Side1:第三十四章
「いや、そういうのは届いてないわねえ」
「そうですか……」
「そもそも学校にそんな高価なものを持ってくるっていうのはねえ、どうなのかと思うのよ」
「……すいません。いや別にそんなに高いものじゃないと思うんですけど、大切なものというか。あ、俺他のところに落としてないか見てきますんで、これで」
「あ、こら、待ちなさい!」
職員室で担任の結城教諭を捕まえて聞いてみたが、指輪の落し物はないそうだ。背中で声を受けながら、早足で職員室をあとにする。
そっとポケットから携帯端末を取り出し、時刻を確認。うげ、と思わず声が漏れる。もう教室に戻らないと、授業開始に間に合わなくなる。そういえば廊下は生徒の姿がまばらになっている。小走りに教室を目指しながら、続きは放課後か、と溜息を吐いた。
授業が終了し、いつもどおり速やかに教室を出る。授業中にもずっと考えていたが、思い当たるところはもうすでに授業中に調べつくしたような気がする。昼休みにサボってしまったこともあるし、ここは一度生徒会室に行き、まだ探していないところを思いついたらその時に探しに行くほうが良さそうだ。
「内藤くん!」
後ろから声をかけられる。肩越しに振り返ると思った通りの人がそこに立っていた。彼女が追いつくまで一旦足を止める。
「よう、田辺」
「よう、じゃないよ。昼休みは生徒会に来ないし、メッセージ出しても返事ないし」
「あれ、そんなの来てたか。ごめん、気づかなかった」
「まったく……今は競技会も終わって、そんなに仕事がないから大丈夫だと思うけどさ、また熱出したか、って先輩たち心配してたよ」
「人を病弱みたいに扱うなよ……熱出したのなんて一回だけじゃないか」
そんな話をしながら並んで階段を上がる。
「お疲れ様です」
「あら、たーくん、大丈夫?」
「熱は出してないっすよ。ちょっと昼は用事があって、来られなくてすみませんでした」
「まあ、今はそんなにお仕事があるわけでもないし、大丈夫だけど。心配しちゃうから、連絡はちゃんとしなきゃダメよ?」
「はいっす」
そんな会話を会長と交わしながら、いつもの自分の席に座る。それから普段通りの業務が始まる。と言っても、田辺や会長が言っている通り、簡単な雑務ばかりである。大きなイベントが終わって、その後処理まで終わってしまうと、なんとなく物足りないような気すらしてくる。
そうなると自然、いろいろと考え事をするわけで。懸案事項があれば尚の事である。
「内藤くん、大丈夫?」
不意に、岩渕先輩に声をかけられた。
「え――あ、はい。大丈夫ですけど」
「そう、ならいいのだけど。今、完全に手が止まっていたから」
「あれ……そうでしたか。すみません」
「いいのよ、急ぎのこともないしね。それより、なにか心配事でもあるんじゃない?」
「いや……そんなことは」
「嘘はダメよ、たーくん」
今度は会長が、手に持った書類をトントンと揃えながら口を挟んできた。
「会長、別にそんなことはないって言ってるじゃないですか」
「いいえ、あるわ」
何故か断言する会長。
「こういう時の聖美は鋭いの。聖美があるって言ってるんだから、きっと何かあるんじゃない?」
「そうねえ、例えば……なにか大事なものをなくした、とか」
意味有りげな視線をこちらに投げる岩渕先輩。なんで知ってるんだこの人……いやいや、カマをかけただけかもしれない、と思ったところで、
「今、露骨に顔に出てたわよ」
「顔に出てるよ、内藤くん」
会長と加藤先輩に同時に指摘される。
「……わかりました、正直に言います」
適当なところでお茶を濁しておこう。ここにいる人たちは各学年やクラスでも中心的になっている人ばかり。もしかしたら、なにか知っているかもしれない。
「実は、まあお察しの通り、捜し物をしてまして。昼休みも、それを探していたから来られなかったんです」
「そんなに大事なものを?」
「まあ、大事かどうかといえば、結構大事というか」
「どんなものなんだい?」
「指輪、です」
その言葉に、生徒会室全体の空気がざわつく。
「指輪……指輪って、たーくんいつの間にそんな……」
「内藤くん……そっか、そうだよね、うん。おめでとう、内藤くん」
「待て待て待て、待ってくださいよ。指輪で何を想像したのか知りませんけどね、そんなんじゃないです。決してそんなんじゃないです」
「照れなくてもいいのよ」
「岩渕先輩、絶対わかっててやってますよね、その顔」
一旦咳払いをして、
「指輪は、その、親にもらったもので、お守りみたいなもんです。ほら、俺魔法下手なんですけど、あれつけてるとなんかいつもよりうまく行く気がして、それで魔法使うとき、こないだの競技会とか、授業の時とかも、つけてたんですよ」
「……そういえば、つけてたわね、指輪」
「でしょう。……会長、なんで若干残念そうな顔をするんですか」
会長は残念そうだし田辺と加藤先輩はホッとした表情だし、岩渕先輩はニヤニヤしている。
「……ということで、そんな感じのものを見かけたら教えてください。ないと、結構やばいので」
なにぶん、親にもらったなど言うのは嘘っぱちだ。そんなものよりずっと重要度というか緊急性が高い。あれがないと普通には魔法が使えないから、授業でも支障が出るのは間違いない。
「たーくん、それ、いつなくしたの?」
急に真面目な表情に戻った会長が、問いかける。
「ええと、四時間目の実習で使って、着替えて教室に戻ってみたら持ってなくて」
「四時間目のあとね。それでどこでなくしたと思ったの?」
「着替えたあとに気づいたから、更衣室かなと。更衣室で外した記憶はあるんで」
「そう、じゃあ加藤くんは男子更衣室、私と聖美はその周辺と訓練室の付近、きょうちゃんは教室かしら。たーくんは自分のポケットとジャージのポケットを確認してみて」
「ちょちょ、待ってくださいよ。俺、そこらは全部見ましたよ」
「七たび探して、って言葉を知らない? 一回見ただけじゃ見落としがあるものよ。何回か確認してみないと」
「それでも、生徒会の活動時間を削ってまでするようなことじゃ」
「何度も言うようだけど今はそんなに仕事がないし、急ぎのものはもう全部終わってるの。だから、今日はもう生徒会は店じまい……あ、緊急対応があるから、誰か一人ここに残ってないといけないけど、それはたーくんがここにいるから大丈夫よね」
そう筋道立てて返され、ぐうの音も出ない。
「聖美も加藤くんも、それで問題ないわね?」
二人が首肯するのを確認し、会長は椅子をガタッと言わせて立ち上がった。
「それじゃ、全員解散。捜索開始よ!」




