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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
無の領域
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砂の街で⑨

 ユーリヤは死んでいなかった。極度の脱水症状に陥って危ない常態だったらしいのだがどうにか無事に息を吹き返したようだった。しかし、立ち上がったり話したりするほどの回復は魔術の力を持ってしても2週間くらい掛かるそうだ。そもそも、体よりも心のほうが大きな傷を負った。

「多大な期待を煽って調査していた古代魔術兵器は突如現れた神術を使う男により粉砕。さらに遺跡の陣を解読する前に魔術を発動させてしまったために陣の複製も不可能。そりゃあ、心が病んでも仕方ないわね」

 と氷属性の冷房の利いたホテルでキュリーさんはソファーに腰掛けながら俺に告げる。

「え?俺のせい?」

「半分以上はあなたのせいでしょ」

 で、でも、ユーリヤ死んでないからセーフだよな?そうだよな?

「まぁ、死んでいないから大丈夫よ。生きていれば人は何度でもやり直せるわ。やり直したいと諦めなければ」

 なんかキュリーさんは自分のことのように呟いたように見える。

「それでこれからどうすんですぅ?」

 ベッドの上で丸くなっているハンナが尋ねる。

「イギリス魔術結社にこのエジプトに教太がいることが明るみになってしまったんですよぉ。七賢人クラスの魔術師、教術師が来てもおかしくないですぅ」

 グレイとかに来られると厄介だな。あいつは俺の破壊の力とは相性が悪い。

「どうしますぅ?神の法則に関することはエルとズーランのいる遺跡に行って分かりましたぁ?」

「・・・・・・・分からなかったけど、大丈夫だ」

「何が大丈夫なのよ?」

「さぁ~」

 俺にも分からん。

 でも、破壊の宝刀バーサーカー・カリバーンを発動する前に俺はある結論にたどり着いた。

 この世界にあるものはすべて魔力によるものじゃない。

 後でわかった古代魔術兵器の名称、ライフプデェイションクリーチャー。日本語に直訳すると命捕食怪物ということになるらしい。つまり、ユーリヤが発動した古代魔術兵器は命を吸収する怪物ということになる。この場合の命というのは水ということになる。あのライフアブゾープションクリーチャーは水を吸い尽くす化け物ということだ。もしかするとこのエジプト一体が砂漠地帯になってしまったのは人が森林を切り倒したほかにも理由があったのではないかと思ってしまう。

 だが、あの砂漠のおかげでエルとズーランのばあさんが守るあの遺跡が守られている気がする。今日のエジプトの昼間に降り注ぐ太陽は殺人的だ。その日差しの下で今日もエルは大きなタンクを背負って水を運んでいることだろう。

 手伝いたいのは山々だが追っ手が迫っている。

 床に座り込んでいた俺が立ち上がるとベッドの上で丸くなっていたハンナも眠そうな顔を引きずりながらベッドから降りる。

「行くの?」

「ああ」

「どこに行くんですぅ?」

 どこへ行こうか?俺の持つシンの力はもはや別のものへと変わっている。半分ほどしか発揮できていないシンの力を使いこなす必要はもうない。ゴミクズはこの力を俺の力といってくれた。ならば、シンのことを知ると言う目的はほぼ達成したといってもいい。

 だが、片付いていない課題は多い。

「イギリスへ行く」

「はぁ!」

 キュリーさんが驚いたように立ち上がるが、ハンナは無反応だった。

「なんでイギリスに行くのよ!結社の追っ手は教太の位置を知ってエジプトに向かっているのよ!今、イギリスに向かえば鉢合わせになるわよ!」

 そうなればイギリス魔術結社から送り出された強敵と対峙することになる。

「でも、ここで背を向ければ逆に危険だ。向こうもわざわざ自分たちのところに向かってきてるなんて思ってもないだろ。それに俺たちはひとつの目的を胸に結成された集団だ」

 対立する3大魔術組織のメンバーが手を組んでいるのだ。しかも、ふたりはその組織の幹部クラスだ。俺たちが手を組んでいる目的。

「カントリーデゥコンプセイションキャノンの阻止」

 キュリーさんが呟く。

「発動を食い止める方法としては素材のひとつである神術師、つまり俺が捕まらないこと。後はあるとするならその陣の破壊だ」

 ホテルの一室が静けさで支配される。

「陣の破壊を破壊すれば魔力は流れない。魔術は発動しない。後はその古代魔術兵器の発動に関する書物系をすべて処分する。それが俺がイギリスへ行く目的だ」

 誰も殺さないためにその無差別に人を殺してしまうその兵器を破壊するために俺は次のステージへ進む。

「賛成ですぅ」

「ハンナ!あなた何を言ってるの!結社に貯蔵されている書物は破戒知れないのよ!」

「それでも行きたいですぅ。私の知らない魔術がたくさんありそうですしぃ」

 ハンナの目的は植物状態になった親友を助けること。そのためにはもっとコアな魔術の情報を知りたいはずだ。きっと、古代魔術兵器の書物が保管されているところにハンナの知りたい魔術もあるはずだ。

「イギリス魔術結社もまさか自分たちの拠点を置く国内に捕まえたい相手が潜伏しているとは思わないはずだ」

「裏を掻くってことですぅ」

 迫る俺たちにキュリーさんはため息を着く。

「分かったわ。行けばいいんでしょ。イギリスに」

 いえーいとハンナとハイタッチをする。

「一応、私の母国だから潜伏場所も確保できる。友人がロンドンの郊外に住んでるからそこに潜伏させてもらいましょ」

「・・・・・・キュリーさんって友達いたのか」

「いるわよ!ひとりくらい!」

「ひとりしかいないんですねぇ」

「うるさいわね!」

 これ以上何か言うと火に油を注いで剣を振り回しそうなので抑えよう。

「来たわよ~、クソデブゴリラキュリー」

 火に油を注ぎやがった。

「うがー!」

 いつの間にか取り出した剣を部屋に入ってきたレイランに向ける。今にも切りかかりそうなので押さえつける。

「落ち着け!キュリーさん!」

「落ち着いていられるか!誰がゴリラだ!どこがデブだ!どう見たってスレンダーでしょ!」

「心がデブよ」

 どんなデブだよ。

「せっかくあたしがいい話を持ってきたのに~」

 押さえつけながらまるで犬のようにレイランに威嚇すキュリーさんを無視する。

「いい話ってなんだ?」

「べ」

「ベッドに行くのはなしな」

 別に預言者になったわけじゃないけど、レイランの言いたいことがわかってしまった。

 ゴホンと咳払いをして改めるレイラン。

「結社は今日の午後にはエジプトに到着するらしいわ。すぐにあたしのところに来るでしょうね~」

 レイランの教術を使えば情報の入手は容易だ。

「イギリスに行くんでしょ~?」

「ああ」

「なら、国分教太御一行は結社の接近を察知して南に逃げたってことを伝えておくわ~」

 それは俺たちから追手を遠ざけるための嘘だった。

「待ちなさい!レイラン!」

 珍しくキュリーさんがレイランに対してまじめなことを話すときのトーンになった。

「もしも、それが嘘だってばれたらあなたただじゃすまないわよ。特に総帥は許さないわ」

 総帥、つまり事実上いじりス魔術結社を束ねる長だ。確か七賢人の第1だったはずだ。

「構わないわ~」

 その答えはすぐに出た。

「あたしの教太に対する愛は命をかけても守ってもいいものよ~」

 その愛はさっさと捨てろ。俺はいらん。

「それに教太はイギリスに向かうべきよ~」

「なんで?」

「ある人物を拘束したって言う情報を見たわ~」

「ある人物の拘束?」

 その名前を聞いて俺は驚愕した。

「美嶋秋奈」

 キュリーさんを押さえつけていた力は抜けて俺は思考が数秒間止まった。その名前を聞くのは本当に久々だった。つい最近までは当たり前のようにいっしょに行動していたのに、その名前は聞くとすごく懐かしく感じた。浮かぶのは俺に牙を向けた美嶋の姿だ。不安げな表情から美嶋を助け出すために俺はこんな砂漠の町にまでやってきた。いろんなことが頭を巡る。だからかもしれない。どうして拘束されたのかと聞くまでに頭が回らない。

 変わりにハンナが尋ねる。

「美嶋秋奈ってどっちのですかぁ?」

 そうだ!この世界には美嶋秋奈はふたりいる。ひとりは元魔女で俺たちが三月アキって呼んでいる女の子と気弱で寂しがり家ですべての属性魔術が使える女の子のふたりいる。アキのほうは魔力を失っているからさらわれても不思議じゃない。だが、レイランの答えに俺はさらに驚愕する。

「多色の魔女って呼ばれてる方の美嶋秋奈よ~。なんでもすべての属性魔術が使えるとか。本当かしら~?」

「へぇ~、おもしろそうですぅ。それで気になるのは・・・・・・教太は心当たりがあるみたいですぅ」

「・・・・・・美嶋だ」

 すべての属性魔術を使うのは魔術の法則上は不可能とされている。そんなことをする奴で美嶋秋奈といえばあいつしかいない。校則違反の茶髪のセミロングの少女だ。

「なんで?美嶋は捕まったんだ!」

 迫るようにレイランに尋ねる。

「焦ったってしょうがないわ~。別に殺すつもりはないみたいよ~。なぜなら、美嶋秋奈も教太と同じカントリーデゥコンプセイションキャノンの素材の候補なのよ~」

 つまり、美嶋は古代魔術兵器の素材にされるために拘束された。

「決まりね」

 キュリーさんが立ち上がる。

 そして、俺の肩をゆするために正面に立つ。

「行くわよ!イギリスに!それで助けるんでしょ!その神術を使って!その子を!」

 キュリーさんのまっすぐ見つめる青い瞳が俺の意思を硬くしてくれる。

「ありがとう、キュリーさん」

 動揺するな。これで曖昧だった目的が明確なものになったじゃないか。俺には神の法則に守られた力がある。エルとズーランのばあさんに案内された遺跡で会ったゴミクズから大きなヒントを得た。後はそれを余すことなくぶつけるだけだ。

「行くぞ!イギリスに!」

 俺たちは旅立つ。行き先は砂漠の町から霧の町へ。

これにて無の領域はおしまいです。

最後まで読んでくれてありがとう。

このお話は章タイトルと無の領域でいいのか悩んだ末に「無の空間に久々に行くし、無の領域でいっか」って感じで決まりました。

要するに適当です。

なんかいい章タイトルがあれば感想とかで提案してくれるとうれしいです。

もしかしたら、採用するかも・・・・・です!

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