剛炎④
雷属性魔術とは
属性魔術のひとつ。
水、氷属性を得意とし、風、土属性を苦手とする。
ある程度防御力もあり攻撃力も属性魔術トップクラスだが、扱いが難しく雷を飛ばして目標物に当てるのは至難の業だ。
「教太さん!大丈夫ですか!」
「大丈夫だ。ただのやけどだ」
「本当にその程度で済んでよかった」
アキも霧也も俺の様子を見て一安心のようだ。霧也もやけど負ったがアキの治療によって腕だけにまだ包帯が巻かれているだけだ。対して俺はまだ両腕動かすとひりひりと痛む。拳吉の家来のひとりが魔術で作ってくれた氷で冷やしながら回復魔術を全開で治療しているからそのうち治るだろう。
焼け野原となった森だがアキの住む家だけは無事に済んでいた。焼けた森は元の原形をとどめておらずひどいありさまとなっている。
「・・・・・あれがフレイナ・・・・・か」
「・・・・・そうです」
「マジで勘弁してくれよ。どうしようもない強さじゃねーか」
一切歯が立たなかった。一体、シンは・・・・・ゴミクズはどれだけ強かったんだよ。あのフレイナという女と肩を並べていたとか、しかも一度やりあった時はフレイナが劣勢だったとかこの力をどうやって使えばあのフレイナを劣勢にできるんだよ。
「教太さんは見ていましたか?」
「何をだ?」
「秋奈さんがフレイナさんに対抗した時です」
やっぱり、俺をかばうためにフレイナと戦っていたのか、あいつ。
その美嶋は部屋の隅っこで拳吉の家来のひとりに治療してもらっている最中だ。怪我よりもかなり美嶋は放心状態で精神的に不安定になっているようだった。何があったのか。それはアキが今から言ってくれることを聞いて知った。
「秋奈さんはフレイナさんの炎に勝つために水、土属性魔術を使いました」
「属性的にはどっちも火に有効だな」
「はい。ですが、フレイナさんは無傷です。これが何を意味するか分かりますか?」
「・・・・・無傷ってことは利いてなかったて言うのか?火属性に対して水も土も?」
「はい」
「どういうことだよ」
魔術には法則性があって火は水と土に弱いはずだ。でも、霧也は一度不利な属性を相手にしても技術で対抗していた。フレイナもその部類なのか?
だが、アキの回答は俺の予想とは違った。
「フレイナさんはその強すぎる火属性攻撃は属性魔術の理念が通用しないんです」
「・・・・・はぁ?」
「つまり、火が強すぎるんです。水属性魔術で火を消しに行こうとしてもその前に水が火の熱で蒸発して消されてしまう。土属性で消しに行こうとしてもその熱で土を溶かしてしまう」
「待て待て。どういう意味だよ。もしかして、フレイナの使っている炎は火属性魔術じゃないのか?」
弱点属性が意味ないって規格外すぎるだろ。それは美嶋の属性魔術が同時発動できるって言う法則性の外れ方と同じじゃないか。まさか、フレイナの俺の持っている教術と同じ神の法則だって言うのか?俺の世界の住民が当たり前だと思っている何かを利用した教術だというのか?
「そんなことはありません。フレイナさんの使う教術は正真正銘、火属性の教術です」
しばしの沈黙が支配する。
じゃあ、何だって言うんだよ。
「フレイナさんのような属性魔術の概念を無視する強い属性魔術のことを規格外と呼びます。一応、概念には沿うんですよ。実際にフレイナさんの攻撃は水、土属性魔術で弱めることも防ぐこともできます。ただ、同じ属性魔術を使えるランクBクラス以上の魔術師が複数いないとたぶん無理だと思うんですけど」
その強力すぎる火属性は属性魔術の概念を燃やし尽くす。それはまさかに規格外そのものだ。
「ちょっと待てよ」
フレイナさんのようなっというアキの言い方に俺は引っ掛かりを覚えた。
「まさかだけど、その規格外に入るような奴がフレイナの他にもいるとかないよな?」
アキはすぐには答えない。すると今まで黙っていた霧也がそれに代わって答える。
「いるぞ。フレイナ以外にも」
「マジか・・・・・・」
そんな奴が俺の世界にやってきたら俺は守れるだろうか。俺の世界に魔術の存在を知られないように誰も殺さずにことを収めることができるだろうか?フレイナの強さを目の前にして自信がなくなって来た。世界は広い。まさに神の領域だな。
「教太!」
腕を組んだまま焼け野原となった森を見ながら拳吉が俺のことを呼ぶ。
「世界は広く、教太の知らない力は多く存在する。実際、ワシの知らない力も魔女と呼ばれたアキナにも知らない力がまだまだ魔術には多く存在する。その驚きはこの魔術の世界において当たり前のことだ」
その拳吉の言葉に誰もが共感しているようだった。
「今もこの瞬間、新しい魔術が生まれているかもしれない。無限にある魔術をすべて把握するのは不可能だ。だから、教太は驚く必要は何もない。力が通用しなくてくじける必要はない。ただ、自分の力が通用する領域をしっかり把握する必要がある。その力で出来ることとできないことを知る必要がある」
森の方から拳吉の家来のひとりが何かを報告すると拳吉は頷いた。
「焦る必要はない。誰にも代えられない教太だけの考えを貫き通せ。それが人の領域だ」
そう言うと拳吉は家来を引き連れてどこかに行ってしまった。
俺の考え。魔術の俺の世界に広めないこと。誰も殺させないこと。これは考えというよりも信念だ。拳吉が言うような力の平等、MMが言うような力の理解、フレイナの言うような力の使用。
俺にとって力とはなんだ?
「俺にとって力とは希望だ」
無から俺を有にしてくれた。一度、死んでしまった美嶋を生き返らせてくれた。報われない非魔術師を救えた。それはこの力があったからこそできたことだ。いくら、この世界の負の連鎖の力であっても俺にとっては希望なんだ。




