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Side3:第十二章

 「あの、三谷会長」

 士沢が三谷に声をかけたのは、生徒会室から出た後、しばらく廊下を共に歩いてからのことだった。士沢の着ている制服の袖を掴んだまま、前を歩いていた三谷は、その言葉で立ち止まり、士沢に顔を向けた。

 「どうした」

 「俺はなんで引っ張られているんでしょうか」

 士沢の疑問に対して、三谷は立ち止まった。そして不思議そうな顔をして言った。

 「見りゃ分かるだろ、俺の腕だが?」

 「手段じゃなくて理由を尋ねてるんですよ!!」

 周囲には二人の他に誰も居ない廊下に、士沢の声が響いた。そして、再び廊下が静寂に満たされてから、三谷は笑顔で、士沢に拍手を送る。

 「良いツッコミだ」

 「随分と使い古されたボケしますね」

 士沢は呆れ顔だったが、三谷は真面目な表情を作った。

 「お決まりのボケでも、生徒会だと返してくれないんだよ。……鈴菜は分かってないし、伊勢井は分かってるけど傍観してるし、北は構ってくれないし」

 一応、生徒会室において最も上の役職に就いている三谷の扱いはぞんざいなようで、三谷はとても寂しそうな表情だった。生徒会室は笑いを取りに行く場ではないので、他の生徒会役員の反応は妥当なのだが、それを突っ込むとまた三谷が喜んで話が脱線してしまうので、士沢は最初の疑問を繰り返した。

 「俺はなんで引っ張られているんでしょうか」

 「訓練室まで付いてきてもらうためだ」

 流石にもう一回ふざけるのは本人でも面白くないと判断したのか、三谷は理由を告げた。しかし、士沢の尋ねたいことからは、少しピントがずれている。

 「どうして訓練室まで俺が付いていくんですか」

 「見せたいもの……というか、見といて損は無いものを士沢に見せるためさ」

 士沢はしばし黙った。訓練室で見せる、ということは何かしらの魔法なのだろう。同行は強制ではないようだが、自分より遥かに高い魔法の技量を持つ三谷にわざわざこう言われては、断るのも失礼だろう。

 「どうせ帰ってもやることないだろ?」

 黙っている士沢に追い打ちをかけるべく、三谷が失礼な言い方をした。発言に若干ムッとした士沢だったが、事実なので反論することもできない。

 「……分かりました。とりあえず、手を離してください」

 「よし」

 士沢の制服の袖から手を離して三谷は前に歩き始めた。

 「それで、今から何をするんですか?」

 士沢は、三谷の横に並んで、尋ねた。

 「何だと思う? ヒントは北との会話」

 逆に、三谷が士沢に尋ね返した。歩きながら士沢は先ほどの生徒会室でのやりとりを思い出す。机の上に溜まった書類を投げ出して訓練室に行こうとする三谷に怒った北に対し、三谷は何と言ったか。

 「……パフォーマンス……」

 「はい正解」

 士沢が思い出して、ぽつりと呟いたのを受けて、三谷が即座に士沢を指差した。

 「その、パフォーマンスって一体……?」

 士沢の更なる疑問の言葉に、三谷は、それを言われるとは思わなかったという、驚きの表情を少し見せた。パフォーマンス、という言葉で士沢が了解すると分かると思っていたのだろう。しかし、士沢の頭の中には該当するようなイベントは浮かばなかった。

 「ああ、そこから説明するべきか。……六月に、三校合同の魔法競技会があるだろ?」

 「はい。どんなことをやるのか、は知らないですけど」

 入学式の日に、教室で行われたオリエンテーションの際に配られた年間行事予定表に、競技会という文字が書かれていたことを士沢は思い出した。確か、体育祭に相当するイベントだったはずだ。

 「その競技会で、魔法技術の発表ってことで、各校生徒会がパフォーマンスを披露するんだよ」

 「なるほど。……あれ、でも生徒会ってことは……」

 士沢は、パフォーマンスがいつ行われるのかについては理解したが、そこで疑問が出てきた。現在、第三魔法学校生徒会に存在する二つの空席は、五月半ばに実施される中間試験の結果、成績上位をとった二名によって埋まる。士沢は、中間試験の成績発表から競技会までの日数をざっと計算した。

 ――二週間もないじゃないか。

 いくら成績優秀者とはいえ、短期間で、大勢の観客を前に披露できるレベルの魔法を習得できるものなのだろうか。自ら使える魔法がまだ無い、見習い魔法使いとさえ言うのも憚られる状態の士沢にはそれが疑問だった。

 「もちろん、入ってきた一年生にも、パフォーマンスに参加してもらう。うちは生徒会のメンバーが揃うのが遅いから、他校より簡単な魔法だ」

 士沢の疑問を見通して、三谷は言ったが、その表情は不満げだった。他校と比べて、披露する魔法が簡単なことに対する不満か。

 ――でも、それはしょうがないよな……。

 高度な魔法の技術を持つ三谷にとっては、他校より簡単な魔法は退屈なのだろうが、生徒会に入りたての一年生は、そうではない。三谷の態度は、自分勝手と言えるのではないか。

 「……簡単なものをやるのが退屈ってわけじゃねえんだよ」

 「えっ……」

 漏れ出した三谷の言葉に、士沢の思考は止まった。三谷は一度目をつむって、ため息をついてから言葉を続けた。

 「一校、二校に比べて三校は簡単な魔法をやるっいうのは、生徒会のシステムによるものだけじゃないと、俺は思う。三校は歴史が浅い。伝統ある一校と二校と同じレベルのものを披露することを、向こうが受け入れるだろうか」

 「それは……」

 考えすぎではないか、と士沢は思った。確かに、一校と二校に比べると、三校は新しく出来た学校だ。だがそれは単純な年数の違いで、三谷が言うような差別を生み出す要素だと士沢は思わなかった。

 「まだ、入学したばかりの士沢は知らないだろうが、一校や二校には、俺たち三校のことを、クズの、出来損ないだと言う連中がいるんだ。それも少数じゃねえ」

 「……!!」

 士沢は、声には出さないが、ひどく驚愕していた。

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