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Side3:第二十二章 -古折冬弥-

 古折冬弥は、いつもより一時間半も早く家を出た。第三魔法学校周辺の道を通るのは大半が生徒および学校関係者なので、この時間の通学路を歩いているのは、部活の朝練に向かう生徒か、古折のように何かしらの呼び出しを受けている生徒くらいのものだった。古折を早朝から呼び出したのは、生徒会だった。呼び出しといっても、その理由は古折が何かしらの校則違反を行ったため、というようなことではなく、生徒会役員の一人として仕事をするためだった。

 昨日返却された中間試験で見事に総合成績一位となった古折は、放課後に担任教師を通じて生徒会から呼び出され、三校の生徒会のルールに則って庶務の役職を引き受けた。その日は生徒会に入る手続きのために書類に名前を書き、生徒会の仕事内容について簡単に説明されただけで帰されたので、実質的に今日が生徒会庶務としての仕事初日ということになっていた。

 一年生が、就任初日からいきなり始業一時間半前に登校して仕事をしなければならないというのは、恒常的に生徒会の人手が足りないからということではなく、開催まで残り三週間となった三校合同競技会の準備があるからだった。そのため、競技会が始まるまで生徒会役員は毎日七時に生徒会室に集まることになっていた。古折は毎朝六時過ぎには起床しているので時間について問題があるわけではなかったが、一つ気がかりなことがあった。それは、昨日まで毎朝一緒に登校していた士沢が遅刻しないかという心配だった。もし士沢が寝坊しても、今までは古折が電話をかけるなり士沢の部屋まで行ってチャイムを鳴らすなりすることができたが、今日からはもうそれができなくなった。昨日のうちに、競技会が始まるまで七時登校になるということはメールで送っておいたが、それについての返信はまだ来ていなかった。

 道行く人が居ない上に一人で歩いているためか、いつもより二、三分短い所要時間で学校に到着した古折が、玄関から校舎内に入って下駄箱に向かうと、そこで見知った女子生徒と遭遇した。

 「げっ」

 「おはよう、箱崎。偶然だな」

 古折の顔を見て驚き、嫌そうな顔をしたその女子生徒に対して、古折は平然と挨拶した。

 「……おはよう」

 一瞬何かを諦めたような表情をしてから、その女子生徒、箱崎はこざき志穂しほは古折に挨拶を返した。

 第三魔法学校に入学してから生徒会庶務の役職を得るまで、何も部活や委員会に所属していなかった古折にとって、自分のクラスの一年一組以外で見知っている同学年の生徒は、一年三組に所属する士沢と、一年二組に所属する箱崎のみだった。といっても、古折が箱崎と知り合ったのは昨日の放課後、生徒会室での出来事だった。テスト返却後に生徒会から呼び出されて生徒会室に足を踏み入れた古折を待っていたのは、上級生の生徒会役員四人と、箱崎だった。

 箱崎は、中間試験において二位の成績を取り、古折と同様に生徒会庶務の役職に就いたのだった。生徒会室で互いに自己紹介した時が初対面だったが、箱崎は、古折が入学式で入学生代表として辞を述べたためか、古折のことを知っていたようだった。だが、実は古折のほうも、箱崎が名乗った志穂という名前には聞き覚えがあった。中間試験が行われる一週間ほど前に、士沢が図書室で見かけた印象的な一年生の女子生徒の名前が「しほ」と言うらしく、その女子生徒がとても勉強に熱心だったという話を古折は士沢から聞いていた。もちろん人違いかもしれないが、もし同一人物ならば、士沢の冗談めいた、中間試験で古折と争うかもしれないという発言は図らずも真実ということになり、箱崎の名前を聞いた時、古折は内心驚いていたのだった。

 これから同じ場所に行くというのに、別々に歩いていくのは変だと感じた古折は、箱崎と並んで歩いて生徒会室に向かったが、元々口数の多いほうではない古折は、昨日知り合ったばかりの人物と話す事柄を特に見つけられず、また箱崎も古折に話しかけてこなかったので、二人は挨拶をしたきり黙ったままだった。

 間もなく生徒会室に到着するというところで、箱崎が突然早足になって、扉のある側を歩いていた古折を追い抜いて、先に生徒会室の扉を開け、中に居る人達に挨拶をした。

 「おはようございます」

 箱崎の行動に少しばかり疑問を感じながらも、古折は箱崎に続いて、挨拶をして生徒会室に足を踏み入れた。

 「おはようございます」

 箱崎と古折の挨拶に、先客が各々挨拶を返した。

 「おう、一年二人は同着か。二人ともおはよう」

 「志穂ちゃん、古折君、おはよう」

 「おはようございます」

 生徒会室には既に、生徒会長の三谷武一、副会長の内橋鈴菜、会計の北泰葉が来て、それぞれの席に座っていた。これを見た古折は、上級生を三人も待たせてしまっていたことに気付き、内心でもう少し早く到着するべきだったと反省した。明日からは今日よりも二十分早く登校して、上級生が来るよりも前に生徒会室に入り、掃除でもして待機しようと考えた。ちらりと横を見ると、箱崎も古折と似たようなことを思ったのか、反省の色を表情に浮かばせていた。

 「どうした二人とも、朝から元気ないな。今日から本格的に生徒会の新体制開始だってのに。もしかして朝弱いほう?」

 「いや、そうではないんですが……」

 三谷の問いかけに、どう言ったものか悩んだ古折は珍しく歯切れの悪い返事をした。

 「それとも、もしかして先輩よりも先に着くべきだったとか悩んでるほう?」

 「!!」

 口調こそふざけているが、まさしく真実を見抜いた三谷の言葉に、古折と箱崎は揃ってハッとなり、三谷を見た。三谷は腕組みして、昔を懐かしむような表情になって言葉を続けた。

 「二人の気持ちはとても良く分かる。なぜなら俺も一年の頃、全く同じ思いをしたからだ。今日はまだ伊勢井が来てねえが、俺の時はもっと悲惨でね。生徒会役員になった初日、朝七時に入ってみたら俺以外全員もう来てたんだ。扉を開けた時、一斉に他の役員が俺を見てだな、正直その場で帰りたくなった。それが嫌だったから、翌日は最初に入ってやろうと思って三十分前に来たんだが、到着は二番目だった。当時の生徒会長は俺よりも早く着いてて、しかも挨拶した時に全部見透かしたみたいに、ずいぶん気合を入れてきたなとか言って笑ってきたんだ。ちょっとそこでイラッとしたから、今度はそこから更に十五分前に来たんだが、それでも生徒会長より遅かった。そこでどうしてそんなに早く来るのかと聞いてみたら、自分は生徒会長だから、誰よりも早く来て、誰よりも遅く出て、皆を見守る義務があると言ったんだ。その時は意味がよく分からなかったが、今俺が同じ立場になって、それはつまり、生徒の代表として立つ生徒会長が忘れちゃいけない心がけなんだと思っている。何が言いたいかっていうと、もし俺より早く来ようと思っているんだったら、俺が困るから止めてってことだ。あと何より伊勢井がまだ来てないから全く気に病む必要はない。今日くらいの時間で良いよ」

 そう締めくくって、三谷は息をついた。

 生徒会に入ることができた以上、生徒会長を目指そう思っている古折が、三谷の話で出てきた生徒会長としての心がけについて考えなくてはならないと思ったその時、扉が音を立てて開いた。それと同時に、伊勢井文博の、まだ眠気を残した声が耳に届いた。

 「おはようございまーす。……あれ、二人ともどうしたの立ったまんまで」

 言われた古折と箱崎は、ずっと立っていたことに気付いて、昨日決めた座席に着いた。全員揃ったことを確認して、三谷が口を開いた。

 「よし、それじゃあ今から始めるぞ。まずは連絡事項だが、今日の朝礼で新生徒会役員を紹介する。一年生二人は勿論だが、他の役員も並んで登壇するから、時間になったら全員で体育館に行くぞ」

 三谷の言葉に役員全員が頷いた。中学校の時も生徒会に入っていた古折にとって、朝礼での紹介は予想できることだったが、次の三谷の言葉は、予想していなかった、というより知らない事柄だった。

 「あと今週の金曜日、つまり明後日だが、放課後に三校合同で競技会の打ち合わせ会議がある」

 「三校合同って……じゃあ私達が向こうに行くってことですか?」

 三谷の発言で出たワードに抱いた疑問を、古折よりも先に箱崎が尋ねた。三谷は笑って、その質問に答えた。

 「まさか。一校は二校の校舎に行くようだが、俺たちはテレビ会議で参加だ。ちなみに先に言っておくけど、その時には機材のセッティングとかの手伝いで、知り合いを一人呼ぶ。知り合い、といってもここの生徒だけどな」


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