神術使い①
外に出ると砂漠の向こう側がまるで砂嵐でも起きているかのように空高く砂が舞い上がっていた。外には専用の出口があって門の隅にあった壊れた井戸に繋がっていた。つか、最初からここを使えよって言うツッコミは後にとっておくとして今は地価にいたときに爆発のような地鳴りだ。
「あの方角ユーリヤが調査中の遺跡だ」
考えられる最悪の状況はユーリヤが血迷って古代魔術兵器を発動させたことだ。
しかし、俺が知る今のメンバーであんなふうに砂埃を空高く舞い上げるようなことをする魔術師、教術師はいない。そうなると最早古代魔術兵器が発動したと考えるのがベストだ。
「行くのですか?」
ズーランのばあさんが杖を突きながら俺の隣までやってくる。
「ワシの早とちりでした。部外者はまだここを襲っていません。しかし、敵はここにやってくるでしょう。ここに眠る神の法則を知るために」
俺は遺跡から出てきた井戸のほうを見る。この下にあった遺跡は俺が知る空間そのものだった。神の法則に守られた教術を手に入れたものたちは少なからずあの無の空間に一度訪れているということになる。そこに行くことができただけでは神の法則をうわべ上は理解しているが真実を完全に理解したわけじゃない。だから、ここで神の法則を教えてもらうのだ。前にその神術を使えていたものが無の空間で新しい使い手に神の法則を教えるのだ。ゴミクズがそうであったように俺も同じように神の法則を知るためにこの地に引き寄せられた。
だが、ゴミクズは俺に神の法則というものを教えてくれなかった。自力で法則を理解できる領域に俺は到達していると。俺が今まで聴いてきた話の中のどこかに神の法則が存在したということになる。神の法則の解読がシンの力を最大限にまで引き出す材料だと思っていたが、本当にそうなのかここに来て疑問を感じるようになった。
もう、シンの力ではなく俺の力になっている。
『教術を使えるお前は人の領域にいるが、神術を使えるお前は神の領域にもいる。どちらの領域にも留まることのできる特別な人間だ。教太』
それはゴミクズの声だった。まるで俺の背後にいるかのようにその声は聞こえた。
『行け。もう、俺は必要ないだろ』
ああ、ありがとう。
俺は顔を上げる。そして、2歩前に出て回れ右をする。
「ありがとう。ズーランのばあさん、エル。おかげで神の法則に触れることができた。感謝している」
「頭を上げてください」
慌てず落ち着いた声でズーランのばあさんは声を掛ける。俺は頭を上げる。
「ワシらはここを守っているだけの巫女です。役目に沿ったことをやったまでのことです」
優しく続ける。
「ですが、ワシらの役目はここまでです。神術の使うあなたが今後どのようにその力を使っていくかは私たちには何も口出しはできません。その力で世界を統一するのも破壊するのも構いません。ですが、正しく使ってくれることを祈っています」
ズーランのばあさんが頭を下げるとエルも落ち着いて頭を下げた。
「ひとついいか?」
「はい」
気になっていたひとつのことがまだ答えとして俺は聞いていない。
「エルはどうやって神の法則を手に入れた?」
ズーランのばあさんは何も言わなかった。だが、代わりにエルが一歩前に出る。不安そうにズーランのばあさんのほうを見るがばあさんは止めようとはしなかった。
「アレンに・・・・・直接聞きました。・・・・・・神の法則を・・・・・・そしたら・・・・・今の力が」
元々、才能があったんだ。でも、神の法則に気付けなくて埋もれていたということなのか?
頭のどこかで納得していた。きっとこれはゴミクズが分かっていたからだろう。エルは神の法則を知っている。だから、砂を操る神術を使えるんだ。それだけであってそれ以上のことはない。だから、言及はやめよう。
「そうだ。エルに伝言を預かってる」
突然どうしたのかとエルが首をかしげる。
「俺、アレン・スチュワードは死んでしまった。本当にすまない。だが、エルはエルの意思で生きろ。だそうだ」
その名前にエルだけではなくズーランのばあさんも驚いた。
「まさか、あなた様は破壊と創造の力をお使いになりますか?」
それはまさにシンの力だ。
「よく分かったな」
それを聞くとエルが泣き崩れた。乾いた砂の大地に涙が落ちる。
「あ、アレンは・・・・・・アレンは・・・・・・本当に・・・・・・」
大粒の涙を流す、エル。しかし、泣き声は上げずにぐっとこらえる。
「そうですか・・・・・・アレンはすでに神の法則を教える側に・・・・・・」
その場に崩れるエルを珍しく励ますズーランのばあさん。
するとドンドンと軽い音が舞い上がる砂埃の向こう側から聞こえた。誰かが戦っている。そう感じた。
「もう、行かないと」
「お気をつけて」
俺は泣きじゃくるエルのそばまで寄ってしゃがんで優しく抱き包み込む。
「がんばれ。アレンだけじゃなくて俺も応援してるから」
「・・・・・・うん」
エルも同じように抱きついてきて互いの体温を感じた後に俺は立ちあがる。
右手でシンの力を発動させる。五芒星の陣が青白く輝いた後に黒い靄が右手を覆る。そして、辺りの元素を集める。左手で龍属性の教術を発動させる。こちらは赤黒い龍属性の風属性を生成して集める。
「それじゃあまた会おう!ズーランのばあさん!少しはエルに優しくしろよ!エルも泣いてないで前を見ろ!」
一気にロケット噴射のごとく空を飛んで遺跡を後にする。手を振るズーランのばあさんとエルを尻目に俺は砂埃が舞い上がるほうへ再び衝撃波と赤黒い風を使って飛んでいく。
「人と神の領域に留まることのできる人間か」
しばらく飛んでいると目の前に巨大な緑色の物体が見えた。背中からツタのようなものが触手のように生えていて大きく口を開けた。何かを吐き出そうとしている。その先に見えたのはキュリーさんだった。
「助けに行く!誰も殺さないために!」
衝撃波を爆発的に発生させて飛んで龍属性の風でブレーキをかけてキュリーさんと緑色の化け物の間に入ると風のようなものを一気に化け物は吐き出した。勢いはすさまじくキュリーさんを抱えて逃げるだけの隙はない。だったら、やるべきことはひとつ。風は空気があってこそ発生するものだ。だったら、その空気を絶ってしまえばいいんだ。
「諦めるにはまだ早い。息を止めて目をつぶれ!耳もふさげ!早く!」
俺も左手で左耳だけを塞いで渾身の力を右手にこめる。
「真空の空間!」
瞬間、俺も息を止めて目を閉じる。だが、分かった。右手を中心に空気中に漂う元素という元素がすべて弾き飛ばされて真空の空間が完成する。そこに衝撃波は入ってこなかった。衝撃で辺りの砂埃がえぐられて衝撃に飛ばされてしまいそうになるがここで俺が倒れればキュリーさんも俺も危険だ。
誰も殺さない。それは当たり前だが俺が死なないのも重要だ。それはアキと美嶋に教わったことだ。
ここで引き下がらない!
一歩踏み込んで衝撃から完全に身を守った。
キュリーさんの肩を叩いてもう目を開けてもいいことを伝える。
右耳がボーっと言う音しか聞こえない。なんかおかしいがそんなことはどうでもいい。
すさまじい衝撃波を撃ちはなった緑の物体は健在の俺の姿を見て固まった。
「神術なめるな!」
俺は雄たけびを上げるように威嚇した。




