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Side3:第四章

 慣れない環境における時間の流れはとても早いということを、士沢は身をもって実感した。黒板に書かれた日付は今日で入学式から一週間が経過していることを示していたが、体感とはまるで一致していなかった。そもそも、士沢にとっては魔法都市に来たのがほんの昨日のようなことに思えた。

 士沢は視線を黒板に書かれた日付から左に移していく。そこには、士沢のクラス担任の文字で、学級委員や放送委員、図書委員などの第三魔法学校に存在する委員会名がずらりと並び、更にその横には担任が独自に決めたクラス内の係の名前が並んでいた。

 黒板の左端まで使って全ての役職を書き終えた担任は、持っていたチョークを置き、生徒たちのほうへ振り返って言った。

 「それじゃあ、今から委員会とクラスの係を決めていくぞ。枠はクラスの人数とぴったりだから、必ず一人一ついずれかの役職に就くこと」

 

 担任はまず二人の学級委員を決め、以降は彼らに進行を任せると決めていたようで、学級委員が決まるやいなや、あとは学級委員に任せたといって教室の一番後ろに椅子を置き、そこに座った。

 担任と入れ替わるように教壇に立った学級委員は男女一名ずつで、男子生徒は串山くしやま 秀作しゅうさく、女子生徒は相田あいだ 優歌ゆかといった。

 「では引き続き、委員会とクラスの係を決めます。黒板の右から順に立候補制で決めていくので、立候補者は希望する委員会・係の時に挙手してください」

 串山が淀みなく、教室全体に届く声で言った。

 ――いかにも学級委員です、って感じだな。

 士沢は串山の手慣れた様子を見て、串山は小中学生の頃から学級委員を務めていたのだろうと予想した。心なしか、串山の掛けている眼鏡が光っているようにみえる。

 ――そういえば、委員になるってことは生徒会には入る気がないのか。

言動を見て、おそらく串山は頭の良い部類の人間だろうと士沢は決めつけたが、同時に疑問が生まれた。第三魔法学校の生徒会に入ろうと思っている生徒は、掛け持ちが不可能なことから委員会には所属しない。ゆえに、学級委員となった串山は、この時点で生徒会に入る可能性が無くなった。

 もちろん、生徒会の枠は狭き門だ。自分より勉強のできる生徒が二人いたらそれだけで道は閉ざされる。しかし、これまでの学校生活の大半において学級委員を務めてきた友人・古折が生徒会を目指していることから、そういった真面目なタイプの生徒は全員生徒会を目指すものだと士沢は思っていた。

色々な考え方があるんだな、と士沢は考え直した。日本全国から第三魔法学校に集まった生徒の性格や物の考え方は、それぞれで大きく違っているのが当たり前だ。更に言えば、それらは流動的なもので、日々変化している。

 変化といえば、今日この時間のロングホームルームでは、一年の全クラスで同様に委員会と係決めが行われている。古折がその様子を見ているだけ、というのを士沢は想像できなかった。

 

 串山の円滑な進行により、委員と係が次々と決まっていった。串山が進行を受け持ったことで、自動的に書記担当となった相田の手によって、委員会名の下に役職の決定した生徒の名前が入れられていく。希望者が現れず枠が埋まらない役職はさっさと飛ばし、ひとまず一巡した所で、串山は言った。

 「とりあえず最後の係まで聞き終わったのですが、まだ空いている所があります。また順に聞いていくので、この職ならやっても良い、というところで挙手してください」

 士沢は串山の発言を聞きながら、一昨日の帰り道、古折にどの役職につくか決めておいたほうが良いと言われたことを思い出していた。その時は考えておくと返事はしたものの、結局今日に至るまで具体的なことを何一つ決めていなかったのが現実だ。

 物事をその場の勢いだけで処理しようとするのは、士沢の昔からの性格だ。綿密な計画を良しとする古折は、度々それに苦言を呈しているが、士沢は現在まで改めてはいなかった。より詳細に言えば、改めるための努力もしなかった。

 ――今はそれで後悔はしていないから、別にいいんだけどな。

 ひとまずネガティブな方向の考えを止めて、士沢は黒板を再び見る。空きのある役職名の上には、あと必要な人数が書き加えられていた。それらを順番に見ていくと、士沢は一つの役職名が目についた。

 「――では次、美化委員。あと一人ですが、やる人いますか」

 「はい」

 「他に希望する人が居ないようなので、士沢君が美化委員でよろしいですね」

 周囲から、同意の拍手が贈られた。士沢は挙げた手を下ろし、視線を自らの机に下げた後、小さくため息をついた。

 ――たまたま目についたやつが読み上げられたからつい手を上げてしまった……。まあ別にいいけども。

 動揺がまさか挙手にまで発展するとは、と士沢は自分でも驚いていた。


 その後、余った枠に生徒が滞りなく収まっていき、授業終了のチャイムが鳴る五分前には、相田が最後に挙手した生徒の名前を黒板に書き終えた。

 串山はほっと一息ついて言った。

 「これにて全ての委員と係が決定しました。自分が何の職に就いているのかは、個人で覚えておくようにしてください。……先生、他に何か決めることはありますか」

 「いや、今日はもうない。学級委員の二人、ご苦労だった。席に戻ってくれ」

 担任は椅子を片付け、教壇に戻った。

 本日の時間割はロングホームルームで終わりなので、そのままショートホームルームに突入した。

 「さて、委員会に入る者は、今日の放課後からさっそく活動がある。顔合わせと委員会の説明が行われるので、自分の委員会はどの教室でやるのか、黒板に張ってあるプリントを見て確認すること」

担任はそのほかにいくつかの連絡事項を言った後、号令をかけた。

 「それでは、起立、礼」

 「さようなら」

 礼をした生徒が、一斉に騒がしくなる。士沢はそんな彼らの間を縫うようにして黒板までたどり着く。もちろん、この後の委員会の活動場所を調べるためだ。

 「えっと美化委員は……お、あった。三年三組の教室か」

 士沢と同様に、場所の確認をしにきた他の委員が集まってきたので、慌てて士沢は混雑から抜け出す。そして自分の席に戻り鞄を取ってから、掃除のために机を教室の前方に詰めたところで肩をぽんぽんと叩かれ、背後から声がかけられた。

 「あの……士沢くん、ですよね」

 振り返って、声の主を見る。そこに立っていたのは、一人の女子生徒だった。声が小さいのと、初対面の士沢に対してみるからに緊張しているところをみると、気はあまり強くないようだった。

 「ああ。えっと――」

 士沢は頷いて同意したが、この女子の名前が分からないので困った。その士沢の様子を見た女子生徒は、今度ははっきりとした声で言った。

 「私、士沢くんと同じ、美化委員の竹森たけもり 真衣まいです。よろしく、お願いします」


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