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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
無の領域
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砂の遺跡で⑧

 ポリタンクを背負って砂漠を越えるというのは想像以上にきついことだ。踏ん張りの利かない砂漠の上をさらに思い荷物がのしかかる。男の俺ですらも砂漠に出て数分足らずで音を上げてしまいそうだ。だが、先導する少女はこれを毎日のように繰り返していた。俺よりも小さくて華奢な体で。

「・・・・・大丈夫?」

「心配するな!大丈夫だから!」

 と強がるが実際は助けて欲しいがこの程度で音を上げているようでは男ではない。

「普段なら・・・・・こっそり力で・・・・・砂の上を滑るように」

「もう無理。運べない」

 だと思ったよ!じゃなかったらその小さくて細い体のどこにそんなパワーがあるんだよってつっこみたくなるわ!

 エルの砂を操る教術を使って砂漠の上をまるでサーフィンでもしているかのように進む。確かにこれだったら楽に進むことができる。

「でも、どうして俺を遺跡に入れるかもしれないんだ?」

 確かに俺は神の法則を知っているが勝手に神の聖域とか言うところに侵入した罰当たりだ。エルの言う神様の近い考えを持っているとはいえ入れていいものなのだろうか?

「・・・・・教太は・・・・・アレンのときと・・・・・同じ」

「同じ?」

 もしも、そのアレンって男がシン・エルズーランなのならば確かに俺とあいつの力は同じだ。だが、俺はエルの目の前でシンの力をはっきりとした形で見ていない。近くに俺を探すイギリス魔術結社の七賢人がいるということもあってなるべく使うことを控えている。だから、エルは俺がシンの力を、神術を使うことを知らない。

「アレンも・・・・・知ってた。神の・・・・・法則」

「え?」

「でも、力は・・・・・なかった。だから・・・・・神様はアレンに・・・・・力を与え・・・・・た」

 シンは元から神の法則を知っていた。でも、力を持っていなかった。

 どういうことだ?神術というのは神の法則さえ理解していれば使うことができる。シンはここで神の法則を知ったわけじゃないのか?そもそも、俺はまだそのアレンって男がシンと確定したわけじゃない。聞き出すときは冷静に遠回りにしよう。焦る必要もない。

 砂の山を越えると遺跡が見えてきた。それを確認してエルは砂を操るのをやめる。許可なく使うことを許されていないのでここから歩きだろう。エルが歩き出すのを見てからその後を追うように俺も歩き出す。

 すると門のところで俺たちが始めて遺跡を訪れたときと同じようにズーランのばあさんが侵入を拒むように立っていた。

「エル!その部外者をなぜ連れてきた!」

 杖を突きつけて殴る勢いでエルに迫る。だが、エルはひるまなかった。

「部外者・・・・・じゃない」

「部外者じゃ!昨夜、神の聖域に無断に立ち入り遺跡の中へ入ろうとしたではないか!許可せず入ったものへの天罰もこいつらは喰らっている!つまり、神はこやつらを部外者!神の敵であると神が告げたのじゃぞ!」

 天罰というのは昨日の勝手に発動した風属性魔術の攻撃だろう。

「違うの・・・・・聞いて」

「聞いておられるか!神の巫女の力を使って今すぐこいつを殺せ!砂漠の砂の一部にしてやるのじゃ!いや、それだけでは物足りぬ!首だけを残して首を街に見せしめにしてやろう!二度とこの神の神聖なる場所に人を寄せ付けぬように」

「ズーランおばあちゃん」

「神の巫女は神のために神の宝といってもいいこの地を守る必要があるんじゃ!それを脅かすものにどんな天罰が下っても仕方のないことじゃ!死んで地獄でその罪に一生泣いて謝ったところで許しを超えるものじゃないのじゃ!だから!エル!そいつを殺せ!」

「彼は・・・・・神の法則を知ってる」

 その事実に口数の多かったズーランのばあさんが急に話すのをやめた。

「エル。こいつが神の法則を知っているじゃと?」

 自信を持ってエルはうなずくが、俺は神の法則を完全に理解したわけじゃない。完全に理解したのならば俺の使うシンの力は100%使えるようになっていてもおかしくない。だが、事実俺はシンの力を半分程度しか使えていない。

「ならば、教えてもらおうか。神の法則というものを」

 突きつけていた杖を地面に刺すようにして砂の地を叩く。

 俺は水の入ったポリタンクを下ろしてから話す。この間に何を話せばいいのかを頭の中で整理する。

 俺はまだ神の法則がなんなのか整理がついていない。神の法則は科学なのか物理なのか、それとも魔術で説明できないところを無責任に結論付けるための法則なのか。どれなのか分かっていない。ならば、分かる範囲で言うしかない。ゴミクズは俺の言う神の法則が間違っていないといった。正解ではないが不正解でもないということだ。それにエルは俺が神の法則を知っていると確信したのはエルの力のことを俺が見破ったからだ。ならば、言うことは限られてくる。

「エルの使う力は神術というものだ。神の法則に守られた教術のことだ。彼女の使う神術は砂を操る力だ。でも、魔力で生成した砂を操っているんじゃない。それだとただの魔術だ。彼女が操る砂は砂漠の砂だ。神の法則に守られた教術は自然界に存在するものを操る力のことだ」

 俺の創造する力。雷を作ったり衝撃波を起こしたりするのも自然現象を、元素を操って起こしているだけに過ぎない。魔術師から見ればそれは雷属性魔術であり、風属性魔術である。だが、どちらも魔力から生まれたものじゃない。魔力を使って自然現象を起こす。または自然に存在するものを操る。これが神の法則に守られた教術だ。

 俺の出した答えにズーランのばあさんはしばらくうつむいたまま黙っていた。隣にいるエルも心配そうな表情を浮かべていたがそれもほんの数秒の心配だった。

「おぬし。名前はなんと言う?」

「・・・・・国分教太」

「そうか。国分教太様」

 突然、ズーランおばあさんが俺の前でひざまずいた。

「先ほどは無礼な行為をしてしまい大変申し訳ない」

 と下手に謝ってきた。

「え?いや、大丈夫だから顔を上げてくれ」

「いえ。あなた様のような方に無礼な行為をしてしまい申し訳ない。おい!エル!神の巫女である貴様がなぜあのような方に荷物運びをさせたおる!貴様が運ばないか!」

 杖を振りかざして叩こうとするのをすかさず俺が止める。

「叩く必要はない。俺がやりたくてやったんだ」

 俺の言葉に頭に上ってきていた血を引かせて落ち着く。

「申し訳ありません。どうぞ、中へ」

 ズーランのばあさんが俺を遺跡の中へ招きいれた。これで俺は知ることができる。ここに来た目的。シンの痕跡を求めて進む。

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