砂の街で③
ユーリヤがさっきまでキュリーさんが座っていた席に俺とキュリーさんが並ぶようにベッドに座る。ユーリヤは俺の方をちらちらとは見るが目を合わせようとはしてくれない。これで俺の顔をじっくり見て俺が国分教太だって気付くのはないだろうと考えてほっとするが問題がすべて解決したわけじゃない。
「そ、それで遺跡のほうはどうだったの?」
本題を切り出してくるユーリヤ。問題はここだ。結果をどう伝えるか?具体的な案が決まらないままだ。キュリーさんなら何か答えてくれると思ったが・・・・・ベッドについた毛玉をとるのに集中していてユーリヤの話を聞いていない。ならば、レイランはどうだと目を合わせるとウィンクしてきたのでこれ以上頼るのはやめよう。本気でベッドに連れ込まれかねない。でも、俺が話し出せば俺に注目が集まって正体がばれてしまうかもしれない。さて、どうしたものか・・・・・。
「どうして皆さん黙っているんですぅ?」
ここで遺跡関係では完全に部外者のハンナが割って入ってくる。座るところがないので床にひざを抱えて座っている。眠そうにあくびをこらえながらだが、遺跡に魔術に関する情報があるかもしれないという情報が彼女の仲の睡魔を押し込めている。
「何かあったんですぅ?」
興味津々のハンナは俺たちの中心付近まで這うようにやってきて正座して俺たちを見渡す。レイランはじっと俺の方を色目で見続けてユーリヤはなぜか俺のほうに目をあわせようとしなくてキュリーさんは服の裾からほつれた糸を気にする。この場においてハンナが欲しい情報をいおうとする人物は誰一人といない。この状況に膨れっ面のハンナがキュリーさんの頬をつねる。
「痛っ!何するのよ!」
「キュリーさんが一番暇そうに見えたんですぅ」
この場で暇じゃない奴なんていない気がする。
だが、この場でハンナがキュリーさんに頼ったことはある意味正解なのかもしれない。たぶん、彼女自身は無意識かもしれないが。ハンナはユーリヤに俺の正体がばれていないことを知っているし、レイランに関しては話したことのない奴だ。それにオカマだし。そう考えるとこの場で状況報告を頼るにはキュリーに限られてくる。
「そうよ、キュリー。遺跡での調査はどうだったの?」
しばらく、悩んだキュリーさんは手に握っていた毛玉を床に捨てて再び握りこぶしを作る。一度落ち着いてから再び気を張ったのだ。
「行ったけど誰もいなかったわ」
それはキュリーさんが必死に表情にも声にもユーリヤに悟られないようにしてその場しのぎの嘘を言い張った。
「誰もいなかったってどういうことなの?」
当然、ユーリヤは疑問に思う。
「行ったけど、誰もいなかったのよ。入ろうとしても結界が張ってあって外側からは介入できない状態だったから仕方なく今日の交渉はやめたのよ」
きっと、咄嗟に考えた嘘だろう。必死さを表に出さないようにして嘘だとばれないように必死だった。それをフォローするようにレイランが続ける。
「砂漠を何もしないで往復してきたのよ~。苦労したのに収穫なしとかうんざりよ~」
それはもう行きたくないという意味だ。
「なら、次は私たちが」
ユーリヤが俺たちに頼るのをやめようとした。それはダメだと俺が出る前にレイランが出る。
「でも、面白い情報を見たわ~」
「面白い情報?それはあなたの記憶盗視で?」
レイランはうなずく。
「今、あなたたちが調べてる遺跡付近にシンがいたかもしれないって情報よ~」
それをレイランが行った瞬間、俺の全身の血が逆流するんじゃないかって思うくらいの緊張感が一気に訪れた。実際あの遺跡にいたエルの記憶の中にいた男がシンだとは決まっていない。だが、ここでシンの名前を出したことには何か意味があると信じてレイランに託す。俺もキュリーさんと同様にユーリヤに俺たちが嘘をついていることを悟られないように。
「シンがいたかもしれないってどういうことなの?」
「気になりますぅ」
俺たちが掴んだ情報を知らない素のハンナが俺たちの嘘を本物へと近づけていく。
「確定の情報じゃないわ~。でも、あなたたちに頼まれた遺跡へ行く途中でそういう記憶を見ただけよ~。あの遺跡の近くであのシン・エルズーランが何かを探していたっていうものよ~」
それはユーリヤとハンナの興味をそそるものだった。
「シンといえば神の法則に守れた教術とか言うものを使っていたわね。あれは普通の教術師や魔術師に使いこなせるはずはないわ。使いこなすことが出来るようになるんだとしたらこのあたりの遺跡で神の法則に関する情報を得たから」
「でないと教術を使うこなすシンには神の法則を理解してそのカギをはずす必要がありますぅ。そのヒントが遺跡の中にあってもおかしくないですぅ」
「もしかしたら、ユーリヤが調査している遺跡の中にもそのシンの力の情報があるかもしれないわ」
とキュリーさんが付け出して勝負はついた。
「そうね。まだ、調査も4割程度しか進んでいない。どこかにあってもおかしくない」
「あたしたちがその遺跡についてハンナちゃんも連れて調査を続行するわ~」
ハンナの両肩を掴んでハンナも巻き込む。
「そうね、魔女の知識もそっちで役立つかもしれない。なら、今後も交渉のほうは頼むわ。もしも、抵抗するようなら殺してしまっても構わないわ。責任はすべて私が取るから」
そういうと俺の方を見ないで立ち上がって部屋から出ようとする。その後姿を見て俺はほっとするが不意にユーリヤが立ち止まる。
「あ、あの、そこの少年」
俺のことである。
「べ、別に屈強な男の人が好きでも・・・・・私はそういうの好きよ」
「へ?」
そういうと駆け足で部屋から出て行った。
ユーリヤが俺とレイランがくっついているところをあからさまな拒否せずに顔を赤らめるだけだった理由が今分かってしまった。
「ユーリヤってBL好きなのか?」
とキュリーさんに尋ねるが。
「BLって何?」
無駄でした。
とにかく、一難は一度去ったわけだがこれはその場しのぎにしかなっていないことを心に留めなければならない。とりあえず、早めにエルとズーランのばあさんに事情を話さなければならない。そのためにももう一度俺たちはあの遺跡に行く必要がある。シンの痕跡を探るためにも。
「で、私は何をすればいいんですぅ?」
その前にハンナには本当のことを伝えておこう。




