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Side3:第二十四章 -古折冬弥-

 三校合同生徒会会議から三週間が経ち、いよいよ競技会まであと一日というところまで迫っていた。その日の朝五時半過ぎ、古折はスーツケースを引きながら、いつもとは異なり、港を目指して歩いていた。四方を海に囲まれた魔法都市から外に出る公共の交通手段は船の他に存在しないため、本島へ行くためには必然的に港に向かう必要があった。

 競技会の会場は東京都心にあるので、三校の生徒は皆、本島行きの船に乗って会場を目指す手はずとなっていた。しかし今、古折の周りには誰ひとりとして居なかった。というのも、三校では今日もいつも通り授業があり、一部を除いた生徒は授業を受けてから夕方の便で本島に行くことになっているからだった。朝の便に乗船する一部の生徒というのは、古折をはじめとした生徒会役員で、彼らは先行して競技会の会場準備に従事するという役目を担っているのだった。

 学生寮から二十分ほど歩いて港に到着した古折が、事前に決めていた待ち合わせ場所に向かうと、そこには既に三谷、内橋、北、箱崎、そして生徒会顧問の大野おおの有希子ゆきこ教諭が到着していた。

 「おはようございます」

 「よう、古折。これで後は、伊勢井だけだな」

 「伊勢井君も、遅刻する人ではないですし大丈夫でしょう……」

 三谷の発言を受けた北の言葉の調子が、いつもよりはっきりしていないのを古折は疑問に思ったが、北の表情からすぐにそれが眠気のせいだと察知した。他の人を見ても、皆、大なり小なり早起きの影響が出ているようだったが、それとは別に、三谷の顔に明らかな異変を古折は発見した。

 「会長、その顔は一体?」

 「ん? ああ、これか」

 そういって三谷は自分の顔、正確に言えば頬に出来た痣を指した。

 「いや、たいしたことじゃないんだけどさ。昨日同じ寮のやつに、競技会中の俺の持ち場に居るのが偶然俺以外全員女子になったっていう話をしたら思いっきりぶん殴られた」

 「なるほど」

 「一体どこに、俺が殴られなきゃいけねえような要素があったんだろうな」

 「男子一人が複数の女子に囲まれた状態というものに対する嫉妬ではないでしょうか」

 「ああ、うん……そうだな」

 三谷が何とも言えないような表情になったのを見た古折は、またやってしまった、と少し反省した。誰とでも気楽に接している三谷だが、古折と話している時、たまに今のような表情をすることがあるのだ。そしてそれは、かつて士沢が古折と話している時に、たまに見せた表情と同じ種類のものだった。

 その後、集合時間の六時丁度に伊勢井が到着し、一行は乗船受付窓口に移動した。


 ――もう、授業は始まったころか。

 船のデッキに上がった古折が腕時計を見ると、時刻は午前九時を回ったところだった。本島行きの船は午前八時に魔法都市の港を出航し、予定では八時間後の午後四時に到着することになっていた。デッキからは周囲の風景が一望することができたが、来た方向を見ても、もう魔法都市は見えなくなっていた。

 「おお、海の風が気持ちいいな」

 ぼんやりと海を眺めている古折の横には、いつの間にかデッキに上がってきていた三谷が並んで立っていた。

 「他の皆は、どうしたんですか?」

 「全員寝るってさ。せっかく暇にならないようトランプとか持ってきたのに、出鼻を挫かれちまったな」

 「まだ到着までかなり時間がありますし、きっと無駄にはならないですよ」

 「そうなることを祈るしかねえな。というかその時は古折も参加しろよ?」

 「分かりました」

 それからしばらく二人は黙って景色を見ていたが、不意に三谷が古折に質問を投げかけてきた。

 「一年生にとっちゃ、これが入学以来初の本島上陸ってことになるが、どうだ、今の気分は?」

 「そうですね……やはり、久しぶりに戻れるのは嬉しいですね。それに、街を見るのも楽しみです」

 「そうか。まあ、そりゃそうだよな。魔法都市は研究施設ばっかりだし、見てて楽しいのは本島のほうだ」

 その言葉を聞いて、自分よりもっと長い時を魔法都市で過ごした三谷にとっては、今の返事は不快なものだったか、と古折は思い、言葉を付け足した。

 「それでも、今の自分にとっての居場所は魔法都市にありますから。まだ、やらなきゃいけないことが沢山ありますし」

 それを聞いた三谷は、少し驚いたような表情をしてから、視線を海のほうに向けて、困ったように頭を掻いた。

 「あー、悪い。気を遣わせちまったな。……でも、それを聞いて安心したよ」

 三谷はそう言って微笑を浮かべ、そのまま船内に戻ろうと足を向けた。

 「会長も寝るんですか?」

 「いや、ちょっと散歩だ。何かこの中には色々入ってるみたいだから」

 「それなら、自分も一緒に、よろしいでしょうか」

 「よっしゃ、じゃあ寝てる奴らが後悔するくらい遊んじまおうぜ今のうちに」

 「あまり騒ぐと他の方に迷惑ですよ」

 「あ、うん……」


 午後四時、船は東京湾埠頭に到着し、三校生徒会の面々は無事に本島に上陸することができた。埠頭からほど近い場所では、既に三校の生徒が競技会の期間中宿泊することになるホテルの送迎用マイクロバスが待機しており、それに乗ってホテルまで移動して荷物を預けた後、バスに乗って競技会の会場に移動した頃には、時刻は午後五時になろうとしていた。

 「待っていたぞ、三校生徒会の諸君!」

 会場内にある、競技会の運営本部となる部屋に到着した三校生徒会を迎えたのは、二校の生徒会長、川邑美穂だった。

 「よう、相変わらず元気だな。それで、準備のほうはどんな感じだ?」

 「どこも順調に進んでいるから、この調子なら暗くなる前に全て完了するだろうな」

 「よーし、じゃあ早速俺たちも手伝うか」

 本部に置かれていた運営用の資料が配られ、三校生徒会のメンバーはそれぞれの持ち場に移動することになった。持ち場、というのは以前の会議で決定された担当部署のことで、古折は、主に各校のボランティアから成る競技会の生徒スタッフを指揮するという部署を、一校の一年生、内藤将と二校の三年生、田辺省吾と共に担当することになっていた。

 「おーい、古折君、こっちこっち」

 内藤と田辺ならこの部屋にいるはず、という情報を受けて、古折が会場内を歩いていると、目指す部屋の開かれたドアの向こうに居る田辺と目があい、声をかけられた。部屋の内部には当然、田辺の他に内藤もおり、二人で座って何かの作業をしていた。机上には大量の資料が散らばっていた。

 「すいません、遅くなりました」

 古折が挨拶をすると、二人は一旦作業の手を止めて、古折のほうに向きなおった。

 「いやあ、長旅お疲れ様ー」

 「久しぶり、というか生で会うのは初めてになるか」

 「確かにそうだ、生古折君だ」

 「なんなんですかそれ……」

 古折が到着する前から二人で長時間一緒に準備していたこともあって、内藤と田辺の掛け合いは学校の違いを感じさせないほど自然のように思えた。早く自分も打ち解けなくてはならない、と感じつつ、古折は尋ねた。

 「今は何をやっているんですか?」

 「生徒スタッフが首から下げる、スタッフ証の確認だね。こっちの名簿と一致しているかチェックしてくれるかな」

 「分かりました」

 スタッフ証を十数枚と、チェック用の名簿を受け取り、古折も早速椅子に座って確認作業を始めたが、そこで、自分の前に置かれたスタッフ証の束から、一つ目につくものがあった。

 第三魔法学校、一年三組、美化委員、士沢幸信。

 古折はしばし、そう書かれたスタッフ証を見つめていた。

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