砂の遺跡で④
砂漠の昼間の日差しは本当に拷問だ。町の中だとまだ弱い。それが砂漠の真ん中に出ると凄みを増す。
「暑い」
「あたしが冷やしてあげるわよ~」
「遠慮します」
寒気で体が冷えるだろうけど暑さじゃなくて精神的にぶっ倒れそうになるから。
「無駄口を叩いていないでこっちよ。さっさとしなさい」
「うるさい。ゴリラ」
「あのね、どうして私がゴリラなの?」
「アマゾン出身でしょ?」
「生まれも育ちもイギリスよ!」
その前にゴリラってアマゾンにいたっけ?
「私からすればあなたのほうが立派なゴリラよ!」
「誰がゴリラですって!」
その芯の太い声はどう考えてもキュリーさんよりゴリラだよ。
「ババアよりかはマシでしょ!」
「ゴリラよりまだ人のほうがいいわよ!」
どっちもどっちじゃないか?
「というか、喧嘩はやめてくれないか?」
これから交渉が難しいとか言う人たちと話しいに行くのに。
「あたしはこの豚ゴリラを排除して教太ちゃんがいればいいのよ~」
「私もあんたみたいな世間のゴミといっしょに行動したくないわよ」
「誰が世間のゴミですって!こう見えてあたしは地域のボランティアとして毎日ゴミ拾いとかしてるのよ!」
やってること小さいな~。
「あんたみたいな結社の家畜といっしょにしないで!」
「誰が結社の家畜よ!私が何でもかんでも結社の言うことを聞いてるわけじゃないのよ!普通に命令無視とかするわよ!」
いや、それダメでしょ。
「ちょっと人の記憶読んでお金貰ってるニートと比べたらマシよ!」
「誰がニートだ!ちゃんとは働いてるわ!クソゴリラが!」
「私はゴリラじゃない!あなたの見えている世界は何?みんなゴリラに見えるの?なら、あなたのほうがゴリラじゃない!」
「あたしみたいな見た目がパーフェクトな美人のことをゴリラ扱うするなんてあんたはゴリラ以下のウ○コよ!」
「誰がウ○コよ!」
「ウ○コはしゃべるな!」
「ゴリラこそしゃべるな!」
「お前ら黙れ」
ふたりの頭を殴って黙らせる。
「何するのよ!」
「そうよ~。ひどいわ~」
「これから交渉していろいろもめるかもしれないのになんで身内でもめてるんだよ」
先が思いやられるよ。
「こんな仕事さっさと終わらせるわよ!教太!」
「あたしもあなたみたいなゴリラとこれ以上いっしょにいたくないわ!教太ちゃん!」
なんで突然結託するんだよ。しかも、目的がいっしょだからうれしいけど仲いいのか悪いのか分からないぞ。でも、けんかするほど仲がいい言うくらいだからこのふたりも本当はすごく仲がいいのかもしれない。
「ちょっと剣をこっちに向けないで!」
「いいじゃない。いつもで殺せるから」
あのことわざって本当なのかと疑ってしまう。
先を行くふたりはもめ合いながらも目的地へと進む。真夏のクソ暑い砂漠の真下で水分を補給しつつ進むがあのふたりはそんなことはしないで大声で言い争いながら足を進める。どこに砂漠を進むだけの体力があるのかわけが分からない。
砂の足場は異常なまでに体力を奪っていく。歩くときに足で地面を蹴りながら歩く。蹴るときに足場が踏ん張りの利きにくいに柔いところだとその分歩くときに体力を消費する。砂漠ではそれに暑さも加わって体力を見る見るうちに奪っていく。昨日、ハンナが倒れたのはそのことが大きい。
そう考えると前を歩くふたりは体力があるという証拠。戦うときに体力というのは勝敗を分けるキーポイントになるときもある。そう考えるとふたりはかなり強いのかもしれないと、喧嘩していることをポジティブに見ている。止めるのが面倒なだけなんだけど。
「ちょっといい加減にしなさい!目的に着いたわよ!」
「うるさいわね~!少しは静かにしなさい!動物じゃあるまいしってごめんなさ~い。動物だったわね~」
「うがああぁぁぁぁぁ!!」
キュリーさんが剣を捨ててレイランの首を絞めるような形で飛び込む。そして、レイランののしかかると首を絞めたまま砂の中にレイランの顔を沈める。
「死ね~!死ね~!」
「待て!キュリーさん!マジでレイラン死ぬから!」
後ろから引っ張るように止めようとする。レイランの顔が砂の中からは出ることができたが首は絞めたままだ。
「クソゴリラ~!なんて力だ~!」
「誰がゴリラよ!」
「いい加減にけんかをやめろおおおぉぉぉぉ!!!」
レイランの上からキュリーさんがのしかかり俺はそれを後ろから引っ張る形になっているこの状況を見た人はいったいどう思うだろう。こんなクソ暑い砂漠のど真ん中で男と女とオカマが密着している変な奴らがいるなって絶対思う。この現状はどう考えても悪印象だ。交渉する相手もきっと同じことを思う。イギリス魔術結社の人間ですって言わなくても絶対に拒絶される現実が目に見えてる。
「いい仲良くしろよ!」
「誰がこんなゴリラと仲良くするのよ~」
首を絞めるキュリーさんの腕を強引に引き剥がそうとしている。
「そうよ!こんなゴリラを仲良くするなんて嫌よ!」
と引き離さそうな腕をしっかりとレイランの首に握って放さない。
「めんどくさいな!ゴリラどもは黙っておとなしくしろ!」
瞬間、俺の顔面に拳が飛んできた。何の抵抗もできずに飛ばされた俺は砂の上を滑って止まる。
拳の犯人はキュリーさんだ。拳を振り切った姿で止まっているからだ。
「何するんだよ!」
プルプルと震えるキュリーさんは涙目で訴える。
「誰がゴリラよ!」
「いや、今更だろ!」
「レイランには普段から言われてるから慣れてるけど」
「ならこれからも言うわ~」
起き上がるレイランの股下にキュリーさんの刃が刺さる。男なら来も冷やす場面でレイランも同様に冷や汗をかいて顔を真っ青にしてまたにぶら下がっているものが無事かどうかを確かめている。
「教太に言われると余計に腹立つのよ!」
「待て!剣をこっちに向けるな!危ないだろ!」
それと股間を狙うな!
「落ち着いて!キュリーさんは全然ゴリラじゃないから!普通にきれいなかわいい女の人だよ!」
「でも、さっきゴリラって言ったー!」
めんどくさい女だな!
「落ち着いて!」
「落ち着けるかー!」
剣筋は涙目で俺にまでゴリラといわれたことがショックなようで非常に見やすい。
後ろ向きに後退しながらキュリーさんを落ち着かせようとしている何かにぶつかった。
「え?」
ぶつかったことで何かが倒れる。慌てて振り返るとそこにはひとりの少女がいた。年は中学生と小学生の間くらいで肌の色は褐色で艶のある黒い髪をした俺と同じガラベーヤを着ているがその色は質素な砂みたいな茶色だ。少女は慌てて落としたものを立てる。それは小さな少女には少々大きなポリタンクのようなバケツで中から水が流れ出てしまっていた。
「すまん!大丈夫か!」
さすがに目元を赤く晴らして真っ赤な課をして荒い息を吐きながらもキュリーさんも気を静めて剣をしまう。
俺が突き倒してしまった少女を解放しようと手を伸ばすとそれを叩いて拒否する。
「大丈夫・・・・・だから」
背負うタイプのポリタンクを背負うためのベルトのうち片方が切れてしまっていた。俺が押し倒したせいで切れてしまったのだろう。大量の水が入っていて重いはずのポリタンクを無事なほうのベルトでよろよろと背負う。
「手伝うぞ!」
キュリーさんが剣を振り回していたせいだからとはいえ俺の不注意のせいで少女に負担をかける羽目になったのは俺のせいだ。手伝う義務はあるはずだった。
「いい・・・・邪魔しないで・・・・・関わらないで」
片言で話す口調でゆっくりと少女は砂漠の上を歩く。足は裸足だった。こんな強い日差しの下で暖められた砂漠の砂は肉が焼けるほど暑いはずだ。
「おい!」
「・・・・・いい」
少女は黙々と歩んでいった。重そうに水の入ったポリタンクを運びながら。
「なんで水を運んでるんだ?」
俺のふと思った疑問を口に出すとレイランが答える。
「水がないからよ~。こんな砂漠の真ん中には」
「でも、少し行けば井戸もある町があるのにどうして砂漠のほうに行くんだ?」
「その答えは簡単よ」
キュリーさんが向かう視線のほうに俺たちも目を向けるとそこの部分は砂の上に岩が出っ張っているような土地になっていてそのうえに建物のようなものもあった。そして、さっきの褐色の少女はそこに向かっていた。
「あそこに住んでいるからよ」
「なんであんな砂漠のど真ん中に」
「だから、答えは簡単だって言ってるじゃない。そこにある遺跡を守るためよ」
「・・・・・それって」
「そうよ。ユーリヤがどかしたい先住民よ」
さっきの褐色の少女が遺跡を守る先住民で俺たちは完全に顔を見られてしまった。イギリス魔術結社の人間ではなく、砂漠の真ん中でけんかしているバカな奴らとして。
「さて、交渉に行きましょ~」
「いや、する前から失敗が目に見えてるだろ」
それでもとりあえず交渉のために向かう。




