砂の街で①
「やっと着いた~」
地面と同じような色をした低い建物がずらっと並ぶ。道を歩いている人簿との色は茶褐色で俺と同じようにエジプトの民族衣装であるガラベーヤという衣装を纏っている。色はさまざまだがたまにジーパンにポロシャツを着ている人もいる。
「まさか、砂漠を越えるとは思っていなかったぞ」
近くにあった仮説のテント小屋に荷物を下ろして節約のためにこまめに飲んでいた水を一気飲みする。夜型のハンナにとっては昼間のしかも刺すような日差しに完全に延びていた。一方のキュリーは汗はかいているもののぴんぴんしていた。
「当初は一気にイギリスまで飛ぶんじゃなかったのか?」
「予定が狂ってしまったから仕方ない。男がネチネチ文句を言うな」
と釘を刺される。
実際はインドネシアに入った後、イギリス魔術結社支配下のインド洋の孤島を経由してイギリスまで飛ぶ予定だったのだが、それがそこまでできないといわれてしまったのだ。イギリス魔術結社が何か重要な作戦準備中だということでイギリスへ直接飛ぶ時空間魔術のルートが今は完全に遮断されてしまっているということらしいのだ。
重要な作戦というのは例の古代魔術兵器の発動に関するものじゃないだろうなと思ってしまう。インド洋の孤島で足止めを食らうわけにも行かず俺たちはとりあえず陸路でイギリスへ向かうことになった。一番近いのがエジプトだというが、他の魔術組織にその場所が知られないように主要都市であるカイロから西に30キロ離れた砂漠のど真ん中に時空間魔術の出入り口があった。一番近いということでしぶしぶそこに移動して砂漠を越えてきたのだ。徒歩で。
「つか、あそこに見えるピラミッド?」
「そうよ。それが?」
なんとも冷たい女だ。
そのキュリーは通信魔術などを屈指して何かいろいろ連絡を取り合って忙しそうだ。通常とは違うルートで自分の国に帰ろうとしているのだ。いろいろ苦労があるのだろう。
俺は元の世界でも海外に行ったことがないがまさか異世界でこんな世界をまたにかけるなんて思ってもいなかった。ちなみに俺の英語の成績は絶望的で例え日本が沈没しようが日本から出る気はない。
「ハンナ。大丈夫か?」
バックからうちわを取り出して仰ぐ。
「ありがとうございますぅ。ちょっと、日を浴びすぎましたぁ。夜型の私にはきついですぅ」
だろうな。
「でも、来た甲斐はありましたぁ」
「エジプトに?」
「はい」
といってピラミッドのほうを指差す。
「ピラミッドがどうした?」
「あそこに魔術の原点があるのではないかといわれているんですぅ」
「そうなのか?」
俺は改めて建物隙間から見える巨大な石でできた四角錐の建造物に目をやる。俺の世界でも未だ多くの謎に包まれている。王様のお墓だという説が一番有力らしいのだが、ほかにもどうやってあれだけ巨大なものを重機もない時代に作り上げたのか。宇宙が作るのを手伝ったのではないかという説も存在するらしい謎の建造物。
それがこの世界では魔術の原点ってどういうことだ?
「今のイギリス魔術結社がまだ魔術という定義を知らない時代にあのピラミッドの中を調べて魔術というものを知ったという言い伝えのようなものがありますぅ。あのような巨大な建造物を作り上げるために魔術が使われていたのではないかという説がありますぅ」
寝込んだままピラミッドを指差しながら俺に伝える。
「ですが、その説は多く学者が否定していますぅ」
「え?なんで?」
魔術を使って作ったほうがあれだけの大きなものを作り上げる要因として一番ありえるものじゃないのか?この魔術の世界においては。
「なぜなら、魔術という技術は近代技術ですからぁ」
確かにそうだ。そんな古代エジプト時代からあれば俺の世界でも魔術があってもおかしくない。
「ですが、私はその学者の意見には反対派ですぅ」
「どうして?」
「カントリーディコンプセイションキャノンのような古代魔術兵器の情報はここから入手したという話ですぅ」
「え?」
「つまり、ここには魔術に関する文書や情報が砂の下に多く眠っていると考えてもおかしくないんですぅ」
と起き上がるハンナは近くおいてあった水筒の水を飲み干す。目の下にくまを作って真っ青な顔色をして俺に告げる。
「前にシン・エルズーランの力と似たものがカントリーディコンプセイションキャノンのような古代魔術の中に含まれているという話を覚えていますかぁ?」
「ああ」
「ここにシンの力に関する情報がある可能性が高いと思いますぅ。ほかにも私の知らない魔術の知識や技術がたくさんあるかもしれないんですぅ。探索する価値はあると思いますぅ」
と顔色とは真逆の生き生きとした口調で楽しそうに告げるが今にも倒れそうだ。
なるほど、そのモチベーションが苦手な昼間の日差しの下で砂漠越えするに至ったのか。
「私も一理あると思うわ」
「キュリーさんも?」
「シンと私は始めてであったときに彼は前まではエジプトに住んでいたと言っていたわ。もしかしたら、シンのことを知っている人物がこの町に住んでいるかもしれない」
行きかう人々を眺める。この中にシンのことを知っている人がいるかもしれない。
「とりあえず、結社の迎えは明日には到着するわ。特に出発の期限は決めていないから十分に探索するといいわ」
「ありがとうな。いろいろやってもらって」
「別にいいのよ。私もシンについて知りたいと思うから」
「精力的ですねぇ。数日前まで敵同士だったんですよぉ。私たちって」
まぁ、敵対する3大魔術組織のそれぞれ属する俺たちが行動していると知れば誰もがおったまげるだろうな。
「お互いに教太に惹かれたってことでしょ?私は敵も味方も受け入れるあなたの器に惹かれただからあなたと共に行動している」
「私は神の法則に守られた力と教術のふたつを持ってる教太にすごく興味がありますぅ。だから、いっしょに行動しているだけですぅ」
俺とキュリー、俺とハンナの組み合わせだったら問題ないかもしれないけど、キュリーとハンナの組み合わせで力を合わせるかといわれた怪しいところだ。キュリーはイギリス魔術結社が古代魔術兵器を発動させることを反対しているだけであって決して他の組織に寝返ったわけじゃない。
「いがみ合いはやめろよ」
と俺が間に入るとふたりにらみ合いをやめる。
「私は教太と元で行動をするつもりよ。イム・ハンナもそれは同じでしょ?」
「そのつもりですぅ。ですので、ここは敵味方関係なく共に教太の持つシンの力を解明するために精進しようじゃないですかぁ」
と一旦内輪もめが解消したことにほっとする。
「では、早速ピラミッド周辺にある遺跡を散策しましょう。きっと、シンの力に関することが遺跡に」
とふらふらの足取りで日差しの下に出た瞬間、ハンナは倒れて動かなくなった。
「完全に暑さで倒れたわね」
「大丈夫か?ハンナ」
とハンナを日陰まで引きずって移動させる。
「・・・・・・少し休ませて欲しいですぅ」
「・・・・・宿を探しましょ」
「そうするか」




