「どうしたんですか?」

「雷属性の波長を持ってお姉さんが火属性魔術を発動するときに波長を操作するんですよね。なら、他の属性魔術に似合った波長に魔力を操作すればいいんじゃないんですか?」

「いや、できたらみんなやってますよ」

 波長を操作できないかという実験や研究はかなり昔からやられているけど、成功例はほとんど聞かない。ほとんど聞かないということで聞いたことはあるのだ。例えば、イギリス魔術結社の七賢人は第4のユーリヤ・アーネルだ。彼女は転生魔術を使って計3人の魔術の魔力を自分の中に宿らせて3属性の魔術を使えるようになったというらしい。でも、彼女の場合は波長を操作したのではなく3つの魔力を使い分けているだけであって波長操作の成功例といっていいのかは難しいところだ。

「でも、波長って波ですよね。波って適当に石を投げても変わりますよ」

「いや、水といっしょにしても困りますよ。相手は目に見えない魔力です」

 魔方陣を通ることでようやく可視化できる力だ。そんな見えないものを操作するというのは容易なことじゃない。

「魔力の波長をまったく別の魔力の波長に変化させるということは事実上無理です。そんなことを詮索するくらいなら今ある技術を少しでも多く吸収するべきだと私は思いますよ」

 ヨナさんはムスッとした顔をして手元の手帳に何かをメモる。

「さて、続きを話しましょう」

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