表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
無の領域
140/192

命を吸う物③

 この生き物を私は知らない。

 今まで20年ちかく生きてきて私はこんな生き物を見たことがない。契約系の魔術によって召還される召還獣という獣がいるのを私は知っている。実際に顔から前半分がライオンで後ろ半分が牛で背中にコウモリの翼をはやして尻尾が蛇だったって言うキメラなら見たことがある。でも、あれは存在する生き物を混ぜ合わせた生き物だった。だが、目の前の緑色の物体は植物でできているのはわかる。その形は一体何をなしているのか分からない。こいつはなんだ?何の生き物だ?私はこの生き物を知らない。

 そして、もっと深刻なのはその脇にいる白い修道服の女だ。

「どうした?ユーリヤ?」

 ふらふらとしていて今にも倒れそうだ。両手には槍をしっかりと握っているが両目の瞳孔が左右で違っていて顔色も悪い。その表情からして魔力を切れを起こしたようには見えない。

「みンな死ネばいイんダ」

 その瞬間、緑色の物体の背中から生えている触手のようなツタが一斉に私のほうに向かってきた。

「やばい!」

 すぐに横に飛んでかわす。それでもかわしきれないものに関しては剣で切り落とす。だが、そのツタはしつこく私を追いかけてくることはなかった。剣を構えるとかわして私を捕まえそこねたツタは別の方角へ向いて飛んでいった。その先にいたのは私を足止めしようとしたユーリヤの部下だった。

「な、なんだ!」

 とっさに対応したひとりの男の魔術師が魔術を発動させて火の弾をツタに向けて撃ち放つ。だが、ツタはまるで蛇のようにその攻撃を器用にかわして魔術を発動させた男に向かっていく。もう一度、魔術を発動させようと十字架をカードに打ちつけようとするがその前に男の足にツタが巻きついて男を引っ張る。その力はすさまじく男は簡単に空中に持ち上げられた。

 慌てて他の仲間が助けようとするが次々と魔術を発動する前に無数のツタにつかまって緑の物体のほうへと引きづられる。

「や、やめてください!ユーリヤさん!」

 ひとりの男の魔術師がユーリヤに声を掛けるが、それを聞いたユーリヤの返答はこうだった。

「死ネバいい」

 その瞬間、ユーリヤに声を掛けた男の魔術師が空中で振り回される。緑の物体が口を多く開く。そして、振り回していた男を大きく振り上げる。目の回った男はただ自然の摂理に従って落下していく。落下先は緑の物体の口の中だった。

「何してるの!」

 地面を蹴って走り出す。剣の魔術を発動させる。氷属性の魔術。剣を突くと同時に氷の槍が緑の物体に向かって飛んでいく。その軌道は間違いなく緑の物体へと向かっていく。直撃コースだった。だが、そのコースに割って入るように炎を宿した槍を構える白い修道服の女がいた。

「ユーリヤ!やめなさい!」

「邪魔するナ。死なセるこトがでキナい」

 炎の槍を氷の槍を弾き飛ばすように振り飛ばした。砕けた氷の結晶が炎によって溶けていって消えてなくなる。溶けきっていない氷と解けた氷からできた水が太陽の光に反射して粒子のようにユーリヤの周りで輝く。お世辞にもその光景がきれいだと思えてしまった。だが、落下中の男が緑の物体の口の中に落下した瞬間、口を閉じた緑の物体から赤い液体が噴水のように辺りを赤く染める。ユーリヤの周りが輝く粒子から赤く染まる。

 その光景は遺跡の天井に描かれていた光景と類似する。

「ユーリヤぁぁぁぁぁ!!」

 ユーリヤに直接斬りかかりに向かう。

 砂漠の上は踏ん張りが利かない。だから、わたしの戦いやすいフィールドを作る。他の部下を持ち上げたまま残りのツタが私を捕まえようと迫ってくる。剣の魔術を発動させて突き生成されて飛んでいく氷の槍を上空に向かって飛ばしていく。だが、その攻撃は当たることなくかわされてツタは私に向かってくる。

「そんなことは十分承知の上!」

 剣先をツタに向けて剣を握っていない左手を腰に回す。これがわたしの戦うスタイル。剣の刃に氷が宿っていく。この氷が突きと同時に氷の槍となって飛んでいく。だが、突きでないと氷の槍としては飛んでいかない。横切りや縦切りでも氷の塊として飛んでは行くものの威力は突きと比べて圧倒的に低い。でも、斬撃に沿って氷の塊を飛ばすだけがこの剣の能力じゃない。

「行くよ。キャリー」

 剣の名前を呟く。

 迫るツタに刃の腹を滑らせるように氷に触れるとツタの動きが鈍っていって凍りつく。そこに背中に手を回していた左手を囲むように物理結界を発動させて凍ったツタを殴りかかる。物理結界の硬さが凍ったツタを粉々に砕く。そこに迫るツタを殴った勢いを殺さずに一回転してかわす。ツタは私の背中をすれすれのところを通る。回転の勢いを殺さずに氷が宿ったままの剣をツタの上で滑らせると同じようにツタが凍って回転の勢いが残ったままの物理結界の左拳を振り上げてツタを粉々に壊す。そして、右足を大きく踏み出して連続の突き攻撃を繰り出す。繰り出した分だけ氷の槍が生成されてツタに迫っていく。いくつかがツタに当たって凍りつく。後から撃ち放たれた氷の槍の衝撃でツタが砕ける。

 これで繰り出されたツタをすべて打ち落としたことになった。しかし、ツタの数は減る気配を見せない。きりがないのは分かっている。すぐにあの本体の緑の物体かユーリヤをとめなければならない。そのためには近づかなければならない。

 でも、それに関してはもう手をうってある。

「私が無意味に氷の槍を撃ちはなったと思う?」

 最初にツタを打ち落とそうとした氷の槍が次々と砂漠後に落下してきて刺さる。そして、刺さったところから砂漠が凍りついていく。

「行くわよ!」

 左手で別の魔術を発動させる。それに気付いた緑の物体が一斉にツタを私に向かわせるがもう遅い。

「発動!氷の舞台場アイス・フィールドステージ!」

 魔術の宿った左手のひらを砂漠の大地を叩くように触れると私にしては珍しく五芒星の陣が青白い光を発して浮かび上がると陣を中心にあたり一面が一斉に氷が張っていく。それはユーリヤと緑の物体をも飲み込んだ。氷がユーリヤの靴を地面といっしょに凍りつける。

「動きが止まった!」

 勢いをつけて一気に滑る。ツタはそのスピードには着いていけずに私を捕まえ損ねる。ばら撒いた氷の槍がいい中継役になってくれて氷の舞台場アイス・フィールドステージの範囲が非常に広くなった。この場合、始めに魔術師たちがやる行動はひとつだ。

 凍りついて動けないから靴底と地面の氷を溶かす壊すことをする。案の定、ユーリヤも握る槍に炎が宿る。そして、その槍を地面に刺して周りの氷を溶かす。するとその熱で溶けた氷が蒸気となって周りの視界をくらませる。

「そこ!」

 蒸気ごとユーリヤに突きかかる。反応できたとしても氷の上を滑った勢いが上乗せされた斬撃を簡単には対処できない。

 蒸気の向こうのユーリヤに突きかかるとユーリヤは握っていたもう一本の槍。風属性魔術が搭載された槍で私の攻撃を防ぐ。

「まだ!」

 鎌状になっている風属性の槍を上で刃を滑らせて鎌の刃に刃同士を引っ掛けて勢いのまま振りぬく。突っ込んで来た勢いと振りぬく勢いがプラスされてユーリヤは風属性の槍が弾き飛ばされた。そのまま、ユーリヤの頭の上を飛び越えて背後に着地する。ユーリヤが氷を溶かしてくれたおかげで踏ん張りが利いて重くて早い攻撃を繰り出せる。ユーリヤは背を向けている。右手の火属性魔術の槍は今地面から抜いたばかりだ。左手に別の属性魔術が搭載された新しい槍を取り出して私の斬撃を防ぐよりも私の斬撃のほうが早い自信がある。ユーリヤに斬りかかることは容易だ。

 容赦なく突きかかる。

 だが、次の瞬間何か私の左から向かってきてその勢いに負けて突き飛ばされる。運悪くまだ残っていた氷の舞台場アイス・フィールドステージの上に落下してユーリヤとの距離が開いてしまった。地面に剣を刺して勢いを殺して立ち上がる。私を突き飛ばした何かは人だった。さっき、ツタに捕まったユーリヤの部下だった。緑の物体はそのまま私を突き飛ばすのに使った部下を口の中に運んだ。

「やめろぉぉぉぉ!!」

 とっさに氷の槍を飛ばしたがユーリヤが取り出した新しい槍によって粉砕されてしまった。粉砕された氷の向こうでガラベーヤを着た男がこっちを見て手を伸ばしていた。そして、声を発していた。聞き取れなかったけど、口で何を言っているかわかってしまった。

「助けてくれ」

 私は思わず手を伸ばした。

「ま!」

 だが、その男は伸ばした腕だけを残して食べられてしまった。残った力なく砂の上に落ちた腕だけだった。

 隣のユーリヤは何も感じていない。ただ、ずっと、

「みンな死ネばいいんダ」

 ただ、それだけを繰り返した。

 そして、残りのツタに捕まった部下たちが次々と緑の物体の口の中に放られた。

「やめろ!ユーリヤ!」

 私は自分の体の負荷なんて考えず躊躇なく筋力増強術(ドーピング)を発動させて脚力を強化して足元の氷を破って飛び上がって放り込まれそうになっているユーリヤの部下たちを助けに入る。だが、それを妨害するように炎の宿った十字の槍が私に向かって飛んできた。とっさに自分の命を守るためにその攻撃を剣で防いだ。そのせいで私は目的を達成することできずに砂の上に落下する。

 すぐに立ち上がると緑の物体は口をもぐもぐとしていて何かを噛み砕いていた。

「それが・・・・・それが人の死に方か!!」

 怒りが頂点に上る。もう、ユーリヤが死のうが生きようが知ったことじゃない。これ以上、人があんなむごい死に方をして死ぬのは見ていられない。

「止める!私はロズの力で!」

 地面を蹴って緑に物体に切りかかりに行こうとした瞬間だった。砂の下から何かが私の足に巻きついた。

「な!」

 見ると緑の物体のツタだった。

 中吊りにされるように持ち上げられるが、剣ですぐにツタを切り落として拘束から逃れる。落下中に着地するために足を地面に向けているときに隙が生まれた。それを狙ってユーリヤが迫ってきった。

「なに!」

 ツタが足場となってユーリヤを一気に距離を詰めてきた。しかも、握っている槍は両刃の剣の槍。つまり、氷属性とは相性の悪い雷属性の魔武だ。

 剣を縦にして横切りしてくる斬撃を防ぐ。だが、そのキレと重さは明らかにユーリヤのものじゃなかった。吹き飛ばされて再び砂埃を上げて砂の上に落下する。そこに追い討ちをかけるようにユーリヤが刺しにかかってくる。私は飛び退いて何とかその攻撃を逃れる。ユーリヤはすぐに槍を引き抜いて斬りかかる。それを弾いて逆に斬りかかるが簡単に防がれる。ユーリヤは弾くことはせずに押し込んできて刃ではないほうの棒で私の足の甲を突く。激痛と共にバランスが崩れて押し合いに負けて弾き飛ばされる。そこにつきかかってくる。倒れそうになるのを必死にこらえて突き攻撃を何とか防ぐもその後に横に振りぬかれる。その勢いを殺すことも逃がすこともできずに弾き飛ばされる。そして、剣が手から滑り落ちて砂の上を滑っていく。

「あなた本当にユーリヤ?」

 ユーリヤは戦闘において積極的に前に出てくることはない。属性戦士の育成をしていたときに前に出て痛い目に合って以来進んで戦うようなことはしなくなったらしい。だからといって戦闘に備えて槍を扱う鍛錬をしている様子はない。ならば、なぜ私の剣技のスピードについてこられる。しかも、そこから反撃を加えられる。

 その背後に見えるのは緑色のツタと根の物体。

「お前のせいか!古代魔術兵器!」

 剣を失った剣士はなす術がない。だが、そのくらいで死ぬようなほど柔ではないことは自覚している。

 両刃の槍に雷が宿って空気を斬るように振り下ろされる前に私は一歩飛び出して槍の持ち手の柄の部分を掴みかかる。刃は振り下ろされることなく天を向いたままだ。ユーリヤが強引に振り下ろそうとするが私は両手でそれを阻止する。

槍は剣よりも間合いが広く攻撃の範囲も広い分、欠点もある。それは体同士が接触するくらい近づかれると攻撃ができないということ。槍の持ち手を掴んで一歩踏み込んでユーリヤに頭突きをお見舞いするとふらついた。すぐに左手で氷属性魔術を発動させる。剣を手放してしまったときに使う氷属性魔術。氷の剣。それでバランスを崩して無防備になったユーリヤの胸に一筋斬り付けた。

 赤い色の血が吹き出て白い修道服が赤く染まっていく。返り血が私の薄い金色の髪も染める。

「古代魔術兵器を使っても剣で私に勝つなんてまだまだ早い!」

 そのまま倒れるユーリヤを緑色の物体のツタが支える。

 私は緑色の物体を警戒して下がる。そして、落とした剣を手に取る。

 そして、威嚇するように咆える。緑色の唾液を撒き散らしながら。あれを浴びるくらいなら血を浴びたほうがましだと目元近くに垂れる血を裾で拭き取る。

「みンな死ね。死ね死ネ死ね死ね死ネ。そうスれバ、私が強イ。一番強い」

 ぽたぽたと血が滴り垂れるのにユーリヤは立ち続ける。

「いい加減に倒れなさい」

 剣を構える。ユーリヤがかわいそうだとは思わない。今までやって来た悪行の罰がまとめて返って来ただけだ。人を実験動物みたいに扱って命をおもちゃみたい扱う目の前の悪魔のような女がどうなろうが私の知ったことじゃない。

「だが、これ以上他人を傷つけるな!」

 再びユーリヤと剣をぶつけるつもりで踏み込むと緑の物体が大きく口を開けると辺りの砂ごと一気に空気を吸い込む。まるで竜巻のように吸い込まれそうになるのを必死にこらえる。だが、これは不味いと感じた。

 緑の物体は大量の空気を吸い込み終わるとそれを一時腹にためる。

「風殺烈風」

 ユーリヤが槍を振ると同時に緑の物体が地面にツタを刺して自分を地面に固定して大きく頭を振るようにして口を開けて吸い込んだ空気を吐き出した。まるで空気を切り裂いているような爆風が吐き出されて砂漠の大地を削る。

 私は吸い込まれるためにこらえていたせいで逃げられる態勢じゃない。

 よけられない。だからって今から魔術防壁や反鏡魔術の結界を発動させたところで古代魔術兵器から放たれた攻撃から自分を守ることは簡単なことじゃない。100%結界が先に悲鳴をあげて壊れる。そうなれば自分のみが無事ではすまない。結界で一時的に持ちこたえている間に逃げることもできない。

あ。これ無理だ。こんなの喰らって生きていられるわけない。

「ロズ」

 そっちにいるなら会えるかな。

 すると目の前にロズの姿が浮かんだ。頭に黒のシルクハットに茶色の綿の長ズボンに革靴、Tシャツに前ボタンを全開にした黒の長そでジャケットを羽織っている。その姿はまさに私の知るロズだ。半透明で向こう側が透けて見えた想い人は振り返ると私の額にでこピンをして笑った。痛みは感じなかったでも彼は語らずして私に自分の意思を伝えた。

「諦めるにはまだ早い」

 私は無駄でもいいからと魔術防壁と反鏡魔術を用意した。少しでも生きるために。この世界のどこかで生きているロズのために。私はその衝撃波に歯向かうように一歩前に出た。

 そして、それは突然だった。砂埃を上げて勢いよく滑るように割り込んできたその影に私は目を奪われた。その影はあの人と一致したからだ。私のピンチには必ずって言うほど駆けつけて私を助けてくれた。私のたったひとりの想い人。

「息を止めて目をつぶれ!耳もふさげ!早く!」

 言われるがままに息を止めて目をつぶって耳を塞ぐ。かすかに聞こえた国分教太の声はこうだ。

真空の空間ヴァキュアー・フィールド!」

 その瞬間、緑の物体から吐き出された衝撃波の音が聞こえなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ