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Side3:第十三章

 士沢は今まで、三つの魔法学校の違いについて、深く考えたことはなかった。日本の本土に存在し、半世紀も前から魔法の発展に貢献する人材を輩出してきた第一魔法学校と第二魔法学校。一方、人工島の魔法都市に存在し、歴史は二十年にもならない第三魔法学校。この対照的な構図が、何を引き起こすかということを想像していなかった。

 だから士沢は、一校と二校の生徒が、三校の生徒を侮蔑しているという三谷の言葉に驚いたものの、即座に信じることはできなかった。同じ魔法の道を志す者同士、所属は違えども、仲良くできたら良いと思っていた。

 「そんなことが……本当に?」

 士沢は、疑問で返した。

 「馬鹿みたいな話だろ」

 三谷は、表面上は平然としていた。通常、この返しならば、言葉は真実だと判断できるが、三谷は、ふざけて冗談を飛ばす時もあれば、真剣に物事を語る時もある。士沢は、三谷と知り合って間もない。今の三谷がどちらなのか分からない士沢は、もう一度、遠慮気味に尋ねた。

 「……俺たちは、一校や二校に落ちこぼれとか言われるほど、魔法の実力が劣っているんですか」

 「そんなことは断じて無え」

 三谷は即答した。そこには一切の冗談も含まれていない。言い切るだけの自信が、三谷にはあるようだった。そして、自信があるからこそ、三校の扱いにこれ以上ないほどに憤っている。先ほどから表情を変えない三谷の内に、そんな感情が渦巻いていることは、士沢にも容易に推測することができた。

 「確かに、三校が設立された当初は、教員のほうにもノウハウがねえし、そもそも魔法都市自体が出来たてだからそりゃもう雑然としてて、生徒の魔法の実力は、他校とは比べものにならなかったらしい」

 三谷は言葉を続けた。しかし、その内容は、先の力強い即答に反するかのようなものだった。

 「この話になる前に、競技会の話をしたな。競技会は、多くの一年生にとって、初めて他の魔法学校の生徒とふれあう機会だ。つまり、そこで初めて、一校や二校に、自分たちを見下す生徒が少なからず居るってことを知る一年生も多いわけだ」

 「確かに……」

 士沢は頷く。偶然が重なった結果、士沢は三谷から事情を教えてもらえたが、もしそれらの偶然が存在せず、三谷とこの会話を交わすことが無ければ、競技会で初めて事情を知り、そこでショックを受けていたことだろう。

 「過去、競技会の時に、三校のとある生徒が、他校の生徒に、嫌がらせを受けたり、クズだと言われたりしたことがあってな。この世界を脅かす魔物に唯一対抗できる魔法使いに憧れて魔法学校に入ったものの、自分の入ったところは他よりもレベルが低く、そのことで落ちこぼれと揶揄される。自分の志は、一校や二校の生徒と何ら変わらないというのに。……思い悩んだ結果、その生徒は三校を退学した」

 「……!!」

 再度、士沢は驚いた。しかし、今度は信じられない話というわけではない。士沢もまた、魔法使いへの憧れから魔法学校に入学した一人だ。魔法学校は夢見る世界への第一歩と言えるのに、突然と、そこには悪意が当然のように存在することを突きつけられたら、自分の憧れとは何なのかと問いたくもなる。

 ――そういえば。

 士沢の脳裏に、はじめて間近で見た魔法が浮かんだ。何の予兆も無く現れた魔物を、一瞬で貫き消し去った氷の槍。あれを放った魔法使いが誰なのかは、結局今に至るまで分からずじまいだが、その魔法使いは一体どんな人物なのだろうか。どの魔法学校の卒業生なのか分からないが、魔物との戦闘を単独で行えるほどのエリート魔法使いだ。一校や二校の卒業生という可能性は高い。もしそうだとしたら、果たしてその魔法使いは三校の生徒をどう思っているのだろうか。落ちこぼれと思っている側だろうか。

 ――そうだったら、嫌だな。

 士沢は素直に思った。

 ――だけど、あの魔法使いは俺たちの恩人だ。どんな人物だろうと、それは変わらない。もし蔑まれてても、いつか必ず恩は返さないとな。

 そして同時に、改めて自分に言い聞かせる。士沢は、魔法使いになると決意した時から、この思いを常に胸に抱き続けてきた。

 「だが」

 「!!」

 いつの間にか、話の本題から逸れて物思いに耽っていた士沢は、力強く発せられた三谷の言葉でハッとなった。力強かったのは、単に三谷の思いの強さというだけでなく、士沢の意識を会話に戻すという理由もあったかもしれない。

 「現在に至るまで、魔法都市での研究は急速に発達しているし、三校は一丸となって魔法の実力を養ってきた。今や、一校や二校と比べても、実力は遜色無えんだ」

 「それなら……」

 尚更どうして、という疑問が士沢にはあった。実力に差が無いのなら、いくら重ねてきた歴史があろうと、一校と二校の生徒が三校の生徒を落ちこぼれ呼ばわりする理由はないはずだ。

 三谷は、今度は即答しなかった。ずっと士沢に向けていた視線を、廊下の天井に向けた。どこか遠い、それも空間的ではなく時間的に遠い所に思いを向けているようだった。三谷はしばらくそうしてから、再び士沢に視線を戻して答えた。

 「イメージ、だな」

 「イメージ?」

 士沢は、三谷が出した言葉を、オウム返しで言った。士沢は、三校への差別の理由がもっと根が深い所にあると思っていたので、三谷の返答が意外だったのだ。漠然としていて、何と言えば分からない。

 「これは一校の話だが、魔法が本格的に研究されだした当初から、魔法の発展に貢献してきた、いわゆる魔法使いの名家の子っていうのは、大抵一校に通うことになる。これについては士沢も何となく知っていると思うが、何でだと思う?」

 イメージについて具体的な説明するかと思いきや、三谷はよく知られた話を出した。急に質問されて士沢は戸惑い、しばらく黙り込んだが、話の流れから、士沢は答えを出す。

 「名家の子は一校に通うものだっていうイメージが、親にあるからじゃないですか」

 士沢は言ってから、自分でもなんと漠然とした答えだと苦笑した。だが、三谷は士沢の言葉に頷く。それは、士沢の苦笑も認めるという行動だった。

 「そう。そういった家は、一校以外は最初から興味は無いってことだ。つまり、知らないし知ろうともしない。かろうじて二校が張り合っていることを頭の隅に置いているくらいじゃねえかな。三校は果たして彼らの中に存在しているんだろうか」

 三谷が軽快な、というより馬鹿にしたような口調で言う。

 「三校蔑視はそういった名家出身の生徒のイメージからスタートしている。何せ知らない訳だからな。そこにいる生徒も高が知れているっていうことだ。そして、名家の生徒がそう思い込んでいるから、それは事実だと周囲は思う。蔑視は広がるんだ。これが一校の話だ。ちなみに二校は一校への対抗意識が強すぎて三校が眼中にない。つまり知らないっていう根が同じだから一校と同じようなことになるってのも道理だ」

 「それが、理由……」

 士沢は、ぽつりと言葉を漏らした。それ以外に、言うことが無かった。深く沈む気持ちになった士沢を見て、三谷は明るく、しかし真剣に言葉を発した。

 「魔法界に蔓延る、こんな下らないイメージを払拭するのが、歴代の三校の生徒会長の目標だった。そしてそれは俺も同じだ。もちろん、簡単なことじゃあない。イメージってのは、魔法の基本要素だ。魔法で名を上げた連中が持つイメージを崩すことは、生徒会長一人で出来ることではない」

 三谷は士沢を見たまま、ニヤリと笑った。

 「だから、お前も含めて、三校全員が一つとなって、絶対に抗わなくちゃならないんだ」


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