神術使い②
国分教太は威嚇するように雄たけびを上げた。
その雄たけびを私は空気の振動で気付いた。目を閉じて息を止めて耳を塞げといわれて言われたとおりにしていたから何が起きたのかさっぱり分からなかった。だが、目を開けて塞いでいた耳を開放して大きく呼吸すると私と教太がいたところだけが緑の物体が吐き出した風の影響を受けていないみたいに無傷だった。
どうやってやったのかわからない。私も自分のみを守るために結界を発動させようとした。でも、どの結界を発動させたところであの攻撃から無傷で生還することは不可能だ。そもそも、教太が使うのは教術だ。シンの力とは言えば本来の半分程度しか使えていない。他には龍属性の教術という珍しいものを使うが相手は古代魔術兵器の攻撃だ。それを無傷で耐え抜くなんて・・・・・・教太は一体何をした?
無傷の教太に固まっていた緑の物体が背中のツタで教太を捕まえるためにジグザグにうねうねと狙いを定めさせないように迫ってくる。
「教太!あれにつかったら面倒よ!」
拘束から逃れようとしている間に技術の上がったユーリヤが攻撃を仕掛けてくる。対応するのは難しい。特に剣術を主な戦闘手段としていない教太ならばなおさらだ。
「教太!」
二度呼ぶとようやく教太は気付いて振り返った。耳が聞こえずらくなっている気がした。それを分かっていなかった私のせいで教太は私のほうを振り返ってしまった。重視すべき敵から目を離してしまった。そのせいで迫ってきた一本のツタに捕まってしまって持ち上げられる。
「おわぁ!」
「教太!」
助けようとした。でも、私も自分があの攻撃から助かったことで油断していた。背後の砂の下からツタが迫っていた。
「何!」
音ですぐに気付いて剣でなぎ払う。だが、同時に左右からツタが迫ってきてそれには対応できずに剣を握る右手首を拘束されて引っ張られて砂の上に叩きつけられて宙ずりにされる。切り落とそうにも剣を握る手から宙ずりにされていて切り落とせない。ならば、スカートの下に隠し持っている氷の剣で切り落とすしか。と思っていたところに左手の動きを拘束するようにツタが左手首を巻きついてきて右手に巻きついているツタとは逆方向に引っ張る。
「や、や・・・・めろ」
引っ張られるのを自分の腕の筋力だけでこらえようとする。少しも緩めればどちらかの腕が引きちぎられそうだ。教太に声を掛けてしまって古代魔術兵器に捕まってしまって、その教太を助けようとして自分も捕まるなんて情けなかった。剣士としてのプライドが許さなかった。
ここは腕一本引きちぎられようとも教太を助ける。右手はダメだ。剣を握るのに必要だ。
だから―――。
「左手はくれてやる!」
左腕の力を緩めたときだ。
「ダメだ!」
声がしたほうを見るとそこには教太の姿があった。拘束していたツタは見る影もなく変わりに教太の周りには赤黒い龍属性の風属性の風の筋が纏って彼を宙に浮かしていた。右手には真っ黒な剣。シンは使っていなかったすべてのものを術師の意図で破壊する無敵の剣。その剣が私の右手を拘束するツタを斬った。瞬間、まるで炭になるかのようにツタはぼろぼろと崩れ去って右手が自由になる。ツタを破壊してくれたのは剣を握る右手。教太はそのまま戦線を離脱するように飛んでいった。
「いい判断してるじゃない!」
自由になった右手の剣で左手を拘束するツタを切り落として自由になる。だが、氷属性魔術を使う私に空中でどうこうするだけの魔術は使うことはできない。氷の上が氷属性を使う魔術師の独壇場ならば空は風属性魔術師の独壇場だ。氷属性魔術がどうにかできるフィールドじゃない。
ツタは再び私を拘束するために向かってくる。
「私ばかりを狙っていていいの?」
そこに再び黒い影が乱入してくる。赤黒い風を纏った教太だ。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
右手の赤黒い剣がツタを次々と斬り破壊していく。その間に私は地面へ。衝撃を和らげるために地面の上に転がすように砂埃を上げて着地する。そして、すぐに立ち上がると同時に教太が上空から戻ってきた。
「よく俺が戻ってくるって分かったな」
黒い剣を構えたまま私に伝える。
「剣を持つ手を自由にしたということは残りのツタは自分で何とかしろってことでしょ?ツタを破壊したところで私の自由になったけど空中じゃあまた捕まることは考えれば分かるわ」
「察しがよくて助かる」
「あなたもなかなかの判断力ね」
私も教太の隣になって剣を構える。
「それであの化け物と隣のユーリヤはどうする?」
緑の物体とユーリヤ。
「ユーリヤの背中からツタが伸びているの見えない?」
教太は目をしかめるように探す。ツタはユーリヤの背中から垂れ下がるように伸びていた。そのツタは緑の物体へと繋がっていた。
「ユーリヤとあの緑の物体は一心同体ってことか?」
「可能性としては高いわ。彼女の槍の技術は大したことないのだけど、私と張り合ったわ」
危うく押し負けそうにもなった。
「自分の技術を過信しすぎじゃね?」
「私の剣を認めてくれた人がふたりいたの!自他共に認める最高の技術よ!」
「どうだか」
今度、こいつに木刀かなんかで稽古つけて実力の差を見せ付けてやる。
「なら、その自他共に認めるその剣術を見込んで頼みがある。・・・・・・俺はユーリヤを助けたい」
その言葉に私は呆れた。
「何言ってるの!ユーリヤは古代魔術兵器に操られてるのよ!あいつ自分の部下をあの緑の物体で食い殺したのよ!そんな奴生きる価値なんて!」
「それでも俺は誰も殺さない」
教太の目はこんな命をやり取りを行っている真っ最中にもかかわらず穏やかで優しい目をしていた。ロズもそうだった。彼は命を取り合うような自分の命が危機的状況も彼は笑顔を絶やさなかった。それが彼が貫き通した道だからだ。教太にもその道がある。彼はそれをただ突き通しているだけ。
私には自分で道を作るだけの意思も想いもない。いつも誰かの作った道をただ追うように進む。私には常に憧れの人がいてその人に追いつくためのその人が作った道を沿って進む。今の私は言うなれば迷子だ。追うべき人を失った。でも、今ここに私は再び追いかける人を見つけた。
その人はどんな絶望的な状況でも誰も死なない道を必死に模索している。その進む道がどんな荒れた茨の道でも彼は突き進む。どれだけぼろぼろになろうとも・・・・・。
その無謀なことを維持でもやり遂げようとするところは私は―――好きだ。
「分かった。何をすればいい」
教太は笑って敵に目を向ける。
「ユーリヤを救うにはあの緑の物体を、古代魔術兵器を壊す必要がある」
「壊せるの?」
「俺の持っている力はシン・エルズーランの力だぞ。破壊できないものはない」
そうだった。彼に破壊できないものはないんだ。
「でも、破壊の力にも射程ってものがある。この剣の間合いに入る込む必要がある」
「つまり、援護しろってことよね」
簡単な話よ。
「あのうっとうしいツタは私がまとめて相手をする」
「大丈夫か?」
「誰に向かっていっての?」
教太よりも一歩二歩前に出て剣を天高く掲げる。
「私はイギリス魔術結社の七賢人は第5の代理、キュリー・シェルヴィーである!相手が神の力であろうが古代の力であろうが構いはしない!私は魔術師の中でも最高峰の力を持つ剣士だ!」
瞬間、ツタが一斉に私にもとに襲い掛かる。
教太は私を置いてユーリヤの懐に向けて走り出す。
「そうそう、ひとつ言い忘れていた。私は剣士でもあり」
ドーンと砂埃を上げて一斉に遅い掛かったツタの軍団だったが、そこには何もなかった。そこに風のように氷の刃がツタを一斉に切り裂く。
「奇術師だ」
相手は私に見とれすぎたのだ。剣を高々と掲げて堂々とよける気もなく其処にただ立ち尽くしているだけの餌に食いついたのだ。でも、そこにはえさはいない。私は剣を握っていない左手でウエストチェーンの十字架でスカートの下の魔術を発動させたのだ。発動させた魔術は幻影魔術。相手の距離感覚を狂わせた。相手が気付かない間に魔術が発動してそれに騙される。まさにはるか数百年前までは娯楽としてこの世界に定着していた奇術師たちの技術。それがロズの技術。そして、ロズは決まってこのきめ台詞を吐く。
「ロズ。マジック」
教太はユーリヤの懐まで迫っていた。




