1.ヤクな仲間達
穏やかな風が土手に吹き下ろす。その風は川にさざ波を起こし、草木を静かに揺らす。太陽の日差しはちょうど良い温度で地面を暖めた。つまり、昼寝には絶好の機会なのである。
「……ふぁー」
大あくびをして、キャスケット帽をかぶり込むのは一人の少年、愛称佐藤である。
似合わないサングラスをかけるのは、かっこつけているわけではなく、紫外線対策のためだ。五月は案外知られていないものの、紫外線ピークの時期だ。別に日焼けを気にするような乙女ではないものの、知らず知らずのうちに目が痛んでいるというのは、なかなか怖い気がする。そんなわけで、そんな事実を知ってから紫外線対策のためにサングラスを買った。このキャスケット帽もその一環だ。
「ん。時間ある……」
腕に巻いた時計は、待ち合わせ時間十分前を示してはいたが……。基本気心知れた仲。多少の遅刻は許されよう。
と思っていたわけだが。
「こらーさとー。行くぞー」
仲間に捕まった。
「相変わらずのいばら姫ちゃんだな。俺あっしーの気分だぜ」
「あっしーって?」
「……。仕事しような、今日こそ」
そう悲しげに佐藤につぶやくのは、これまた愛称鈴木である。鈴木は自転車の荷台に佐藤を乗せ、細い道を走っていた。
そう軽くはない佐藤を乗せてのふたり乗車に、自転車はぎしぎし行っているが、この坂道を下ればもう用なしだ。
すでにスタンバイしている仲間が見えた頃に、ブレーキをかける。これがちょうど仲間の目に前に止めるこつだ。これがなかなかスリルが味わえて一興。……惜しむらくは荷台乗車の人間を振り落としたりすること位か……。
キッ――――!
自転車は綺麗な弧を描き、理想な停車をした。鈴木は満足がいったように、見せつけるように手をはたいてみせるが、それが全くかっこよくないことこの上ない。
「ほんじゃまー。ちょいと足を伸ばして佐藤はここでー、鈴木はここら、高橋はー……」
じゃらじゃらと無駄な小物を付けた統率役、愛称渡辺が地図を広げてうきうきと話す。そういえば今日の星占いでは一日中にコニコしていると運気アップだとか……。
佐藤は鈴木がかっぱらってきた自転車の後部座席から降りようとせず、横目で見ながら聞き流していた。
白い粉末をポケットに不用心に入れて、佐藤は有名な繁華街の裏に来ていた。
どんな所でも、光あれば闇があるように、表があれば裏がある。その裏側には、表で所望できないようなものやサービスを提供する。案外裏側は裏側で、法律というルールが決まっている。そういう意味で、治安は良い。……、もっとも表の治安と裏の治安では意味が多少違うが。
「適正価格にサービス付けて、無料ニコニコスマイル……。適正価格にサービス付けて、無料ニコニコスマイル……。適正価格にサービス付けて、無料ニコニコスマイル……」
佐藤が呪詛のようにつぶやきつつ裏に到着すると、一人の女がいた。頭からしたまでなめ回すように見て、いい女と断定する。なかなか好みだが……。とりあえず話しかける。
「客引き?」
「ううん。むしろ客待ち。ピンよ」
妖艶にほほえむ女は、しかし体つきはまだ女子高生のように見える。
「遊ぶ?」
女は上の三つボタンを外した状態で迫る。誘われたい気持ちは山々だったが、こちらにも仕事がある。
「結構。やる?」
もちろん、ビニールに入った粉末をちらつかせて。ああ、笑顔も付けなければ。
「やめとくわ」
ノーと、身振りを使って断ったからに、それ以上進めるのもあれなのでスルーする。佐藤がふぅとため息をついて粉を見る。
誰でもわかるだろうが、いわゆる脱法ドラッグ。まだ警察の手には触れちゃいない。傾向摂取なのですでに法には触れているがばれなきゃ良い。自分をはじめ、鈴木達はこれを行う仲間だ。いい仲になっている。
「お~、アベックがここで何やってんだぁ?」
典型的な酔っぱらい親父が、下卑た笑いを浮かべながら佐藤と女を見ていた。女はあわてたように佐藤より前に歩みで、潤んだ瞳で男に上目遣いをする。……、女ってすげえ。
「この人とは関係ないの……、ねえ私と……」
そこから先は男が財布を出したことで遮った。女に近寄って札を一枚握らせる。素早く視線を走らせると万札だ。おそらく一晩だろう。
「こっちでやろうぜ」
「いいわよ」
酔っぱらいが女の手をつかんだとき、女のもう一方の手は佐藤の袖をつかんだ。
「お……っと」
急に引っ張られ、体勢を崩す。女に文句を言おうとしたときには、すでに手は離れ女は酔っぱらいとともに角を曲がった。
「ん……?」
その女は、娼婦の顔から決心した生け贄のような顔に変わった。
ここで書くのは初めてなので、いろいろ不慣れですがよろしくお願いします。