砂の遺跡で⑨
遺跡の中にあった石レンガでできた住居の中は石造りのせいでその戸の明かりが入ってこないせいで暗くてひんやりとした空気が漂っている。その地べたに麻でできたシートが引いてあってそこに俺は座らされる。
「ろくなおもてなしもできなく申し訳ないです」
とズーランのばあさんが水を持ってきてくれた。この地では貴重な水だ。客に振舞うのはその貴重な水でもてなすのはなんとなく分かる。それを口にして家の中を見渡す。生活観のあふれる家だ。部屋の隅には薪が積み上げられていてまるで囲炉裏のようなものがあってそこに金網が置かれてその上に古いなべが置かれていてそれで料理をするのだろう。
エルとズーランのばあさんが俺と向かい合うように座る。そして、今まで見せなかった笑顔になる。
「それで国分教太様はこの辺境の地にどのような御用で?」
俺がこの地にやってきた理由。
ズーランのばあさんは俺を完全に神の何かだと思っている。待遇も今までとは違う。ならば、直球に聞いてしまってもいいか?いや、信用していいか分からない。さっきまで俺をコケにしてきた。この地を守るという使命に対する使命感が非常に強い。簡単に信用して言い訳がない。
「俺がこの地に来たのは確認したいことがあったからだ。君たちなら知っているんじゃないかと思ったんだ」
「知りたいこと?神の力を使うあなた様なら知らないことはないでしょう」
「知らないことくらいある。いくら、神の力を使っているからといっても俺は元は人間だ。ズーランさんやそこのエルと同じ人間だ。神の法則のことを知っていても知らないことくらいはある。例えば、君らの年齢とか血液型とか生年月日とか」
それを知っているというのならそれは全知全能の本物の神様だ。
そのことに対して冷静に納得したようなズーランのばあさんは俺に問う。
「知りたいこととはなんですか?」
「神の法則を知っている人間はどのくらいこの世界にいる?」
それはシンも含まれるが他にもいる気がした。神の法則を理解するのは魔術師や教術師には難しい。だから、埋もれてしまっているだけで神術を使う教術が点在しているんじゃないかって俺が思う。
その問いに対するズーランのばあさんの答えはこうだ。
「います」
「・・・・・・名前を教えてもらってもいいか?」
核心に迫る。
「・・・・・・それはできませぬ」
「なんで?」
「神の力は非常に強力で大きすぎるものです。合わされば大きな災いを起こしかねないものなのです。ワシらが守るこの遺跡にかかれた文献によれば神の力の同時のぶつかり合いのせいでこの地を死の砂漠へと変えてしまったという言い伝えがあります。名を知れば互いに自らが神の力の保有者であることを認識しぶつかり合うでしょう。ですが、知らばければ災いは起こる可能性が低くなる。だから、この地に来た神の力の持ち主の名は誰にも教えない。それがこの地を守るのと平衡して行ってきたワシらの使命なのです」
大きな力が合わされば災いが大きくなる。今まで関わってきた大きな力。それは神の法則とは何の関係のない魔術や教術だったが、大きすぎる力は単体でも回り与える被害は大きい。例えば、4大教術師のフレイナやランクSの規格外の魔術師風夏だ。フレイナは強すぎる火属性の教術がすべてを燃やし尽くす。風夏はその一撃で戦いを終わらせることができてしまう。そんな力が合わさればどんな被害が出るか予想できない。
この地で神の法則にまつわることを守ってきたからこそ、知っていることなんだろう。力同士のぶつかり合いで起こる悲劇を。
「なら、俺が知っている神の力の持ち主がここに来たかどうかを教えて欲しい。俺がすでに知っていることならばお前たちが防ごうにもこの外で起きてしまったことだから仕方ないだろ」
ズーランのばあさんはどうしたものかと目線をはずして手に握る杖を手の上でまわしながら考える。そして、まわすのをやめて握ってから答える。
「ワシらはこの地を拠点に神の力の流出と遺跡を守ることが使命であります。外で起きることに関してそれを防ぐことは難しいものです。分かりました。その名前の人物がここに来たかどうかだけはお教えしましょう」
さて、どちらの名前を聞くか?アレンか?シンか?
ここは神の法則の力といえば絶対に出てくる王道の名前で行こう。
「シン・エルズーランはここに来たか?」
エルとズーランのばあさんの名前が入った男の名前。俺が所有する力の持ち主だ。
ズーランのばあさんの答えはこうだ。
「知りません。そんな男」
それは俺にとっての予想外の答えだった。
「え?知らないのか?魔術師、教術師の間では知らない奴はいないだろうってくらい有名な神の法則に守られた力を使った教術師だぞ」
それでもズーランのばあさんは首を横に振って知らないことをアピールする。エルのほうにも視線を送るが首をかしげてわからないアピールをしてくる。エルの雰囲気からして嘘をつけるような子じゃない。ならば、このふたりは本当にシン・エルズーランのことを知らないということになる。
「なら、アレンって男を知っているか?」
エルが肩をびくつかせる。ズーランのばあさんの表情も変わる。
「知っています」
「・・・・・どんな男だった?」
アレンって男がシンで、シンがゴミクズならアレンって男の特徴が分かればそいつがシンでゴミクズってことになる。・・・・・ややこしいなと自分で思う。
「一言で言えば陽気な男でした。神の力を持っていると思わないほどオープンでその態度でいいのかと疑問を感じました。しかし、あの方のおかげでエルは神の力を手に入れ神の巫女となることが出来た」
ゴミクズは陽気かと言われたら陽気かもしない。だが、それだけでは分からない。もう少し絞らないと。例えば、どんな力を使ったとかどんな見た目をしていたとか。それを聞きだす前にズーランのばあさんが俺の行く手を防ぐ。
「ですが、アレンがどんな力を使ってどんなお方だったのかをお伝えすることはできません。知れば、力同士が引き合って災いを引き起こしてしまいます。それを防ぐためにも国分教太様も自分の力の原理をあまり言いふらすことを控えた方がよいです」
シンは控えているかといえばそうでもなかった気がする。アキにも自分の力が神の法則に守られた力だと教えていたみたいだし、4大教術師ということもあってかその力がどんな効力を持っているか知れ渡っていた。だが、それで神の法則を理解したものはほぼいない。
「ひとつ気になったのが神の力っていうものは他の神の力が関与すると手に入れられるものなのか?」
いくら神の法則を理解していたとしてもそれに関わる魔術、教術を持っていなければ意味がない。例えば、神の法則と思われる物理学の考えを持つレナは非魔術師だから魔術は使えない。神術を使うことはできない。この例をとれば神の法則を知ったからといってその力が使えるとは限らない。
「神の巫女として力を得たのには理由があります。同じ神術を使うものとして知っていて損はありません。というよりもほとんどのここに訪れた神術の使い手たちは裏の遺跡を見にやってきました」
俺と同じじゃないか。同じ力を持つもの同士引き合うものがあるのだろう。
「行きますか?遺跡のほうへ―――神の法則が眠る神の領域に」




