3.気になる女(2)
《そんなに気になるなら一度やっちゃいな!》
そんな鈴木のエールを送られ、佐藤は昨日の場所を歩いていた。佐藤の最近の持ち場はここらで、それなりに買い手も多いことで有名なのであるが。
「そろそろいくつかさばかないと……」
いい加減に怒られる。商人気質の鈴木はしょうがないと言ってくれるが、昨日、一つも売れなかったと言ったときの仲間である田中の表情とセリフは今でも忘れられない。
《いい加減にしねぇと売るぞ》
何を、と言う前に佐藤は震え上がった。ウジ虫を見るように小説から顔を上げた田中に、リーダー格の渡辺達がなだめてくれたが……。今日まともに売れなかったらきっととんでもないことが起こる気がする……。
「あ」
「あ」
どちらともなく上げられた声と同時に、女はため息をつく。
昨日はスタイルばかりに目をとめていたが、実質よく見ると顔の造形もなかなかだ。だが少女のようである。
髪はこの闇夜にまぎれるかのような黒色だ。白い、薄化粧を施された肌とは、結構寒々しいコントラストが映えた。
「……」
沈黙が続き、興味がわいた佐藤が話しかけようとして、三人の男の訪れにため息をつく。
「お、いい女」
端的に感想を述べたリーダー男は、女の肩にぽんと手を置く。女は上目遣いでいいわと答えた。了承だ。
そしてこれは佐藤にとってもチャンスである。さっと前に出ると、女はともかく男でさえも眉根を寄せ……。だが男は顔をぱっと明るくする。
「いつもお世話になってんなぁー、ちょっと買っとくよ」
「こちらこそ毎度ありがとうございます」
不自然なまでにニコニコし、薬と代金を交換する。これで田中の機嫌を必要以上に損ねることも、何かを売られることもない。一安心だ。
「おい、遊びたいんだけど、そっちは?」
女を値踏みしているリーダーとは別の、針金男が佐藤に尋ねる。媚薬のたぐいを求めているのだろうか、あいにく媚薬の方は持っていない。
「精力剤的なものなら」
「じゃあそれで」
鈴木にニマッとした顔で渡され、どう処分しようか考えあぐねていたところの奇跡だ。代金は……。
と考えて。
「んじゃ金はこのくらい……」
針金の後ろにいる寸胴男は財布を取り出して、それを佐藤が制止した。
「いや、それはいらない。その代わりに遊ぶところ見せてほしいんだ」
女のことを気になったが故の、観察を意図してのことだったのだが、明らかに別の意味でとられ、ぶしつけの目で見られる。
「そっちかよ……」
針金や寸胴も顔を見合わせ、リーダーのコンタクトを送る。リーダーはため息をついて、いいぜと答えた。女は激しく嫌悪の表情を見せたが、それも至極当然のことで、佐藤は肩をすくめる。
「とりあえず、場所を変えましょう」
――――――――――――
案内されたのは、女がたっていた場所から徒歩一分のところにある廃ビルだ。元はホテルだったらしく、ベッドや調度品が多少色あせた状態で置かれていた。女がエスコートする。
「それじゃ……」
リーダーが後ろのふたりに目配せする。後ろのふたりはぶすっとした表情でうなずいた。
一方佐藤は視界の隅に写らないように行動し、部屋を調べていた。気になったのは非常扉。正規のルートから入ったからに、ここはほとんど使わないはずだ。だがホコリは全くたまっていないし、扉には誰かが手を加えたような痕跡があった。
男が女がいるベッドの上に乗って……事態は起こった。