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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
無の領域
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砂の街で⑦

 魔術は初めに二種類に分けることができる。属性魔術と無属性魔術だ。属性魔術は火、水、雷、風、氷、土、龍の7種類存在していてそれぞれに特徴があって優劣もある。もうひとつが無属性魔術でこれは光属性と闇属性に分けられる。主に攻撃することを目的とする無属性魔術を闇属性に分類することがあるがその辺りは魔術師の感覚になる。

 そして、魔術から生まれる火や水などは起源を辿っていけば魔力になる。魔力が陣というフィルターを通して火になっている。

「エルはその魔力を土属性の砂に変換するという工程を飛ばしているように感じましたぁ」

「工程を飛ばしているってどういうことだ?」

 俺たちは砂漠の上を逃げるように走って町まで戻ってきて適当なところで休憩のために腰を下ろしている。俺とハンナは冷静に近くのベンチに座ってキュリーさんとレイランは近くの街頭の下で何か言い争っている。原因はキュリーさんがレイランを蹴り飛ばしたことだろう。そんなふたりをよそに俺はハンナの話を聞く。

「魔術は陣を中心に広がっていくものですぅ。基本的にそのことに例外はないですぅ」

 魔術は陣を中心にしているということは神の法則に守られたシンの力を使う俺にも分かる。破壊の力もすべて浮かび上がる陣を中心に広がっている。魔術には発生源がある。

「それに対してあの魔術か教術かは知らないですけど、あの砂の魔術を発動させたのはエルって子みたいですぅ」

 ハンナには俺たちが昨日遺跡を訪れたときにエルが土属性の教術を屈指して攻撃してきたことを事前に伝えていた。エルは自分が神に仕える巫女だといっていた。そして、ズーランのばあさんは巫女の力がどうとか言っていた。つまり、ズーランのばあさんはエルに攻撃するように命令した。エル自身がズーランのばあさんを守るためにあんなズーランのばあさんが教術を使っているような砂の展開の仕方をした。

「あのおばあさんの周りの砂が生き物みたいに動きましたぁ。でも、陣はそこにはありませんでしたぁ」

「砂の下に陣が発生したとか?」

「それは絶対ないですぅ」

 即答で否定された。

「陣というのは魔力が供給されないと浮かび上がらないものですぅ。魔力は人が触れないと流れないものなんですぅ。砂の中に陣を浮かべるとしたら魔術師が砂の中に手を突っ込む必要がありますぅ」

 もちろんそんな間抜けなことをズーランのばあさんはやっていない。

「おそらくですけど、陣を浮かべて接触した砂を操る魔術なのかもしれないですぅ」

 触れた砂には魔力が宿ることになる。それによって砂は魔術師の手足のように操れる・

「でも、砂を操るっていう魔術は存在するのか?」

 ふとした疑問にハンナは。

「分からないですぅ。この世界には魔女である私には分からない魔術のひとつやふたつありますぅ」

 ハンナの話ではこの世界で使われている魔術は全体の3割程度でほとんどが使われていないものだという。アキはその3割に特化した魔術師でハンナは残りの7割に対する知識が豊富だが、それでもハンナが知らない魔術と言うものは存在するというのだ。

「物を操るという魔術は術者の魔力を術者と切り離して遠隔操作するというものですぅ」

 俺が今まで見てきた遠隔操作をするという魔術はイサークの部下のイズミと美嶋が使う土属性魔術の土人形がある。魔術で人形を生成してそれを自由に動かして攻撃したりする魔術だ。

「基本的には遠隔操作しているものと魔術師の間には明確なつながりはありません」

「つながりがないってどういうことだ?」

 ハンナは右手と左手の手のひらを合わせるようしているがそれには30センチほどの間があった。

「右手が魔術師で左手が遠隔操作するものですぅ。右手の魔術師が右へ動けと命令すれば左手の遠隔操作対象物は右へ動く。でも、その命令はどうやって出してその命令をどうやって了解しているのか不思議じゃないですぅ?」

 説明どおりに手を動かすが俺には何が言いたいのかさっぱりだ。

「例えば、何か紐のようなもので繋がっていてそこから命令を送る魔力を受け取った遠隔操作対象物が動くというなら分かりますぅ。動くように魔力が送られていますしぃ。でも、その紐のようなものなしで魔術師はどうやって対象物を動かしているんですぅ?」

 無線でどうやって物を動かしているのかということだ。機械なら電波を送ってそれを受信して動くというのが一般的な考えだ。でも、魔術の世界にその概念はない。

「魔力を送っているとか?目に見えないだけで」

「可能性としてはそれが最も高いですぅ。人には魔力を可視することはできません。よほど、強く大量の魔力でない限り」

 拳吉が吹き出す魔力は陽炎みたいに見えたが、きっと魔力には色とかもあるのだろう。

「微弱な魔力を遠隔操作で送っているのだとしたら魔術師は魔力を遠隔対象物に送る必要がありますぅ。それが土人形のような固体ならいいですぅ。あのエルが操る砂はどうですぅ?」

 ここで俺はようやくエルがやっている砂を操る教術の異常さに気付いた。

「まさか、砂粒ひとつひとつに魔力を送って操っているって言うのか?」

「そうですぅ。それは魔力を供給して発動する教術の中では圧倒的に非効率ですぅ」

「つまり、エルは使う教術のせいで分からないだけで・・・・・」

「かなりの高ランクの可能性がありますぅ。Sは余裕かもしれないですぅ」

 一見おとなしそうで優しそうな彼女が人が保有する魔力の量を示すランクが最大値のSの可能性。俺が今まで会ってきたランクSはどれも凶悪で強力な者たちばかりだった。

「あの狭い場所で味方のズーランのおばあさんがいる場所でなかったら、私たちはここにいることができたと思いますぅ?」

 ハンナは終始慌てる様子もなく淡々と自分の仮説を語った。これはハンナの仮説であって事実である可能性は五分五分だ。でも、あの小さくて弱そうな少女がどれだけの力を保有していると思うだけで俺は震えた。

 怖いわけじゃない。大きな力の周りには自然と強大な力が集まってくる。MMがいい例だ。あいつの周りにはフレイナがいてリンさんがいてリュウがいて、美嶋もいる。多くの強者がMMの元に集うようにエルも自分の力をもっと表に出せば今のような底辺の生活を強いられずに済んだかもしれない。そう思うと怒りが俺の中で込み上げる。

 が、その怒りの熱を冷ます一言が俺だけに聞こえる。

『本当にそうなのか?所詮、魔術師の考えだぞ』

 それはゴミクズの声だった。所詮、魔術師の考え。

 ハンナはいった。魔術師に理解できない神の法則を魔術師に聞いても無駄なことだと言っていた。だから、俺の持つ神の法則に守られたシンの力は魔術師ではなくシンの痕跡を追うことで理解することができるのではないかということで俺はここにいる。ハンナのいう可能性というものは魔術師から見た可能性だ。

 俺は見たことがある。無痛の黒い粒子を操っていくつもの武器を生成する教術師だ。

「なぁ、ハンナ」

「なんですぅ?」

「グレイって言う男を知っているか?イギリス魔術結社の七賢人なんだけど」

 ハンナは興味なさそうにあくびを欠きながら答える。

「知ってますぅ」

「ランクは?」

「ランクですかぁ?確か、B程度だったと思いますぅ」

 B程度。もしも、ハンナが言うようにエルが操る砂の一粒一粒に遠隔操作するための魔力を送っているというならエルのランクはSクラスだろう。でも、それと同じように黒い粒子を操るグレイはどうだ?ランクBだと?

「違う。エルのランクはSじゃない」

 俺の答えに驚いたようにハンナが見上げる。

 俺はエルの使う力が神術だと言っていた。もしかしたら、エルの使う教術はきっとシンの力と同じものだ。そして、俺はその神の法則に守られた教術、神術ともうすでに出会っていた。黒い粒子、鉄の操る教術師に。

「俺は明日、もう一度エルと話す。それで俺の疑問をぶつける」

 包み隠さず、すべて。

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