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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
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風は起きる⑤

 わっちことミレイユ・ミレーは4大教術師と呼ばれている。その所以としてはわっちの使う絶対防盾パーフェクト・スコード。物理的に破壊することは絶対にできない絶対防壁。この絶対防壁はわっち以外の4大教術師と呼ばれる教術師ですら超えることは難しい。フレイナの火力があってもこの防壁は超えられないが、ひとりだけわっちの防壁を超えるものがいる。4大教術師のひとり、シン・エルズーラン。やつは物体であればすべて破壊するという髪の法則に守られた力を使ってわっちの防壁を破壊して超える。今でもその感触は覚えている。闘技場で無敵を誇っていたフレイナを圧倒することができてもう怖いものはないと高をくくっていた矢先、その無敵の攻撃はわっちのダイヤの防壁を貫いた。わっちは初めて戦いの中でしりもちをついた。シンはそれ以上何もしてこなかったが、やつが人の命を軽く見るようなクズであったのならわっちは4大教術師とも呼ばれずここにはいない。

 あの経験でわっちはさらに強くなった。今までは防御に回していた結晶の数は3つだったのをひとつ増やして主に守りはいる場合は展開する結晶の半分防御に回すようにした。その異常なまでに硬くなった守りと破格のランクSがわっちを4大教術師というところまで押し上げた。

 わっちの防壁は超えられない。シンがいなくなった今、その防御力は絶対的なものへと変わった。じゃが―――。

 風を斬る刃はわっちの防御陣形を超えて最終防衛ラインである結晶を押し出した。押し出された結晶にぶたれそうになって思わず体が後ろに下がってしまった。それがわっちにとってはじめて味わった屈辱。魔術師に動かされたというもの。

「どうだ?楽しめそうか?」

「―――風上風也!」

 挑発する発言についかっとなってしまった。

 相手は機関を出ていることだけあって魔武を使った戦闘は他の魔術師よりも飛びぬけていることは知っている。しかし、その予想は遥か上を行った。防御陣営が風上風也のスピードに追いつかなかった。もしも、シンの教訓を活かして四方に結晶を固めていなければわっちの体は今頃真っ二つになっていたかもしれない。

 笑みを浮かべる風上風也は見るに耐えなかった。すぐさま、上空に戻していたいくつかの結晶を落下させて攻撃するが簡単によけられてしまった。動きが魔術師ではない。これが本当に魔術師の力かと疑いが過ぎると剣を再び構える風上風也の背から白い筋のようなものが竜巻上にふたつ見ることができた。それはまるで羽のようだ。

 そうか・・・・そうか、そうか。

 思わず笑みがこぼれる。その表情に風上風也は不思議そうだった。

 わっちは安心した。やつの魔術師離れした動きの正体は目に見える形で現れた。

「天使の力か」

「なんだと?」

 やつ自身は自覚なしか。

 あの背中から羽のように生える竜巻は天使の力の羽で間違いない。途中から動きが明らかに魔武以外の力が発生しているように感じたのはあの羽のせい。魔術師が神の領域へ少しばかり入ることを許されたもののみが使えるという力。天使の力は主に使用する力の増大と浮遊の能力を得ること。元々、風属性は属性魔術の中で機動力の高さではぴか一の能力を有する。そこに浮遊の能力が施される天使の力が加わると厄介なことこの上ない。しかし、天使の力の発現には条件がある。特に魔術師の場合は特定の魔術を発動したときのみに発現する。風上風也の場合は新しく魔武に搭載された風の破裂弾(エアー・ボム)が天使の力の発現条件だった。それがわっちという強者を相手取ることで芽を出した。

 大きく息を吸って吐いた風上風也はゆっくり目を見開くと背中の透明な風の翼が体をゆっくり持ち上げる。

「行くぞ!」

 バンという風の破裂音だけを残して風上風也が目の前から消えた。

 風を斬る音が上から聞こえた。見上げるとそこには剣を振りかざす風上風也の姿があった。今の一瞬でわっちの頭上に移動して剣を振り下ろすまでの攻撃態勢に入っている。それだけのスピードが天使の力を有しているやつにはある。四方を固める結晶をスライドさせてわっちの頭上に屋根を作って斬撃から免れる。ぎりぎりと結晶と刃がこすれる音が聞こえたと思ったらすでに目の前で風上風也がわっちのあいた足元を狙って斬りかかろうとしていた。

 いつ移動した!という疑問は払って防御に回っていた結晶で攻撃を加えてそのままパズルのように頭上と四方を結晶で固めて完全防御陣営になる。頭上を4つ、周りを4つの結晶で固めて攻撃に回っていた結晶も飛び込んでくる風上風也の妨害に当たるべくわっちの近い周囲に展開する。

「弱気だな」

「わっちの長所は防御じゃ。それをただ活かしているだけじゃ」

 とは言っているが守っているだけでは勝てない。攻撃が最大の守りとも言う。

「その減らず口をすぐに畳んでやるなんし!」

 展開する結晶のうち2つを使って風上風也を攻撃する。一発目は突っ立っている風上風也にぶつけるつもりで飛ばすがすぐさま上空に飛んでかわされる。真上によけるだろうとよんで2発目の結晶を飛ばすが早すぎて当たらない。仕方ないと防御に回っていた2つも攻撃にまわす。その的を絞らせないようにわっちの周りを飛び回る。振り返るとその先にもうおらず、着地した砂埃が見えたと思えばそこにもういない。振り向けば振り返ればそこにはもう風上風也はいない。人の目で終えるスピードではない。

 だが、一瞬風上風也の姿が見えた近くに展開して狙いが定まらずに留まっている結晶があった。鋭利な角の部分ではないが少しでも傷を負えばあの速度ではもう動けまい。渾身の力とスピードで結晶を風上風也に向かってぶつける。砂埃と共に風上風也の姿も結晶の下敷きになる。が、

「手応えがない」

「それは残像だ」

 背後にもはや二本の刃で斬りかかろうとする風上風也の体が半分以上かすれて見えた。早すぎて目が追いついていない。そこにやつはいるのだが目が追いつかない。元々、四方を固めている結晶がわっちを守ってくれる。だが、そのスピードに乗った早い斬撃は結晶を押し返してわっちの背中を強打する。すぐさま周囲に展開している結晶を降り注がせて攻撃するがそこに風上風也はいない。今度へ正面。結晶は無傷で切り刻まれることはないが押し込まれて中で蓑虫のようにこもるわっちを攻撃する。

 今までにこの結晶の防壁を破壊しようと奮闘したものは星の数ほどいたが、破壊することを早々にあきらめてわっち自身の結晶で攻撃を加えるやつは初めて出会った。シン以来の久々に負った傷は切り傷ではなく殴打によるあざ。しかも、それが自分で生成した結晶だとはフレイナの笑われ者になる。

 人は負けることで学ぶ。わっちはこれでまたひとつ学んだ。こういう戦略でわっちは追い詰められるのだと。

 わっちはこの結晶のほかに六角推の結晶弾が使えるがあれはスピードのある敵には無意味。当たらなければ意味のない攻撃だから。ほかに手はある。こんな魔術師ごとにぶたれ続けるほどわっちは安くない。

 わっちの四方を固めていた結晶が内側からはじけるように飛び散る。

「な!」

 高速で動いていた風上風也は飛び散る結晶から免れるために一気に上昇して急降下。隕石が落ちてきたかのようにホテルの玄関先に着地する。

 そして、チキンにも四方を固めていたさっきとは間逆の無防備状態を見て逆に警戒する。

「どういうつもりだ?降参か?」

 その問いには期待が感じられた。人の目で追うことのできないスピードに人の体が耐えるわけがない。

「ハ、ハ、ハ!ハハハ!アハハハハ!!」

 高々と笑い声を上げる。

「ここまで焦ったのは久々じゃ。さすが、機関を出ているだけのことはあるな。じゃが、主もここまでじゃ」

「なんだと?」

「主はわっちを少し怒らせすぎた」

 再びわっちの足元に八芒星の陣が浮かび上がる。12の結晶は展開したままの状態で同じ高レベルの教術を使うという離れ業に風上風也も動揺する。

「わっちの力はこれだけではない!」

 わっちの頭上に小さな結晶の塊が発生するとそれがまるで筋肉の塊のように不気味に膨れたり縮んだりするとその結晶から巨大な腕が生えて足が生えて胴体が出来上がる。それは小さな足に巨大な腕。腕は大きすぎて地面を叩くようにわっちの周りを囲む。そいつの体が大理石のよう彫刻のように筋肉の形に彫られて顔も目と鼻と口が安易に彫られているだけの簡素な作り。だが、半透明な目に赤い光が宿るとその巨人はアンバランスな大きな腕を高々と上げて雄たけびを上げる。

 巨人はすべて結晶と同じ半透明なダイヤでできている。足は短く腕は胴体と同じ長さを持つ顔は小さくわっちの身長と同じくらい。そして、大きさはわっちの5倍以上はある巨大な結晶の人形。

 風なんぞの勢いで押し込まれることは絶対にない重量感と付け入る好きのない強度を誇るその巨人はシンの死んでしまった今現在、まさに無敵。名を。

金剛の巨人兵(ゴーレム)

 金剛の巨人兵(ゴーレム)はその巨大な腕を振り下ろしてわっちの周りを固めてくれる。わっちと金剛の巨人兵(ゴーレム)の周りには防御にも攻撃にも転じることができる12の結晶が展開したまま。

「さて、この布陣をどう攻略するのじゃ?風上風也?」

 その表情には焦りが見え始めた。

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