Side1:第二十五章
スタジアムの客席に、続々と生徒が入ってくる。各学校、各クラスごとにまとまって座ることになっており、既に場所も割り振られている。イベントとはいえ学校行事であるから、それぞれのクラスで点呼が取られていることだろう。
「おお、すげえ人だな。やっぱ三校集まるとこんなになるか」
スタジアムの競技場部分入り口でその様子を見上げていた俺の後ろから、三谷会長が声をかけてきた。
「三谷会長。そうですね、結構多いですねやっぱり」
「これでも三校はまだ三分の一くらいが移動中だと思うから、まだ増えるはずだしな」
「ああ、まだ全部じゃないんだ……やっぱ遠いと移動が大変ですね」
「そうだなあ。ま、たまに来る楽しみってのがあっていいもんだぜ。旅行って感じがすごい。それよかお前、こんなとこでなにやってんだ」
「あ、最初のパフォーマンスで出る位置、確認しとこうかなと思って……イメトレですよ、イメトレ」
現在はほとんど準備も終わり、各校生徒会はパフォーマンスまで待機中である。その時間を利用し、なんとなくスタジアムの様子を見に来たのだ。俺が答えると、三谷会長は朗らかに笑った。
「あっははは……そんなに緊張してんのか?」
「なっ、いや別にそんな……まあ緊張してないなんて言いませんけどね……」
「そりゃそうだろうなあ。お前は藤宮なんかとは違って、ごく『普通』の生徒なんだろ? 魔法習って二ヶ月、みんなの前で見せてみろ、って言われて、緊張しない方がおかしいって」
「……それもそうですね。はい。めっちゃ緊張してます」
三谷会長は笑いながらばしばしと背中を叩く。
「三谷会長は? どうしてここに?」
「まあお前と似たようなもんだな……ほら、曲がりなりにも責任者というか代表者だからさ、俺。それに、せっかくパフォーマンスやるならってことでいろいろ考えたじゃん?」
今回のパフォーマンスは三谷会長の発案で様々に仕掛けが凝らされている。前年度を俺は知らないが、これまでに比べて華やかなものにしたいのだそうだ。
「ちょっと感慨深くなっちまってな。ま、そういうのは終わってから……あと三日してからするべきだけどな」
「それもそうっすね……」
「大丈夫、うまくいくさ。お前も他の連中もよくやってくれてる。これでうまくいかなきゃ、誰がやっても無理さ。っと、そろそろ戻るか、最終確認の時間まであとちょいだ」
三谷会長の背中を追って、俺も室内に戻った。
三校合同魔法競技会が、まもなく、幕を開ける。
「――生徒の皆さんは自分の席に戻り、待機しているようにおねがいします。繰り返します――」
場内アナウンスを担当する北先輩がマイクに向かって話す声を聞きながら、三人の会長は顔を見合わせて頷き合った。時刻は午後十二時四十五分。競技会開会式、その冒頭を飾る三校生徒会によるパフォーマンスまで、あと少しだ。
「うう……緊張してきたよ」
「俺に言われてもなあ……俺もガッチガチに緊張してるから……」
指にはめた魔力制御用の指輪をいじりながら、隣の田辺とそんな囁きを交わす。と、部屋の真ん中で三谷会長が手を叩いて注目を集めた。
「皆、いよいよこっからが本番だ。俺たちならきっとうまくやれる。この競技会だってきっとうまくいく。だって、そのために準備してきたんだろ? ってことで――そろそろ、配置につこう。今日はよろしく!」
よろしくお願いします、と生徒会役員たちの声が揃う。
「一校は下に降ります。皆、行くわよー」
藤宮会長に続き、一校生徒会役員五名は本部を後にする。
階段を降りながら、会長が口を開いた。
「緊張してるわね、二人とも」
「はい……」
「そりゃまあ……」
「あら、燈は緊張、してないのかしら? 余裕ぶっちゃって」
「な、そんなふうに言うことないでしょ、聖美。私は大丈夫なんだから」
「ふうん、去年の様子、二人にも見せてあげたかったわねえ、燈ったら、緊張のあまり……」
「ちょ、ちょっと、聖美、そういう話は、ね? しなくてもいいじゃない?」
あからさまに動揺する藤宮会長と、それを見て満足げに笑う岩淵先輩。
「誰しも緊張するさ、こんな大舞台では、ってことだね」
「あ、加藤先輩」
「僕だってそうだ、ぶっちゃけ足が震えてる。去年もそうだった。でも、出てみると大丈夫なもんだよ」
「そんなもんですか」
「うん、というかね、緊張してる暇なんかないってことだよ」
「ああ……」
だがここでこうして話をしていると、多少なりとも緊張は解れた。
ゲート付近で待つことしばし。
「……時間ね」
岩淵先輩が呟く。そして、客席の照明が落とされ、アナウンスが響く――
「大変長らくお待たせいたしました――それでは開会式に先立ちまして、第一、第二、第三魔法学校の生徒会による、合同パフォーマンスをご覧いただきます」
アナウンスの残響が消え切らぬうちに、藤宮会長が歩き始める。スタジアム中央を目指し、胸を張って堂々と歩み出る。
残る俺たちも、それに続いて歩き出す。会長を中心に、四人の役員がそれを取り囲む格好になる。四人は内側を向き、全員が手に魔法陣の刻まれたカードを持っている。
会長の動きに合わせ、全員がそれを高く掲げ、同時に魔力を通し、制御を開始する。たちまち、五人の頭上には色とりどりに輝く大きな魔法陣が出現する。上から見ると五つの魔法陣が輝き、綺麗に見えるのではなかろうか。もっともそんな余裕はこっちにはない。
一校のパフォーマンスのテーマは、技術面では「転写」。
魔法陣を投影するところまでは何とか成功し、続いてその発動だ。会長が先に、魔法を発動。会長が転写している魔法陣の中央とその周から、鮮やかな火花が吹き上がる。魔力花火とでも呼ぶべき火花が、華やかに開幕を報せる。
――演出面のテーマは、「華」だ。派手に行きましょう、とこの内容を説明した時、会長は言っていた。
続いて俺たちも同様の魔法を発動し、魔法陣から火花を吹き上げる。会長の魔法には劣るが、全部合わせれば華やかさが増す。
続いて、会長と岩淵先輩の三年生二人が、それぞれ二つの魔法陣を同時に転写、鮮やかに魔法を披露する。五人がそれぞれにできることをやり、花火のように見目鮮やかに、次々と魔法を繰り出して行く。
そしてクライマックス。
最初と同様の配置に戻り、周りの四人が再びの転写。今度は目の前の地面に対して行う。現れた魔法陣の色は四人ばらばら。
最初は俺だ。目の前の紅い魔法陣に意識を集中、魔法を発動。するとその中心から、燃え猛る火柱が吹き上がる。
続いて岩淵先輩の目の前の青い魔法陣から水がまるで噴水のように出現。加藤先輩の緑の魔法陣からは小型の竜巻が吹き荒れる。田辺の魔法陣は黄色で、出現したのはゴツゴツとした岩の塊だ。天に向かって伸びていく。
中央に立つ会長は、頭上には透明な球体を出現させた。直径は二メートルほど。それはまず、なんと竜巻を吸い込んだ。球体の中で風が渦巻いているのが見える。続いて球は風を吹き出し、田辺の出現させた岩山に直撃。崩れ落ちる岩は、残らず球に吸い込まれていく。同時に、その隣の俺の火柱が猛烈な勢いで吸い込まれていく。
岩と炎の両方を取り込んだ球体の中身はドロドロに溶けた赤い流体――まさにマグマそのものの様相だ。泡立つその流体は、やがて球から吹き出し溢れ出す。
そこへ岩淵先輩が水流の方向を変え、水を当てて一気に冷やす。ジュッ、という音がして水蒸気が一瞬、スタジアム中央を覆い隠す。
霧が晴れると、そこには黒い大きな岩が鎮座していた。溶岩が冷えて固まったものだ。もともとの球体よりも大きくなっている。
生徒たちも突然岩を作り出した一校生徒会に驚いているのか、場内は一瞬静まり返った。
そしてこんなものを作っておいて――一校の出番はここまでである。
アナウンスがそれを告げると、生徒たちはざわめき始める。それでも、岩のそばに集合し、客席に一礼して引き上げる俺たちに、彼らは拍手を贈ってくれた。
出番前に待機していたのと同じところまで戻ってきて、長く息を吐く。汗びっしょりだ。長時間の魔力制御と、あと火柱が熱かったせいだ。
「お疲れ、皆。それじゃあとは、二校にお任せ、ね」
会長に言われ、スタジアムを見やると、ちょうど二校のパフォーマンスが始まろうとしていた――




