急変(1)
プシューというスプレー音。同時に男たちが怒声をあげる。
「てめぇ、何しやがる!」
扉の方に注意を向けていた佐藤は、いったい何のプレイだよとベッドに視線を戻し、少しだけ驚いた。男の一人がベッドの下で伸びている。二人の男が女を取り押さえる前に、カモシカのごときすらりとした足が、針金男の鼻に入った。寸胴男が針金男を蹴り飛ばした足をつかむが、追い打ちにスプレーを吹き替える。男は目を押さえながら悲鳴を上げた。
「おいおい、どういうことだぁこれ」
「た、助けて……!」
女が潤んだ目で胸元を押さえ、助けを求め―――――る素振りを見せ、スプレーを見せたものだから素早く女を引き倒した。
「離せっつの!」
色気はどこへ? と首をかしげたくなるようなだみ声で、女が怒鳴りつけるが、目つぶしスプレーをちらつかせ、花に蹴りを入れるような女に手加減するつもりはない。たとえ好みだとしても。可愛いとしても。
女の腰にまたがる。今この光景を誰かに見られたら誤解されかねないが、しょうがない。女の逃げを打つ手を押さえ込もうとして――――懐から素早く出されたナイフをよけるため、佐藤は女から離れる。
「っの!」
扉に走る女に追いすがろうとすると、女は近くにあったいすを容赦なく投げてくる。直線的な軌道なので避けることはたやすかったが、女は素早く、佐藤が意識を向けていた扉に体当たりする。なれているかのように扉を開けると、女は非常階段を使用して逃亡した。
「おいおい。何だよあれ」
女って本当に怖いな。
佐藤は心からそう思った。