性悪レイラン③
「あら~、また来たの~」
「来たくはなかったけど」
俺は一日ソファーで一夜を明かして今日に至る。時差で昼と夜が弱点するんじゃないかって思っていたけど、夜行性の生き方が完全に身にしみているようで朝になるとハンナは寝てしまって動くことはなさそうだ。だから、今日もキュリーさんとふたりでレイランの元を再び訪れる。もはや、邪気といってもおかしくないたかれた煙とその匂いは洗脳されるんじゃないかって思うくらいだ。
「キュリーゴリラも来てたの?」
「来たくはなかったし、ゴリラじゃないし」
レイランの館に入ることはなく入り口待機する。
「それで今日はなんの用なの~?もしかして、あたし目当て?」
「んなわけあるか」
俺は何度お前の力を借りないでやり過ごそうか考えたんだけど、イギリス魔術結社の言うことを完全に拒絶している相手に話し合いが通用するとは思えない。だから、こうして借りたくない力を借りることになっている。
「なら、あたし目当てにさせてあげる。奥にベッドが」
「ユーリヤから話し聞いてないのか?」
強引に話を進める。
「キュリー以上に人間離れしたクソババアの言っていることを理解するほどあたしの脳みそ性能よくないのよ~。だから、ベッドに」
「先住民と交渉するためにもレイランの力が必要なんだ」
「教太の直々のお願いなら聞いてあげなくもないけど、裏にユーリヤのババアの顔がちらつくのは気に入らないわ~。だから、その話は乗らないわ~。というわけでベッドに」
「いや、確かにユーリヤの言っていることもあるが、俺自身の意思もあるんだよ。ここに訪れたのもシンの力を解明するためだ。その先住民が隠している遺跡の情報がもしかしたらシンの力に関することがあるかもしれない。だから」
「でも、それがもしシンに関することじゃなかったら意味ないじゃない。結果的にはユーリヤがおいしいところを持っていくだけになるわ~。だから、さっさとベッドに」
「いやでも」
「ベッドに」
「だから」
「ベッドに」
「行かないから。俺は」
「ベッドへ」
「いい加減しろよ!」
さすがに怒る。
「ベッドに行く気ないのは分かるだろ!」
「教太ちゃんはオカマが好きじゃない」
「大嫌いだよ!」
いくら友人にオカマって言う名前の奴がいるからって隙とは感情が違うんだよ!
「俺が好きなのは異性だ!女の子大好きだ!
「なら、どの子がいいの?」
「はぁ?」
「アキちゃん?美嶋ちゃん?香波ちゃん?それともアテナちゃん?ハンナちゃん?レナちゃん?マックスゴリラちゃん?」
最後のはたぶんキュリーさんだろう。原形をとどめていないけど。
「つーか、今はどうでもいいことだろ」
「後回しにしていたら後々面倒よ~」
「でも、今は」
「あたしは教太ちゃんの話がしたいのよ~。その仕事なら引き受けてあげるからどう考えてるか教えて~」
めんどくさい奴に絡まれたものだ。記憶を見る教術で俺の知り合いの名前がレイランには全部割れてしまっている。そして、見られるのは記憶だけならば俺の感情までは見ることはできていないからこそ聞いているんだ。
「誰がいいかってどういうことだよ?」
「すっとぼけるのもあたしの前だけにした方がいいわ~。女って怖いわよ」
俺はお前の迫り来る顔のほうが100倍怖いわ。そのごつごつした顔を化粧でまったくごまかせてないからな。青いひげが全然隠せてないからな。
「いずれにしても教太ちゃんはいつか選ばないといけないときがやってくるはずよ~」
「選ぶって」
「美嶋ちゃんは教太ちゃんのことが好きね」
「な!」
「記憶で見て分かるもの~。完全に好意があるわ。今回、離れてしまったのも嫉妬もあるわね~」
「え?そうなの?」
美嶋が俺たちの元から離れてしまったのは恐怖からだ。フレイナのような強敵がわんさかいるこの異世界で自分は俺たちを守ることはできない。ならば、安全な強敵の元にすがるべきじゃないのかということで美嶋と俺たちは進む道を変えた。それが嫉妬もあるってどういうこと?
「教太ちゃんってアキって言う子のために今まで戦っていなかった?」
「まぁ、理由としては一番大きいかな」
アキのおかげで俺になかった存在感を与えてくれた。アキが自分の命を削ってくれたから美嶋は今も生きている。アキがいなかったら今の俺はここにいない。彼女のためなら俺は命だって捨てる覚悟でいた。でも、それが美嶋の孤独に繋がっていたという。
「今の教太ちゃんの力は確かにそのアキって子から貰ったものだけどそこから自分なりに強くなっていったのは誰でもなく教太ちゃん自身よ~。なら、その力はそのアキって子だけにあるものじゃないでしょ~」
俺の力は確かに始めはアキのためだった。でも、今は美嶋のためにここまで来ている。でも、それだけじゃダメなのかもしれない。MMが言うように力というのは理解する必要がある。理解すれば振るうだけの価値が生まれる。その振るうのはきっとアキのためだけじゃない。自分の力のないことに不安を覚える美嶋のためにも、俺を追いかけて悪魔術に手を出して異世界にやってきた香波のためにも、いろんな人のためにも俺は強くならなければいけない。
「教太ちゃん。あなたは強いわ。だからこそ、行く道は茨の道よ~。力は力を呼び寄せるものよ~。いつか何かを切り捨てないといけないことがあるかもしれない。そのときは誰を選ぶかを今のうちに考えておきなさ~い。教太ちゃんは他の強大な力に押し負けないようにね~」
「分かった。ありがとう」
どれかを切り捨てないといけないときが来るってどういうことだ?無の空間にいるゴミクズみたいに答えを知っているのに教えてくれない。だから、自分で答えを出すしかない。今までそうしてきたように・・・・・。
ここで俺の中で浮かんだひとつの疑問。
「でも、どうして俺にそんなことを?」
「・・・・・シンって男もあなたみたいに悩んでいたからよ~」
「え?」
その発言は驚くべきものだった。昨日、来たときレイランはシンのことは知らないといっていた。だが、その口ぶりからしてレイランはシンのことを知っている。でも、なんですぐに俺に言わなかった?
「奥に行きましょ~」
そういわれて部屋の奥へ行くとそこはさっきの怪しいピンクと黒の部屋ではなく生活観があふれる普通のフローリングのリビングだった。部屋はさほど広くはなくテーブルとソファーを置くだけでほかにものは置けそうにない広さだった。
「奥のベッドに」
「行かないからな」
でも、奥につれてきたということはこの話をキュリーさんに聞かれないためだと悟った。
「結社が調査している遺跡のさらに西側にいる人たちがユーリヤのクソババアたちが追い出そうとしている先住民はあたしも知っているわ~」
「知り合いなのか?」
「そう、あのふたりはあの場所であるものを守っているわ~」
「あるものってなんだ?」
「それは自分の目で確かめなさ~い」
シンという名前を出してなおかつ何があるのかを教えてくれないところからして何かシンに関することがその先住民がいるところにはある。ならば、確かめに行く必要がある。そこにシンの力、神の法則に関する情報があるのならば。
「じゃあ、早速行こう!」
「え?ベッドに?」
「んなわけないだろ!」




