砂の街で⑥
日はすっかり沈んで砂漠の町の色は砂漠の砂の色の茶褐色から月の光の青白色へと変わる。気温は凍えるような寒さになる。真冬という表現までは行かないが春から夏に変わり目の梅雨の時期にエアコンのドライ機能で湿気だけを抜いたようなそんなひんやりとした感じだ。
月明かりがカーテンの隙間から差し込む部屋に俺たちは集まる。俺とハンナとキュリーさんとレイランだ。
「なんでレイランもいるのよ?」
「あたしからすればどうしてこんな砂漠の町にゴリラが?」
「誰がゴリラよ!」
「はいはい!けんかしない!」
間に入ってふたりを引き離す。けんかする前に止めておく。
「面白いですぅ」
え?何がって言う前にハンナはレイランの顔面を興味津々に触れる。
「こんな雑に女に変装する魔術なんてあるんですかぁ?」
「誰が雑に女に変装してるって!どこからどう見たって女でしょ!」
いや、どこからどう見たってオカマだろ。つーか、ハンナの興味ってそこなの?やっぱり、魔女といわれているだけあって考えが常人と外れている。レイランの化粧を変装する魔術なんて誰も思わないだろ。まぁ、時に化粧というのは男をだます魔術なのかもしれないが、レイランの場合は男から化け物へと変える魔術だな。
「教太ちゃん。記憶の中にあたしが化け物だってあるけど、どういうことかしら~」
見ないでください。記憶を。
「レイランはどうせ化け物だから今更そんなことを話し合ったところで何も解決しないわ」
「誰が化け物よ!」
いや、化け物だろ。
「それよりも今日一日の成果というか結果をそれぞれ報告しましょ」
とキュリーさんが仕切る。
「まずは魔女から」
夜のせいか今のハンナはすごく元気そうに答える。
「私はユーリヤと共に地下遺跡の調査に行ってきましたぁ。成果は特にないですぅ。ただ、あの古代魔術は魔力さえあればいつでも発動できる状態であることは私が来る前からわかっていたみたいですぅ」
「いつもで発動できるってことなのか?」
「そうですぅ。でも、地下遺跡は砂の侵食と元々脆い地盤のせいかあの魔術は一度発動させると発動の衝撃で陣が壊れてしまうかもしれないですぅ」
「つまり、事実発動できるのは一回だけってことか?」
「そうですぅ。複製することも考えて慎重に発掘作業中ですぅ」
安易に強力な古代魔術兵器を発動させる陣がどんなものなのか把握するための作業を今はこなしているということか。ユーリヤの行動からすぐにその古代魔術兵器を使ってくることはないだろう。
「レイランは?」
「あたしは町を歩いてエルの記憶の中にいたシンかもしれない人物の記憶を持った人がいないから探したわ~」
「結果は?」
「空振りよ~。もしも、シンかもしれない男を町で一度は見かけたとしても人の中に記憶として保存されない限りあたしの教術では見ることができないのよ~」
つまり、見ていたとしても覚えていなければ意味がない。
「キュリーさんは?」
「エルって子が出かけた後にズーランのおばあさんと交渉をいろいろ持ちかけたけど、ダメだったわ。その後はあのふたりが守る遺跡のことを町で聞いて回ったわ。かなり、前からズーランのおばあさんとその家族が代々守っていたものらしいわ。何度か結社の介入があったらしいけど全部断っているらしいわ」
つまり、今回が初めてイギリス魔術結社があの遺跡のことを調査しようとしたわけじゃなかった。何度か機会があってすべて拒否されて終わっているということか。
「そういう教太はどうだったのよ?エルって子には会えた?」
「ああ。会えた。それでレイランが言っていた記憶の中にいた男の名前を聞けた」
「教太の方は収穫だったみたいね~」
その後にさすがあたしの男って聞こえた気がするけど、聞こえなかったことにしよう。
「それでその男がアレンっていう名前だったらしいんだけど知ってるか?」
その場にいる全員に聞く。もしも、世界に名高い魔術師か教術師だったら知っているかもしれない。だが、そう世の中うまくいくはずもない。
「知らないわ」
「知らないですぅ」
「聞いたことないわ~」
空振りに終わった。
「それがシンかもしれないの?」
「たぶん。不確定だが神様とか呼ばれていたらしい」
「神様ですかぁ?」
「ああ。あの遺跡って言うのは基本的に外部の人間は入れないだろ」
ズーランのばあさんが俺たちを頑なに入れようとしなかったことを昨日経験済みだ。
「でも、アレンは神様だったから遺跡の中に入れた」
もはや、俺の頭がおかしいんじゃないかって思われてしまうかもしれない。でも、あのエルの感じからして嘘をついているようには思えなかった。この場の誰もが俺の報告にどう反応すれば分からずいたがひとりの常人とは感性が外れている魔女は問う。
「どうして神様なんですぅ?」
「どうしてって・・・・・」
俺はエルの言葉を思い出す。アレンという男の名前が出る前に言っていたエルの言葉。
「神術を使うとかなんとかいっていた」
「神術?」
キュリーさんが顔をしかめて首をかしげる。レイランも同じ感じで聞いたことのない単語のようだ。
「神術というのは神の法則に守られた教術のことですぅ」
ハンナはそれを告げて俺は神術について思い出す。
「例の古代魔術兵器の発動素材か」
「そうですぅ。そのせいで教太は狙われているんですぅ」
ほかにその神の法則に守られた教術略して神術というものを使う奴がいないからだ。エルは自分の力は神術だと言っていた気がする。それは自分の使う力が神の法則に守られた教術だと宣言したようなものだ。
「まさか・・・・・エルって」
「そのまさかかもですぅ。そのエルって子が神術のことを口にするということは神の法則ことを知っているということですぅ。知っているということはどこかで知ったということですぅ」
でも、それはどこで知ったのか?
「答えは簡単だ。エルとズーランのばあさんが守っている遺跡だ」
あの遺跡には神の法則に関することが眠っている。可能性は非常に高い。
「そうなるとやっぱりあの遺跡の中に入らないことには何も始まらないわ」
「でも、どうやって入るのよ~」
エルはいいかもしれないがズーランのばあさんが絶対に俺たちを入れてくれない。結局問題はあの遺跡を調査しないことには何も解決しない。悩む、俺とキュリーさんとレイランとは裏腹にハンナが立ち上がる。
「何を悩んでるんですぅ?」
「いや、完全に行き詰って」
「皆さん頭が固いですぅ。せっかくの夜なんですぅ」
せっかくの夜ってどういうことだよ。
「どうして結社が調査する遺跡でやったことを他の遺跡ではやらないんですぅ?」
・・・・・それって。
「まさか」
キュリーさんも同じことを思ったようだ。
「入ることを拒まれるのならばれないように入ればいい話しですぅ」
要するに不法侵入するということだ。神の領域に。




