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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
無の領域
125/192

砂の遺跡で⑤

「帰れー!」

 第一声がこれだ。

 とりあえず、遺跡があるであろうところは砂がはげた広場に入るための扉のない門のようなところを少女がくぐって中に入っていくのを見たのでそのあとをつけるようにその門のようなところから中に入ろうとすると俺の半分ほどの身長のばあさんが立っていた。艶を失った灰色の長い髪を後頭部に束ねて茶色の着物のような服を纏って杖を突いて今にも倒れそうな足取りだったが門の真ん中に俺たちの侵入を拒むように立ちさっきの第一声を放った。よぼよぼの体をして威勢声は俺たちの進行を阻んだ。

「いや、まずは俺の話を」

「貴様らのようなよそ者の話を聞くほどワシの耳は暇ではない!さっさこの神聖な土地から立ち去れ!」

 神聖な土地ということはやはり老人がいる奥には何かあるということだ。

「こんなやせた土地を守る理由なんてあるの?」

 たしかに周りに緑はない。さっきの褐色の少女が背負っていた水もここではまったくとることができないから運んでいたのだ。そんな不便な土地に住み続けることにどんな利点があるというのだろうか。

「ある!ここはワシらが先祖代々守ってきたものじゃぞ!そんな神聖な土地を金でなんぞで売ることなどできるわけない!知っているんじゃぞ!お前らはイギリス魔術結社の人間じゃろ!何が魔術の発展じゃ!その発展でどれだけの犠牲がこうむったと思っておるんじゃ!それ理解しないお主らと話す時間は無駄じゃ!帰れー!」

 この頑固そうなばあさんに俺はイギリス魔術結社の人間じゃないって言っても聞いてくれないだろうな。やせた土地でもそこを守るだけの価値がそこにはある。あたりを見た感じだと人の気配はしない。イギリス魔術結社と聞けば世界最大の魔術組織だ。やってくる人のほとんどが戦闘経験のある魔術師か教術師だろう。強敵かもしれないイギリス魔術結社の人員を相手するのに老婆一人だけというのはおかしい。

「・・・・・おばあちゃん」

 敷地の奥にある建物の影からあの少女が姿を現した。

「エル!出てくるな!ここはワシが受けて立つ!」

 と力強く杖を叩いて俺たちを威嚇する。

「でも、そのままでいいの~」

 と黙っていたレイランが口を開く。

「黙れ!男か女かも分からない悪魔め!」

「あたしは女よ~」

 いや、男だろ。股の下にぶら下がってるものが無事かどうか確認するような男だろ。

「あなたたちはこのやせた土地で立ったふたりで住んでいる。後ろのエルって女の子と立ったふたりでね~、ズーランおばあさん」

「なぜ、ワシの名前を・・・・・」

 記憶から読み取った情報だ。レイランの目を見るとその黒い瞳の中がかすかに虹色に輝いている。つまり、今のレイランは目の前のズーランというおばあさんと奥の褐色の少女、エルの記憶を見ている。

「あなたたちにはほかにも家族がいた。でも、毎日のように起こる砂嵐で家畜はすぐに死に絶える。水も川から囲んでこないとない乾いた土地であなたの家族は3人も死んでいる。ズーランのおばあさんの夫とエルのお父さんと妹さんかしら~」

 すると奥にいるエルが華奢で小さな拳を作ってこちらに出ようとするのを。

「エル!来るな!」

「どちらも疫病かしら~。川から汲んできた水が砂漠の高温によって菌が繁殖していた水を飲んだことによる病気。大量の血を吐き出して高温の熱を出した。一番、動くことのできるお父さんが倒れてしまった。次に妹さん。妹さんだけでも医者に見てもらおうと思って町に連れて行こうとしたおじいさんもその途中で倒れてしまった。妹さんとおじいさんが見つかったのはその3日後。そのふたりは疫病による衰弱による熱中症で死んじゃったのね~。お父さんもショックでそのまま他界してたったふたりでここに暮らしているのね~」

「人の記憶を勝手に覗くな!悪魔!」

「おい、レイラン」

 さすがに俺の良心も痛む。悲惨な過去を抱えていながらもこのふたりは使命にしたがってこの土地を守っているんだ。だから、それ以上は・・・・・。

「エルちゃんの記憶から面白いものが見えるわ~。町の人たちにあんな場所に町からはなれた砂漠の真ん中に住んでいるからあんなことが起きてしまったんだ。医者が向かったとしても部外者は敷地に入れてもらえない。結局、全員が死ぬ羽目になるじゃないか。そんな噂話とかを聞いてまでどうしてそこに暮らしてるのかしら~」

 やめろ、レイラン。

 止めようとするがキュリーさんがそれを止める。

「これがあの人たちのためにもなる」

 と俺に小声で告げた。キュリーさんは事前に知っていたようだ。あのふたりの見に起きた悲劇のことを。

 あのふたりのためにもなる。こんな不便で何か非常事態が起こったときに子供と老人だけでは危険だ。そんな危険から救うためのやさしさだ。ユーリヤの言うような強行作戦でこのふたりが殺されるよりかはきっと結果はいい方向へ進むはずだ。そう信じたかった―――。

「黙れ・・・・・お前ら」

「エル!出てくるな!」

「みんな死んだ・・・・・お前たちの・・・・・せいで」

「え?」

「ここが欲しいから・・・・・みんな殺した!」

 黒くて長い髪がほのかに逆立ちエルのこげ茶色の瞳から感じられる強い視線はまさに怒りだ。

「ん?この子?」

 レイランが何かに気付いた。

 その瞬間、エルの足元に陣が浮かび上がった。それはまさに突然の出来事だった。浮かび上がった陣は五芒星。それは俺が見慣れた教術だ。エルの足元から砂の下から何かが砂を盛り上げならすごいスピードでレイランの元へ迫ってくる。

「見るな・・・・・もう・・・・何も!」

「レイラン!」

 これは何か変だ。やばいって感触があのもの静かそうなエルから感じられた。これは根拠も何もない戦場の勘がそう告げている。左手に力をこめて龍属性の教術を発動させる。選んだのは龍属性の風属性。赤黒い筋のような風が砂を大量に巻き上げて爆発する。そして、その勢いを使ってレイランに突進するつもりで突っ込んで突き飛ばす。レイランがほんの数コンマ秒前に立っていた場所から砂の塊がものすごい勢いで飛び出してきた。風を切り裂くような音を立ててその砂の塊は空中でさらさらと砂に戻る。左手の龍属性を風属性から土属性に変える。赤黒い岩の剣を生成してその剣を地面に刺して風の勢いを殺して着地する。

「キュリーさん!」

 警告のつもりで名前を呼んだつもりだったがその手にはすでに剣が握られていた。

「レイラン!大丈夫か!」

「大丈夫だけど・・・・・」

 何か言いたそうだったがその前にズーランのおばあさんが声を張る。

「これ!エル!その神の力は神の許可なく使っていいものではない!」

 顔を真っ赤にして怒鳴りながら教術を使ったエルの元に駆け寄って手に握るその杖でエルを殴った。その衝撃で倒れたエルの額からは血が出ていた。

「おい!ババア!その子が何をしたって言うんだ!」

 俺からすればあまりにも理不尽な暴力だった。エルはこれ以上辛い過去をズーランのばあさんにも思い出させたくないという優しさからレイランを攻撃した。結果的にそれが空振りに終わってしまったがエルが殴られる理由なんて存在しない。

「うるさい!よそ者が!この神聖な土地にはここなりのルールがあるのじゃ!それを守れない奴にはそれらしい罰じゃ!これでも足りないくらいじゃ!」

 立ち上がろうとするエルに追い討ちをかけるように杖で殴りかかる。

「それ以上はやめなさい!遺跡の情報どうこうの前に人として私はあなたに刃を向けることになるわ!」

 まさに正義の名の下にキュリーさんがその刃をズーランのばあさんに向ける。

「ここは神が降り立ち神聖な土地じゃ。貴様のような邪気を放つ部外者には即天罰が下る」

「天罰が下るのはあなたのほうよ!」

「これは神の力を身勝手に使ったエルの罰じゃ」

「その程度で天罰を下すような神を私は神と呼ばない!そんな神は私が殺す!」

 キュリーさんがエルを助けようと敷地に入ろうとする。しかし、その前にレイランが立ちふさがる。

「ちょっと!こんなときに邪魔するんじゃないわよ!」

「仕方ないでしょ~」

 レイランは今まで見せたことないほど余裕のなそうに歯を食い縛って冷や汗をたらして薄く虹色が見える目でズーランばあさんとエルのほうを見る。

「今回は引きましょ~」

「なんでよ!」

「ここで下手に亀裂を作るのはこっちにとっても不利よ~」

「ど、どういうこと?」

「さっさと帰れ!そして、二度と来るな!」

 と手ごろな石を掴んでこっちに投げつけてきた。

「引くわよ!教太ちゃん!」

「あ、ああ」

 レイランに言われるがままにその神聖な土地に背を向けて歩き出す。しばらく、キュリーさんも戦わずして負けたことを悔やんでいるようだったが、武器を仕舞って俺たちの後を追った。砂の山で神聖な土地とか言うものが見えなくなると俺は足を止めて振り返る。あの土地には何かある。そして、あの少女から感じた普通じゃない感覚はなんだったのか?答えは出るのはまだまだ先になりそうだ。

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