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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
人の領域
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剛炎①

非魔術師とは

魔力剥奪制度等によって魔術を使うことのできない者たち。

魔術が使うことのできないことから差別を受けてきた。

多くの非魔術師が魔術師たちへの憎悪が強い。

 小鳥のさえずりと共にカーテンの隙間から差し込む強い日差しに目をしかめながら俺はかぶっていた布団をもう一度かぶって眠りに就こうとする。しかし、部屋に置いてあるぜんまい仕掛けの置き時計が時刻を知らせる音を鳴らすと、勢いよく扉が開く音が聞こえた。

「教太さん!朝ですよ!起きてください!」

 そう言って俺の布団を無理やり引っ張り剥がす。しかめかすんだ視界に見えたのは白の割烹着姿のアキの姿だった。その姿はまるで田舎に住んでいるおばあちゃんのようだった。

「田舎のおばさんみたい」

 笑いながら寝ぼけて思ったことをそのまま口にしてしまった。

 それに腹を立てたアキが魔術を発動させた。さすがにそれのせいで目が覚めた。だって、紫色の閃光がバチバチと音を立てて走っているのだから。

「待て待て!起きた!起きたから!」

 慌てて俺は起きる。アキの左手に握られていたお玉に雷が宿っていた。

「待て!お玉はそうやって使うもんじゃない!」

 床には十字架とカードが落ちている。発動はその必須の二つを使ったのだろう。じゃなくて。

「落ち着け!アキ!」

「みんなしておばさんみたい、おばさんみたいって!もう!朝ごはんあるんで居間に来てください!」

 雷魔術を解いて扉の向こうにずかずかと行ってしまった。

 それと入れ替わるように霧也が入って来た。

「悪い」

「お前も俺と同じようなこと言ったのかよ!」

 思わずツッコんでしまった。

「いや、でも結構似合ってただろ。田舎臭いけど」

 そう言うとどこからともなくお玉が飛んできて霧也の頭を直撃する。

 アキは律儀に拾いにやって来た。

「悪い」

「早く家に来たなら手伝ってください」

 そう言うと再び行ってしまった。

 俺はアキの家に泊まっている。市街地から外れた木造平屋に一軒家がアキの家だった。庭もあるがその庭は雑草が好き放題に生えまくっていた。家もどこかすたれた感じだったが中はそれなりに整理されていた。

 俺はその部屋の一角に寝た。和室の部屋。そこに異色の組み合わせと言っても過言ではない置時計があるのだ。どういう意図を持ってインテリアとして置いたのか疑問になってならない。

 俺が寝ていた部屋から抜けて右側から飯のいいにおいがする。それにつられる前に洗面所で顔を洗いたい気分だ。いいにおいがする方とは逆の方に進むと青のタイルの洗面所がある。足元には木の桶と洗濯板が置いてあった。

「なんか、昭和って感じがする家の構造だな」

 そう呟いて常にちょろちょろとホースを伝って流れ続ける冷たい井戸水で顔を洗う。暑い夏には最高の冷たさで一気に目が覚める。

「よう、起きたか」

「霧也か?手伝いは?」

「戦力外通告を受けた」

 そういえば、普段霧也が家事をしているところを見たことがない気がする。

「あれ?でも、たこ焼きは作れるんだろ?」

「それを次に言ったらその舌を切り刻むぞ」

 いつもクールキャラをしている霧也だがバイトではバンダナを巻いてたこ焼きを焼いているらしいのだ。あまりいじられたくないことらしいのだがその反応がなかなか面白い。

「そういえばさ、ここって本当にアキが住んでいた家なのか?」

「そうだ。と言ってもアキナは基本ここに帰って来ることはほとんどない。俺が彼女と出会うまでは魔女として常に戦場にいたんだ。こんな家に戻ってくる暇があったとは思えない」

 それもそうか。それにここに来たときにアキが美嶋と書かれた表札を撫でていた時の表情は懐かしむ感じだった。アキにとっても久々の里帰りということなのか。両親もすでに死んでしまっていないらしく家族がいないアキのことだ。こんな広くて誰もいない家に帰って来るのに抵抗があったのだろう。

「アキナは教太に会って明るくなった。俺には今まで見せなかったような顔を見せるようになった。前まではどこか他人行儀なところがあった」

 それ分かる。

「教太には何か俺たちの知らない力がある。それは人一人のイメージも性格も変える素晴らしい力だ。俺はそんな力に憧れるよ」

 MMの言う影響力のある力のことだろうな。

 結局、どうすればいいのか分からない。力は理解し振るべき、力は共有し合うべき。俺からすればMMのいう言い分は力を独占した時の考えで拳吉のいう言い分は力を平等に扱えということだ。まったく、違う意見。俺にはどっちの考えも正しいと思う。なぜなら、俺の力は神の法則に守られているせいでほぼ独占している。いや、誰にも使えない現状のせいで独占しているようになってしまっているだけだ。だから、拳吉のいう平等に分け合うこともできない。どちらも難しいことだ。

「難しいことだよな~」

「何が?」

 霧也には分からないだろうな。

 そんなのんきに冷たい井戸水で涼をとっている時だった。

「あんた誰よ!」

 居間の方からだった。

「勝手に上がってこないでよ!」

 美嶋の声だった。

「ちょっと困りますよ!」

 アキの声もする。

 俺と霧也は目を合わせてから居間に走る。

「どうした?」

 霧也が先に居間にたどり着くとその形相が一気に変わる。

「何がどうしたんだよ?」

 俺も居間に入る。縁側から家の中に入れる居間は畳に真ん中にちゃぶ台がある。その上には朝ごはんであろう食べ物が並んでいた。そんな席に座っている見覚えのない赤髪の女の人がいた。肌の露出が多い服装をしていた。肩まで大胆に出した白のキャミソールにホットパンツの服装。何よりも目を引くのは赤色の髪にだった。長さは腰まであり毛先は重力に逆らうように沿っていて、その色はまるで灼熱の燃えるような色だった。突然の訪問者に驚いているのは俺と美嶋。しかし、霧也とアキは違った。

「何しに来た?」

 霧也は十字架を打ち付けてカードから剣を取り出した。収納魔術によって収納されていた剣。柄をチェーンでつながれている2本の剣は折れてしまった愛刀、右風刀に代わる新たな剣。霧也は風属性魔術をメインとするほかにアキから転生魔術でもらった雷属性魔術を使うことができる。その剣は魔武としてふたつの属性魔術を使うことができる特注物らしい。その剣を構えるということは明らかに相手に敵意を示していた。

「何しにって挨拶ついでにうまそうな匂いがしたから飯でも食べてこうと思っただけじゃん。それが?」

 ザクッと刺されるような視線に関係ない俺まで後退りしてしまう。なんか違う。この人から発せられる強い重圧は俺が経験してきたものの中で類を見ないものだ。まだ、どんな人なのかもわからないが強いことだけがひしひしを感じられた。

「風也さん!武器をしまってください!」

 アキが霧也の赤い女の人に向けている剣先を押さえるように手首をつかんで下に向けさせる。

「こいつにはこのくらいしておかないと舐められる一方だぞ!」

「そうですけど、風也さんでは相性が悪すぎます!」

「そうじゃん。あたしゃに風上が正面からやっても消し炭にされるだけじゃん」

 そう言うと用意された飯をつまみ食いする。

「あんた誰だよ?敵なのか?その割には友好的だし、味方にしてはふたりに敵視され過ぎだ」

 俺の質問に赤い女の人は答える。

「あたしゃはフレイナ」

「ふ、フレイナって」

 確かMMの右腕に当たる世界4大教術師のひとり。魔術に関わるものなら知らない者はいない人物のひとり。この人も俺の持つ力と同格かそれ以上の力を持っているというのか。ならば、敵ではなく明らかに味方じゃないか。

「教太に美嶋さん。あいつには深くかかわらない方がいい」

「いきなりそれを言うのはさすがに傷つくじゃん」

 そうフレイナが言うがそれを無視して霧也は続ける。

「あいつはMMとは違い強い力を持っていることいいことに自分のやりたいことを強引に行うほぼ犯罪者だ」

「は、犯罪者!?」

「何を言ってんの?ちゃんと相手の了解を得てやってることじゃん。強引でもなんでもないし」

「そのせいで何人の人が怪我を負ったかフレイナさんは数えていますか?」

 アキの質問に。

「いや、全然」

 フレイナは即答した。

「ただ、あたしゃは飯を食べさせてほしいって言ってできてた行列を破壊したり、気に食わない奴がいたら破壊したり、ほしい本が発売延期になったら腹いせにその出版社を破壊したりしただけじゃん。後はあたしゃに腕試しをする奴と真剣に戦ったり、あたしゃの行為を注意する自警団の連中を叩きのめしたくらいじゃん」

 破壊って世界中に名を留めるような教術師の破壊ってそんな軟な物じゃないはずだ。

「そんな教術師がこんな朝早く何をしに来た?」

 強い口調を保ったまま霧也がフレイナに問う。

「昨日は所要で本部にはいなかったせいでシンの力を伝承したとかいう奴に会えなかったから、会いに来ただけじゃん」

「本当にそれだけか?」

 霧也が下した剣を強に握りしめなおす。

「そんな怖い顔しなくてもいいじゃん。だた、ちょっとシンの力の伝承者の実力っていう奴を見に来ただけじゃん」

「教太。下がれ」

「え?」

「こいつはやばい。本当にヤバい奴なんだ」

 霧也の焦りようは普通じゃなかった。

「風上の後ろにいる男の子がシンの力が使える国分教太じゃない?」

「それがどうした?俺たちは教太をあんたら組織の完璧な手駒になるためにここに来たわけじゃない。教太はただMMと話し合いをしに来ただけだ。それが終わった今、教太がこの世界にとどまる理由はない。お前らの思っている黒の騎士団とのいざこざの中和剤なんかに教太を使わせない」

 黒の騎士団のいざこざってなんだ?確か、アキたちの組織と同格の巨大魔術組織が確かそんな名前だった気がする。

「まぁまぁ、落ち着けって。正直、あたしゃはそんな組織同士のごたごたなんか気にしないの。あたしゃが知りたいのは国分教太の実力だけじゃん」

 フレイナは立ち上がり俺たちを睨む。

「あたしゃはシンとマジの殺し合いを一度だけしたことがある。結果は引き分けって言うことになっているが、正直あのまま続けていれば劣勢に追い込まれて敗北した。それがあたしゃにはどうしても許せない!」

 髪が逆立つような熱い熱い意志を感じ取ることが出来た。

「あたしゃは強い奴は大好きだ。ミレイユに過去の魔女に徳川拳吉。あいつらは強いからあたしゃはどこまでもついていく気になれる。だが、あたしゃは弱い奴が大嫌いだ!負けて逃げた奴ももっと嫌いだ!シンに負けてこうして生きているあたしゃ自身が腹立たしくてしょうがない!」

 フレイナから発せられる怒りの熱は俺たちにも直接伝わってくる。だが、その熱がリアルの物であるということに気付くのはすぐのことだ。

「あたしゃはシンにリベンジを申し込んだが、その時にはすでに味方になっていた!あたしゃは奴には二度と勝てない!負けたままだ!」

 見るとしゃぶ台の上に置いてあったコップの中にある水がブクブクと沸騰しはじめてやがてコップが割れた。焼けるような暑さを感じた。これは普通ではない。これはフレイナから直接放たれている熱だ。

「だが、良い話を聞いた。シンの力は貴重だ。転生魔術で伝承できるようにしたと、なかなか伝承しなかったがついに伝承できる奴が現れた。また、正式に味方になったわけじゃない!」

 爆発するような熱は俺たちに襲いかかろうとしていた。それにいち早く気付いた霧也が双剣から爆発的に風を起こしてフレイナに突っ込んでいく。剣で斬りかかるさま本気だった。だが、斬りかかろうとする霧也の腕から白い蒸気が吹き上がり真っ赤に荒れていく。剣を握っていることが出来ずに離してしまいそうになる。その前にフレイナを家から出すために直接ぶつかっていき、そのまま風の勢いを使って家の外に吹き飛ばした。

 おいてあったちゃぶ台を吹き飛ばし、ガラス戸を破壊して、縁側の床を何枚か破壊して山の斜面までフレイナを飛ばす。霧也は近くの木に掴まっていたが右腕は真っ赤にやけどしていて物を掴める状況ではなかった。服もどろりと垂れ下がり溶けていた。

「風也さん!」

 霧也を心配したアキがカードと十字架を手にして何も履かずに外に飛び出していく。

 何がなんだかさっぱり分からなかった。フレイナがどんな奴なのかは何となく分かった気がする。そのフレイナが吹き飛ばされた方角からはまるで火山帯のような白い蒸気が上がっている。

「あの熱は火属性魔術かしら?」

「たぶんな」

 火属性は火を起こす過程で熱も発生させる。そのため、火の他にも熱の操作も火属性魔術に含まれるらしい。フレイナは教術師。事前にどんな教術を使うのかは聞いている。

 それは火属性。

「美嶋。水と土属性の魔術を用意しておいてくれ」

「わ、分かったけど大丈夫?」

 美嶋が心配そうなまなざしで俺の方を見る。

 俺は下駄をはいて家の外に出る。

「分からないが、このままだと霧也もそうだがアキや美嶋まで危険な気がする」

 フレイナはアキたちの味方じゃないのか?それに対しては霧也とアキの反抗的な姿勢にフレイナの好戦的な圧。普通じゃない。これが魔術による負の連鎖というならば、このパターンを俺は知らない。

「美嶋。援護を頼んだぞ。たぶん、ひとりじゃ無理だ」

 俺の中の勘がそう告げる。たぶん、俺の中に住んでいるゴミクズ(シン)がそう告げているのだろう。でも、このままあのフレイナが大人しく帰るとは限らない。あいつが何をしたいのか言っていた内容で大体予想がつく。

 シン・エルズーランへのリベンジを俺を代用してやる気だ。

 山の斜面すれすれまで歩み寄ると霧也を運ぶアキが目に入った。

「ダメです!教太さん!」

 大丈夫だ。俺に火属性魔術は通用しない。火は空気がないと燃え続けることはできない。俺はそれを知っている。この力は元素の操作だ。つまり、俺の正面に真空の盾を作ればいい。前に名もなき悪魔に手を染めた魔術が使ってきた火属性攻撃を防いだときに使った真空の空間ヴァキュアー・フィールドならばフレイナの攻撃は防げる。

 決断するとまるで火山が噴火したように火柱が上がり周りの木々を焼いていく。

 周りの土が溶岩になって行くように溶けていく。その中心をゆっくりと無傷のフレイナが立ち上がる。

「来たか!シン!」

 俺はシンじゃないけどな。

 俺は両手に力を込めると両手首付近に青白く光る五芒星の陣が発生して両拳にかけて黒色の靄が覆う。これが俺の教術。この靄の中に入った物は無条件で原子レベルまで破壊できる。そして、両手から数十センチの元素ならば操ることができる。雷、風が今のところを発生することができる。

「来いよ」

 するとフレイナは笑みを浮かべる。

「勝負だ!国分教太!」

 炎が爆発するようにフレイナを覆う。マグマのように踊る炎がフレイナの手足のように動いているようにも見えた。その炎は渦を帯びてヒモの上に何本も束なっていく。その炎はまるで大蛇のように顔がありうろこがあり熱源に中心にいるフレイナを慕うようにどんどん集まっていく。

 全身が焼けてしまいそうな高熱に呼吸をするのもつらくなる。その中央にいるフレイナは一体何者なんだ?そもそも、俺にこの炎を止めることができるのか。

「やってみないと分からない!」

 俺は移動する。真後ろはアキたちのいる家がある。このままでは攻撃の巻き添えを食らってしまう可能性がある。なんせ相手は世界中の魔術師、教術師に知らない者はいない強い奴だ。でも、それは俺も同じだ。

 足場がそれなりに安定している山の斜面の手前にやって来た。背後は山。民家の影はない。ここなら大丈夫だ。

「行くぞ。国分教太」

 帯びていた炎の蛇たちがフレイナの背後で並んでフレイナを囲んだ。その炎の蛇の数はパッと見で8はいる。それはまるで日本の神話に出てくるヤマタノオロチのようだった。俺の思ったことが通じたのかフレイナは自分の従える炎の蛇をこう呼んだ。

熱暴の大蛇(オロチ)!」

 まるで鳴き叫んでいるかのように口を大きく開くと俺に向かって強い熱風が襲い掛かる。そして、フレイナが手をあげて勢いよくおろすと無数の炎の大蛇俺に向かって飛んできた。目の前の木々を燃やして消し炭にしながら俺に向かって一斉に襲い掛かる。大蛇の形をしているがただの炎であることは変わりない。あの名もなき魔術師の使った炎と同じように防ぐことはできるはずだ。

真空の空間ヴァキュアー・フィールド!」

 俺の両手に合った黒い靄が盾のように形が変わりフレイナの炎に備えるが、その炎が近づくにつれて俺は身の危険を感じた。迫る蛇の形をした炎の猛者は当たりの空気を一気に吸い込んで燃えていた。それはもう俺の知る炎ではない。そして、迫る熱を感じて分かった。

 防ぎきれない!

 1匹目と2匹目は真空の空間ヴァキュアー・フィールドによって消される。しかし、残りは真空の空間ヴァキュアー・フィールドにはぶつからずに俺の近くの地面にぶつかり大きな炎を熱と爆風と黒煙を上げて大爆発した。

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