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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
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前へ進む⑦

「いやいや、なかなか面白い子ですね。あのアキナって子は」

「まぁな」

 千鳥足で前に進むことすらおぼつかないブレイを俺はホテルまで送っている。

 こんな調子で明日まで俺の魔武の調整が終わるかどうかが心配だ。

「風也くんの魔武でしたら、いっしょに連れてきている部下に寝ないで調整させるつもりだから大丈夫ですよ」

 そんな美形の顔してなんて鬼畜なやろうなんだ。

「いや~、魔女と呼ばれているだけありますよ。彼女は」

 アキナのことだ。ブレイは常に笑みを浮かべながらアキナの話を聞き入っていた。

「抗って戦っている少女を見ると僕は応援したくなってしまうのですよ」

「アキナは16だぞ。幼い少女に大人が手を出すとか犯罪だぞ」

「お互いに愛し合えば、何も問題はありません」

 大有りだ。

「それにしてもあれがかつての魔女とは考え付きませんでしたよ。言われるまでわかりませんでした。あんな健気な少女が魔女だったなんて誰も想像しないでしょう」

 魔女だったころのアキナを知っている俺だからこそ思う。アキナは変わった。誰かのために自分の力を知識を使うようになった。それが結果的に魔女のときにはなかった強さが芽生えつつあると感じる。

「ですが、あのリンという女性の言うとおりMMが彼女を国外には出させないでしょう」

「どうしてだ?MMはアキナが再び魔術を使えるようになったことを知らない」

 それもそうだ。今日、使えるようになったばかりだからだ。

「それにかつて魔女だったというだけで大きな力をアキナは有していない」

 教太と美嶋さんと比べるとはるかに力は劣る。

「にもかかわらず、どうしてこぞってアキナの国外に出すことを拒むんだ?」

 千鳥足のブレイは川沿いのベンチに座る。

「MMの力の概念を知っていますか?」

「知らない」

 そもそも、そんなものに興味はない。

「力は理解し振るうべきだということです。理解とは影響力があるかどうかです。振るうべきとは影響力を使って世界を安定させることを意味します。つまり、MMは力の判別を行って影響力のある力は管理するべきだと考えています」

 だから、MMは周りに強い影響力を与えるシンの力を持つ教太を国外に出すことを阻止しようと動いてきた。

「少なからずですが、彼女の周りには影響力の高いものたちが集められていると考えますよ。フレイナさんにせよ、今日会ったリンさんも」

「リンもか?」

 確かに時空間魔術を使えるが距離は短距離に限る。時空間魔術としては非常に優秀かといわれたら、時空間魔術師としてはさほど優秀でもない。移動よりも時空間魔術を使った戦闘向けのスタイルはそこまで重宝されない。

「あるはずですよ。彼女にはそんな匂いがします」

「・・・・・変態?」

 女の匂いを嗅ぐような。

「比喩ですよ。雰囲気といいますか、勘ですよ」

「勘かい」

「ですが、実際に拳吉とも敵対せずに協力関係を保っていますし、当時最強の魔術師といっても過言ではない魔女も管理できる範囲にいます。組織が立ち上がって数年しか経っていないのにこの異常なまで戦力図は普通ではないです」

 冷静に考えれば、リュウガも周りとは少し違う。龍属性のほかに銃の上でも飛びぬけているし、今は死んでしまっていないがイサークもほかとは違う教術師だ。それに逃亡戦争中にMMはシンとも行動を共にしていたという話だ。対して既存していたイギリス魔術結社や黒の騎士団にはあまり名の知れた魔術師、教術師はあの規模にしては少ない。相対数的に組織の有力な魔術師、教術師は圧倒的に多い。

「そのようなことを踏まえた僕の勘です。実際に考え付きますか?魔術のことを深く知りたいという理由で敵対組織の土地に足を踏み入れると思いますか?僕が彼女と同じ立場なら危なくて嫌ですよ」

 アキナのいうリスクのひとつだ。

「ですが、僕はあのような子を見ていたら応援したくなるのですよ」

 立ち上がって俺の補助を断る。

「今のMMは自分よりも強いもの、自分よりも影響力があるものが現れることに怯えていると僕は感じます。それで強いものたちを目の見えるところで管理していると思います。そんなひとりの強者の影響力で他の強者の飛躍を妨げるような行為は商人ではなく、僕個人の意見として好ましいことではありません。これでは機関と何が違うのですか?」

 人を管理する、強者を管理する。それは俺たちを恐怖を植え付けて奴隷のように戦士へと育て上げた機関と何も変わらない。MMと機関の所長と後姿が俺の脳内で一致する。

「何か彼女なりにこの国から出るための方法を考えていたみたいだけど、相手はあのMMです。小細工が通用するとは考えられません。君たちが言うようにMMが直接でてくる可能性は十分に考えられます。そのときは最悪の場合・・・・・」

 俺にもその最悪の場合のことを考えている。

「ブレイ」

「何ですか?」

「魔武の調整を頼む」

「・・・・・いい眼です。まるでではなく、紛れもなく機関と言う地獄を行きぬいた属性戦士の眼です」

 俺の中でひとつの覚悟ができた。それはあまりにも巨大なリスクで背負いきれるようなものではない。だが、ひとりの未来のある少女のために俺たち大人が怯えていてどうする?やる自信はある。なぜなら、俺はブレイの言うとおり機関出身の属性戦士、風上風也だから。

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