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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
無の領域
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砂の街で②

「う~」

 とうなだれるハンナの額に氷水でぬらしたタオルを乗せる。

「ありがとうございますぅ」

「気にするな。無理せずちゃんと休めよ」

「了解ですぅ」

 と敬礼して眠りに着く。俺はなるべく起こさないようにゆっくり部屋から出る。

 キュリーがとってくれたホテルの一室は氷属性魔術による冷房が利いていて涼しく快適だ。暑さにやられて倒れたハンナはキュリーが治癒魔術を施してくれて後は体調が戻るまで安静にするようにホテルに病院を構える医者にそう言われた。

 とりあえず、今日一日はハンナを安静にするためにシンの軌跡を探す。

「それで今日はどうするの?」

「ハンナの知識が使えない今はとりあえず、この辺でシンがいたかどうかを聞いて回ろうと思っている」

 シンの生い立ちとかもなるべく知りたいと考えている。シンがどこで神の法則を知ってこの力を使えるようになったとかいろいろ知ることができれば俺もこの力について理解できるかもしれない。

「でも、無作為に探しても無駄じゃない?」

「無作為に探すしかないだろ。シンはエジプトのどの辺にいたのかキュリーさんは知ってるのか?」

「知るわけないじゃない」

 開き直るなよ。

「エジプトといっても相当広いわ。ナイル川流域に大きな町が混在するこの地域の人口を考えれば聞いて回るというのは気の遠くなるような作業になるわ」

 それは・・・・・か、覚悟の上だ。と口に出してはいえない。正直、ハンナなしでエジプトの遺跡の探索に言っても俺の知識ではおそらく魔術に関する記述を見つけられる自信がない。キュリーさんも自信がない遺跡の探索に行こうと言わないのだ。

 するとキュリーは大きくため息を吐いた。

「どうした?」

 ジト目でしぶしぶ答える。

「この町に知り合いがいるのよ」

「え?そうなの?」

 まぁ、ここもイギリス魔術結社の管轄内ならば知り合いのひとりやふたりいてもおかしくない。だが、妙に乗る気にならないようなその表情とため息はなんだ?

「少し変わった魔術を使うのよ」

「変わった魔術?」

「教太は魔術にできないことがあるのを知っている?」

「できないことなんてあるのか?」

 俺からすれば魔術さえあればなんでもできるような気がしてならないんだが。

「魔女とか呼ばれるイム・ハンナならたくさん知っているんでしょうけど、私が知っている知識で魔術にはできないことは未来予知よ」

「できないのか?」

 できないとキュリーさんは言い切った。でも、俺の世界ではテレビで巨大地震が起きるとか予知することができた占い師とかがいたりする。本当かどうかさて置いて魔術ならできそうな気がするのが異世界から来た俺の率直な感想だ。

「できないはずなのよ。でも、未来予知というのはいわゆる未来を可視化することだと思うのよ」

 と自分の碧眼の瞳を指差して告げる。未来に例えば俺が数分後に階段から転げ落ちるという予知を見ることで未来を予知することができるなら、キュリーさんの言うとおり未来予知というのは未来を見る能力であるということだろうという解釈はなんとなく分かる。

「となると未来予知は未来に言ってそれを見て現在に戻ってくるとかいう面倒な工程を行わないといけないのよ。それをしない予知は予知じゃなくて予測って言うんじゃないかって私は思うのよ」

 実際に何がどう起こるかを見なければそれは予知とはいわない。例えば、次はここに斬撃が飛んでくると読むことができることは予知ではなく経験からの予測となる。つまりは予知というのはこれから起こることを完全に見て知ることが絶対条件ということのようだ。

「でも、なんで急に未来予知の話をしたんだ?」

「魔術には未来予知はできない。でも、その逆はできる」

「え?そうなのか!」

 未来予知の逆も同じでできそうにないが・・・・・。

「いわゆる記憶を見ることで過去を見ることができるって言うものよ」

「記憶を見る?」

「私としては他人の過去を勝手に除くような性悪な奴だと思うんだけど、今はあいつに頼るのがシンの痕跡を探すのには手っ取り早いわ」

 と頭を抱える。

「そいつは過去を見ることができるのか?」

「過去といっても人が記憶している過去を見ることができるのよ。名前はレイラン。正直会いたくもない奴よ」

 人の過去を勝手に覗くんだもんな。

 俺も他人にはあまり知られたくない過去を持っている。人を殴り殺してしまったという過去だ。その過去を知られたくないから他人の過去についてはあまり聞こうとは思わない。代わりに俺の過去のことを話すことになるのが嫌だからだ。最近は少し耐性がついてきたがそれでも嫌だ。

「でも、あいつはこのエジプトに10年以上住んでいる古顔よ。他人から盗み見た過去からシンの痕跡を探さなくてもレイラン自身が知っていると言う可能性もあるわ。言ってみる価値は一応あるわ」

「なら、行こう」

「潔いわね」

 驚いた表情をするキュリーさん。

「別に過去を覗かれようがそれで俺の持つシンの力が少しでも解明されるというならいくらでも俺の過去を覗かれてもいい。そのくらいの覚悟はできている」

 それが美嶋を安心させるだけの力を得ることに繋がれば俺はいくらでも過去を明かそう。

「まったく、そういう芯が強くてまっすぐなところはそっくりね」

「え?誰に?」

「さぁ?誰かしら?」

 とちょっぴり意地悪な口調で俺の頭を乱暴になでると外へ向かうためにホテルの会談を降りる。

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