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Side3:第二十章

 第三魔法学校では、一年間のうちに、一学期の中間および期末テスト、二学期の中間および期末テスト、三学期の期末テストという合計五度のテストが実施されていた。このうち、魔法の実技テストが課される期末テストのほうが成績に加味される割合は高いのだが、一部の優秀な生徒にとって、一年時の一学期の中間テストというのは、既に何度か述べた通り、生徒会に所属できるかどうか決まるという点で、ある意味他のどの時のテストよりも重要だった。

 だが、いよいよ今日からその重要な一学期の中間テストが始まるというのに、朝、士沢が学生寮の玄関口に着いた時、目下学年一位の最有力候補とされている古折は、普段と何一つ変わらない表情で士沢に声をかけてきた。

 「おはよう」

 「……よう」

 声をかけられた士沢は手をあげて答えたが、直後に大きく欠伸をした。士沢が普段よりも眠たげにしている理由を、古折はすぐに察して言った。

 「その様子だと、昨日は遅くまで勉強していたようだな」

 「まあな……途中で寝ちまったけど」

 「睡眠は大事だ。試験中寝てしまったら、せっかく勉強してきても無駄になってしまう」

 「そんな当たり前のこと言われなくても、分かってるさ」

 士沢は少し伸びをして、周りを見渡した。基本的に、魔法都市の中で、第三魔法学校周辺のエリアにある住居は生徒あるいは教職員のものだから、朝の八時にこのあたりの道を歩いているのは大半が学生寮から登校する生徒だったが、彼らは皆、テストについて話し合ったり、作成した単語シートを確認したりして、来たる障壁の対策に勤しんでいた。その光景を見て、自分もギリギリまで粘るべきかと思った士沢だったが、隣の古折が何の緊張も見せず、いつも通りの様子で歩いているので、むしろ変に構えずにいたほうがテストで本調子を出せて良い結果に繋がるかもしれないと思い直した。

 「俺の心配するよりも、冬弥は自分のことを気にしろよ。……まあ、見た感じ全く緊張してなさそうだから、しくじることも無さそうだけどさ」

 「緊張、してないように見えるか」

 「えっ?」

 想定していなかった言葉が返ってきたので、士沢は思わず問いかけ直してしまった。中学の頃から、士沢の知る限り全ての校内テストで成績一位を取ってきた古折が、ここに来てテストで緊張することなど有り得ないと決めつけていたが、口ぶりからすると、どうやらそんなことは無いようだった。

 「この魔法学校の生徒が勉強にかける情熱というのは、俺たちの通っていた中学の生徒のそれとは比べものにならないと、俺は思っている。それに、入学試験で一位を取ったと言っても、二位とどれほど点数の差がついていたのかは分からない。今日に至るまで、俺も勉強してきたつもりだが、中間試験でも俺が一位を取れるという根拠はどこにも無いんだ」

 「……」

 いつも通り理に適った古折の言葉に、士沢は黙ってしまった。確かに、第三魔法学校の生徒は皆、世界を救う魔法使いになるという一心で親元から離れてやってきた、活力に満ち溢れた若者だった。士沢の脳裏に、図書室で見かけた、あの勉強熱心な女子が浮かび上がってきた。中学の頃までは、あそこまで勉強熱心になっている生徒を見たことが無かった。そう考えると、古折が中学で成績一位を取り続けたことなど、何の当てにもならないと思えてきた。だが、士沢には、古折に言えること一つがあった。

 「それでも、入学試験で冬弥は確かに一位を取ったんだ。入学の時、冬弥は他の入学生全員に勝っていたんだ。それは自信にしてもいいと思うぜ」

 「それは、そうだな……」

 到底そうは思えない、と古折が思っているのは言葉の調子から明らかだった。士沢の言葉など今更言われるまでもないことだというのは、口にした士沢自身分かっていた。しかし、珍しく緊張している様子の親友に対して、何ら緊張がほぐれる言葉がかけられないというのはとても悔しいので、士沢はしばらく黙って考えた。

 「……あのさ」

 最初に浮かんできた言葉は、少し気取った台詞だったが、もう学校に着くまでの猶予が無いので、仕方なく士沢は言葉を続けた。

 「俺は一位なんて取ったことがないから、正直そういうことは良く分からない。けど、俺は信じてるんだ。俺の親友の古折冬弥は必ず一位を取れるってな」

頭の中に浮かんできたのは理屈も何もない精神論だった。だが、士沢の言葉を聞いた古折は微笑みを見せた。

 「ありがとう、幸信の言葉を励みにするよ」


 玄関に最も近い階段からは、士沢の在籍する一年三組の教室のほうが、古折の在籍する一年一組の教室よりも手前にあるので、毎朝、士沢と古折は一年三組の教室前で別れていた。

 「それじゃあ、テスト頑張れよ」

 「そっちこそな」

 扉を開けて士沢が教室に入ると、黒板前で学級委員の相田と串山が話し合っていた。串山はプリントを、相田はチョークをそれぞれ持っていた。自分の席のもとに移動しながら、そちらのほうを見ていると、程なくして相田がチョークを使って黒板に何やら文字を書き始めた。文字を追っていくと、「1.社会 9:00~10:00」という一行が書かれ、その下には同様に科目と時間が記されたものがもう二行書かれていた。つまり、相田が黒板に書いたのは何のことはない、今日行われるテストの時間割だった。改めて、中間テスト一日目の時間割を確認すると、一時間目が社会、二時間目は数学、そして三時間目は魔法理論だった。士沢が昨夜勉強していた科目が並んでいるが、黒板に書かれたうち、士沢は魔法理論の文字を見つめた。

 中間テストで試験が実施される科目のうち、魔法理論以外の科目は、やる内容こそ異なるものの、中学の頃からも学んできた、言ってしまえば慣れ親しんだ科目で、テストも大よそどのような形式で出されるか予想できていた。たとえば、社会ならば、重要な単語を穴埋め式で答えていくなり、問題に対する解答を、指定された文字数以内で書くなりといったテストが課されるだろうし、数学ならば、与えられた問題に対する解答を文章や式を用いて書くテストが課されるだろう、という推測ができた。

 しかし、魔法理論の場合は、一体何をどういった形式で問われるのかということについて、推測材料が足りなかった。一応、授業中に教師が強調して説明したことがテストに出る確率が高いということは分かるが、それにしても形式のほうは全く定かではなかった。また、魔法理論は、魔法学校が一番力を入れているといっても過言ではない科目なので、毎日二時間ずつ、週に合計十時間も授業をしていた。魔法理論の授業を行う教師は三人おり、それぞれの教師ごとにテストを作るため、三日間ある中間テストにおいて、毎日別の魔法理論のテストが課されることになっていた。それゆえに、士沢は魔法理論の出来は生徒によって大きく差が開くと考え、テストの一週間前から魔法理論について特に勉強してきた。

 「皆、席につけー」

 しばらくしてから、担任教師が教室に入ってきた。生徒全員が各々着席したのを確認してから、朝のホームルームで連絡事項とテスト中の注意を伝え、すぐに教室から出て行った。試験監督は各時間で異なり、必ずしも担任教師が試験監督をやるというわけではなかった。

 朝のホームルームが終わって三十分ほどしてから、一時間目の試験監督となる教師が教室に入ってきた。中にテストの入った封筒を抱えるその姿を見た生徒は、もう粘って勉強する時間はないと悟り、一様に自分の座席に着いた。

 教師が封筒からテスト用紙を出して、生徒に配り始めた。士沢は前の席に座る佐納からテスト用紙を受け取り、一枚とってから後ろの生徒に渡した。解答用紙も同様にして受け取り、あとは開始の合図を待つのみとなった。

 士沢は目をつぶって、テスト一週間前から自分が勉強したことを思い出していた。あれだけ勉強したのだから、きっと良い結果になるはずだ、そう何度も自分に言い聞かせた。

 そして、その時が来た。教室に、チャイムの音が鳴り響いた。

 「それでは、試験を始めて下さい」

 チャイムの音と同時に、教師が試験開始の合図を出した。教室中の生徒が一斉にクラス用紙を開けた。紙のめくれる音を聞きながら、士沢もペンを握ってテストの用紙を開いた。


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