仮想死
VRMMORPGの一つである、「7th World」が流行っているこの世の中。
ある、神経症が、マスコミに取り上げられるようになった。
それは、仮想死というものだ。
この症例は、日本で初めに報告された。
ゲームの中でキャラそのものとなり、遊ぶことができるというVRMMORPGは、それだけで素晴らしい技術であり、ゲームであった。
VRとは仮想現実のことであり、今や様々な分野に転用されている。
その中でも、世間一般に広く認知されたのがこのゲームであった。
仮想現実では、自らの行動を現実のものとして脳が認識する。
そして、行動の結果の一つとしてゲーム中での死が存在する。
これは決してゲームオーバーというわけではないが、人生の終了と脳は捉えた。
その結果、心筋梗塞のような状態になることが多々見受けられた。
最初の症例は、軍であった。
訓練中にVRを利用した軍であったが、模擬実戦において敵の銃弾によって射殺された際、脳のドーパミン値の急上昇、拍動の急増、血管の拡張、さらには多汗という症状が現れた。
また、自分が死んだという感覚が生々しく残り、それがためにPTSDになる人も現れた。
だが、それは機密とされた。
そして7th Worldが発売され、同様の症例が現れた。
当然、個人差があるので、必ず発症するというものではない。
しかしながら、それが社会問題化するのに、時間はかからなかった。
それでも、7th Worldは売れ続けた。
現実に死ぬということがないためだ。
仮想死の恐ろしさはそこにある。
アメリカで大規模な実験が行われたことがある。
2500人中、仮想死を発症したのは3人だった。
だがその3人も、5回もしているうちに慣れてしまい、症状はなくなった。
つまり、死に対して耐性ができてしまったということだ。
医学界は、それに対して危惧を表明した。
死を恐れなくなれば、殺人や暴行をしても罪悪感がなくなるということが理由であった。
だが、それに対しては、何の返答もないままである。
そして、いつしかそれが当たり前の世界となり、今では新聞やネットニュースに載ることもなくなった。