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Side1:第二十七章

 控室は重苦しい空気に包まれていた。初戦を何とか制したものの予想外の苦戦を強いられたのだ。選手たちは一様に表情が硬い。理由は異なれど同じく沈んだ心持ちの俺が入ってきたところで、場の空気が明るくなるわけがなかった。

「ああ、来たのか。話は聞いてる。俺は一応今回のチームリーダーの栗山だ。よろしく」

「内藤だ。こちらこそよろしく」

 栗山は背の少し低く髪をツンツンに逆立てた、やんちゃそうな男子生徒だった。そして順に、メンバーを紹介してくれる。

「せいぜい足引っ張んなよな、補欠代理」

 最後に紹介された新庄という男子生徒が、ロッカーに寄りかかったままで俺にそう言い放った。

「おい、新庄」

「わかってるよ。やるからには足は引っ張らないように、全力を出す」

 俺が言い返すと新庄はフンと鼻を鳴らした。栗山は頭を掻きながら、

「すまねえな、ちょっと皆イライラしてんだ。なにせ予想外の事態だからな。初戦があんなで、二戦目もどうなることやら」

「そんなにひどい試合だったのか。坂田が怪我したってことしか知らなかったんだが」

「じゃあ作戦説明ついでに、その話もしちゃうか。あとルール確認もな。とりあえず他の皆は、聞き流しといてくれればいい」

 そう言いながら、栗山は備え付けの白板の前に移動した。

「どういう競技なのかは、だいたい知ってると思う。簡単に言うと棒倒しだな。お互いの陣地に一本ずつ立てられた丸太を、魔法で打ち倒せばいい。使える魔法は魔力を素のままで放出するものと、敵を拘束するなんかビリビリするやつ。ビリビリするほうが放出の速度が遅い。まあ普通に撃ち出す方もせいぜいサッカーのシュートぐらいの速度だけどな。魔力を打ち出す方は人間には当ててはいけない、というか最初から当てられないように魔法陣に組み込まないといけない。このルールがまあ曲者なんだが……それはまああとで話すか。んで、魔法を撃ちあいながら丸太を狙う競技なわけだ。

 そんで、さっきの試合について話すぜ。うちは、序盤はビリビリ弾をばらまいて相手の動きを封じて、それから丸太を狙うつもりだった。一方相手さんは、俺達に向けて魔力を撃ちだす方を使ってきた」

「え? 人に当てちゃいけないんじゃないのか?」

「そこがミソでな。まったくセコいヤローだぜ、ほんとに……あいつら人に当たりそうになった時は足元に向けて進路を変更するようにチューンナップしてやがったんだ。どういういことかわかるか?」

「足元に……着弾?」

「そうだ。するとな、足元で爆発すんだよ。まるで地雷かなんか踏んづけたみたいにな」

 思わず言葉を失った。話を聞くだけでも、あまりにも危ない行為のようだ。

「それに気づいて、俺達はまず直撃弾を回避する方針にした」

「新庄が最初に気づいたんだ。坂田が吹っ飛ばされたのを見てな」

「だがそれも相手の読み通りだった。連中は今度は、最初俺達がやろうとしてたみたいにビリビリを撃ってきたんだ。直撃弾で俺達を追い込み、動きのトロいビリビリでも確実に当てる……そういう作戦だったみたいでな」

「だが、俺達が思ったより早く気づいて、しかも思いの外なんとか持ちこたえたんだな。もちろん攻勢に出ることはできなかったけど、時間は稼いだ。すると相手のスタミナが尽きてきて、攻撃がやんだところを反転攻勢、逆転勝利ってわけさ」

「なるほどな……結果として勝てたから良かったが、こっちの被害も甚大ってわけか」

「そういうことだ。あとは心理的プレッシャーというかな、また予想もしないルールの抜け道を突かれるんじゃないかっていう。……さてそれじゃ、こっから本題だ。全員聞いてくれ」

 残る二人も顔を上げる。栗山はホワイトボードにコートの図を書き、名前を書き込んでいく。

「今回はこのような配置で行く。まず、前衛中央が新庄。右翼に森本、左翼に中田。その後ろ、中堅に俺。最後、後衛に内藤だ」

「ずいぶん攻撃的だな」

「そうだ。まず前衛だが、うちの丸太のことは忘れて、相手を叩け。序盤から丸太狙いでいい。三人で一気に攻めれば、相手も防御に回らざるを得なくなるはずだ。そして俺はビリビリとかつかって敵を牽制。守りは内藤、全部お前に任せる」

「え……ちょ、ちょっと待ってくれ、いくら何でもそれは……」

「お前は俺達と違ってこの競技の練習をしてない。いくらお前があの開会式で見せたくらい魔法を使えても、攻撃力としては不十分だ」

 栗山の言うことはもっともだ。そもそも俺は魔法の技術では彼らに劣るだろう。あの開会式のパフォーマンスは、あのために練習を積んだ成果に過ぎない。

「だがお前には俺達にはできない、転写ができる。転写って確か、防御に応用できるだろう」

 神妙な面持ちで頷いてみせると、栗山はニヤリと笑った。

「そいつで俺達の丸太を守ってくれ。任せたぜ」

「い、いやいくら何でも」

「全力を尽くすって言ったばかりじゃねえか。攻めは無理だから守ってろって言ってんだ、そんなこともできねえなら四人でやったほうがマシだよ」

 新庄がばっさりと言い捨てる。

「……わかった、やろう」

「頼むぜ」


 コートに出る前の待機場所で、ポケットから例の指輪を取り出す。

 光を反射したのか、栗山がそれに気づいた。

「なんだそれ、指輪か?」

「ああ。お守りみたいなもんさ、これ着けてると転写がうまく行く」

「へえ、いいなあそれ。俺も欲しいな、来年転写の実習やるようになる前に」

 そんなことを言い合いながら指輪をはめる。

 ふと、控室に来る前に会った魔物を思い出した。


 ――だが内藤将は、よくないね。内藤将は、無理をシている。

 ――内藤将はどちらカというと私のような存在なのだから、無理をせずに魔法を使えばいい。

 ――それができルはずだし、そうするべきだ。


 その意味するところは、俺自身よくわかっているつもりだった。俺が転写のたびに、いや普通の魔法を使うたびにこの指輪を使うことは、自分の自然に反した行いであり、無理というべき代物なのだろうから。しかし普通に魔法を使うためにはそうするしかない。実際パフォーマンスの時も、これを着けていたがために体力的にはギリギリだったし、多分これからまたそうなるだろう。

 無理をしてでもやらなくてはならないのだから、仕方ないといえばそれまでだ。それに。無理をせずにできることが限られすぎている。

 誰しも無理をするものだ。それが人間にとっての魔法であり、魔法学校で学ぶということである、といえば少し言いすぎだろうか。

「行くぞ」

 新庄に肩を叩かれて我に返る。

「ああ」

 その後に続き、コートへ出るためのスロープをゆっくりと登った。


 ※


 藤宮会長の後について歩きながら、田辺香子はそわそわしていた。

 仕事はまだまだあるのに、本部から二人も一気にいなくなってしまって大丈夫なのだろうか。それに。

「あの、会長さん……どこに向かってるんですか?」

「ん? ああ、客席よ。せっかくだし」

 せっかく、と言われても田辺にはピンとこない。小首を傾げながら再び問いかける。

「でもいいんですか、本部、人減っちゃってますけど……」

「この時間帯はそんなに急ぐ仕事もなかったし、あの二人なら任せといても大丈夫よ」

「でも……」

 他の人たちが働いているのに自分だけがこっそりとその任を免れる、というのは田辺の肌には合わない。優等生であるところの彼女は、どちらかといえば昔から私を滅して公のために働いていることが多かった。

「あら、別に戻っても構わないわ。ただ、もしかしたらきょうちゃんも見たいかなー、って思ったから呼んだんだけど」

「何を、ですか?」

「たーくんがこれから競技に出るの。一年男子の競技ね」

 田辺は驚いて目を丸くした。内藤が業務から外れる旨は無線で聞いていたが、まさか競技に出るためだったとは。それにしてもいつそんなこと決まったのだろうか。毎日のように顔を合わせていたのに、全く知らなかった。

「見たいでしょ?」

 楽しそうに笑いながら問う会長に、田辺は一瞬躊躇したが、それでもゆっくりと頷いた。

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