トマトしか出せない勇者を召喚してしまったんですが?
「ヤッホー!!」
私は、この天界グランドヴァルにて、数々の勇者を召喚してきた天才女神リザイアよ!一般的にはあまり知られてないのだけれど、異世界召喚ってすっごく疲れるの!
ベテラン女神の中には、そのストレスからハゲてる女神もいるわ!
神々しい光を出してくる女神は、だいたいハゲ隠しの為よ!!
「……って私、誰に話してるのかしら」
──上がっていた両手を下ろして、冷静になる。
私は過去にスキル名、爆弾魔《ボマー》を与えた勇者が魔王城ごと大陸を吹き飛ばし。《氷の女王》を授けた勇者がラスボスを永久凍土送りにさせた英雄を生み出した超超超ナイスバディで天才な女神である。
「で、今日は後輩のサポートねー」
私は手元の書類を確認する。
本日の担当女神:女神サケノミコ。
備考
新人。
酒癖最悪。
勤務態度最低。
始末書提出回数、歴代二位。
「……なんでこんなのを私に押しつけたのよ」
しかも大女神ミカヅチ様直々の命令だ。
『頼むぞリザイア。あれを放置すると世界が滅ぶ』
……真顔だった。なんか顔もやつれていた気もする。
「まあいいわ。私がいれば何とかなるでしょ」
異世界召喚に必要なのは一つ。
“スキルのイメージ”。
女神の想像が、そのまま勇者の能力になる。
つまりセンスが全てってわけ。
「……遅いわね」
召喚開始時刻、とうに過ぎている。
仕方ない。様子見に行くか。
♢♢♢
ドンドン! 荒っぽくドアを叩く。
「ちょっとサケノミコー! 早く出てきなさい、今日は異世界転生を行う日でしょー?」
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。……ってそんなわけないじゃない。
諦めずドアを叩き続けると、ようやく反応があった。
ガラガラ、ドサドサと嫌な音を奏でながら、こちらに近づいてくる足音とドア越しに
うっすらと聞こえるだらしない声。
ガチャッ。
ドアが開いた瞬間──
「酒くさっ!!」
部屋の中は地獄だった。
「んへへ〜……リザイア様ぁ〜」
床には酒瓶。
机にも酒瓶。
ベッドにも酒瓶。
もはや酒瓶の巣だった。
そして当の本人は……よだれを垂らしながら床で転がっていた。
「大事な日に何してんのよ!!」
「大事な日ぃ〜?」
「今日は勇者召喚の日でしょ!!」
「……あー、そうれした〜」
「ちゃんと準備しなさい!!」
「でも昨日飲みすぎちゃって〜えへへ」
「知らないわよ!!」
「お腹もすきましたぁ〜」
「我慢しなさい!!ってもうこんな時間!!
さっさといくわよ! サケノミコ!」
──私はサケノミコを引きずるようにして、召喚神殿へ連れて行った。
「ほら立ちなさい!!」
「うぇぇ……吐きそう……」
「吐くな!! 神聖な神殿で吐くな!!」
神殿中央では、巨大な召喚陣が光り始めていた。私は、縛っていた髪の毛を解き、儀式呪文を詠唱する。
途端、目の前に、大きな紋章が出現し、神々しい光が辺りを包みだす。
準備はOK。
「いい!? スキルはちゃんとイメージして!!」
「スキルぅ〜?」
「炎とか雷とか、なんか強そうなやつ!」
これは一発勝負。
やり直し不可。
失敗したら終わり。
「炎……?」
「そう!!」
「そういや昨日こんがり焼けたトマト料理うまかったれすね~」
「は?」
「うへへ……トマト料理またたべたひ……」
「バカぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何考えてるのよ!!
そんなことしたら!」
『スキル付与が完了しました。勇者を召喚します』
ボワァァァァァ!!
白い光の中から人影が現れる。
──遅かった。
「……ゲホッ! ここは?」
やってしまった。私は急いで勇者のステータスを
確認する。
神崎ゆうた Lv1
──ステータスは普通。むしろ普通すぎた。
でもきっと問題は……ここじゃない。
『スキル名:トメィトゥ
効果:トマトを出す』
「……嘘だろおおおおおおお!? なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
トメィトゥって何よ!!ネイティブにカッコつけてんじゃないわよ!
ただのトマトでしょうが!それに、私トマト嫌いだし!!
私はサケノミコの肩を揺さぶる。
「ちょっとあんたぁぁぁ!!」
「ううっ……酒が出ちゃうぅぅぅ!!」
サケノミコは逃げ出した。
「あんのバカ後輩!!」
「あの……」
「え?」
あ、忘れていた。勇者トメィトゥを。
違う。そっちはスキル名だ。
「えっと……勇者様、お名前は?」
「勇者……? 俺は神崎ゆうたですけど……」
名前に神が入っているわ……。
強いスキルがついていれば、この先、カッコ良い勇者へと成長していたのかもしれない。
しかし、今貴方についているのはトメィトゥ。ただのトマト野郎。
「えっと……勇者ユウタ様。貴方はこの世界の平和を守るために勇者として召喚されました」
すると、勇者ユウタは嬉しかったのか、一気に表情が明るくなった。
「ほ、ほんとですか! やった……!
俺……! こういう世界憧れてたんです! やったついに俺も勇者だ!!」
なんて純粋な心……。
うう、心が痛い。
「そ、そ、そ、それは良かったです」
「勇者ってことは何かスキルついてるんですよね?」
やばい。スキルのことを聞かれた。
「一応……ついています」
嘘は言ってない。
「何がついているんですか?」
えーい。もうやけくそだ。 こうなったら正直に言うしかない。
でも、せめてカッコよく。
「……トメィトゥ」
「え、なんていいました?」
「トメィトゥ」
「トメィトゥ……?」
「はい、トメィトゥです」
「その……トメィトゥのスキル効果は?」
「トマトが出せます」
「……それだけ?」
「それだけ」
「ふざけんなあああああああ!!!!」
「ひぃたぃいいい!私は悪くないもぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」
──ああ。
この世界、もうダメかもしれない。
♢♢♢
私は、あの後、かなり厳しく大女神であるミカヅチ様に叱られた。
後輩のミスは先輩のミスだと。
そして、私が勇者様のお供をしろと言われた。
さらには、責任を持って世界を救えと。
どうやって、救うのよ!
トマトしか出せない勇者と!!
「ていうか私は全く悪くないのに!!!
ムキィーーー!!!」
「うるさいぞ、いきなり大声を出すな」
勇者ユウタが言う。
「ごめんなさい……」
「あんたら女神のせいで俺は酷い目にあってるんだ、ちゃんと援護してくれよ?」
「確かに、貴方に悪い部分は全くないわ……トメィトなさい」
「ごめんなさいだろうがあああああ!てめぇやっぱふざけてんなあああああああ」
バシィ!
「痛いっ! レディのお尻を叩くなんて! ママにもぶたれたことないのに!!」
……まぁ女神だから、この程度、痛みなんてないのだけれどね。
でもさ、でもさ!
「だってだって!! 正気でいられるわけないじゃない! 私は数々の強い勇者を召喚してきた熟練の女神なのよ!! プライドが許せないのーーーーーー!」
「反省が足りないみたいだな……」
ユウタは、再び、ビンタをする構えをしている。
ま、まずい……痛みはないけれど、このままビンタを貰えば
私の女神としてのプライドがズタズタになってしまうわ。
そうだ……!
1つ大切なことを忘れていたわ!!
「ま、待って!! 今回は特例だから私の力で貴方のレベルを少しあげることができるの!」
「本当か!?」
ユウタはそれを聞いて、興味津々に、
近づいてくる。少し落ち着きを取り戻した様子だ。
「もしかしたら、スキル、トメィトゥも進化するかもしれないわ!!!」
「おおおおおおおおお!! 早速上げてくれ!!」
はああああああ!! 私は手のひらに力を込めて、
ユウタに呪文をかける。
「森の妖精よ……! 私の力となり、勇者ユウタに力を授けよ! |フェアリープロテクション《妖精の加護》!!!!」
そうするとユウタの身体は、小さな妖精たちに囲まれ、力を与えられている
ようだった。そして、
しばらく経つと、妖精は消えた。
「ど、どうだ、何か変わったか?」
ユウタは興味津々でこちらを見ている。
「今確認するわ!!」
ええーと。ステータスはっと……。
う、うーん。平凡だけどステータスは一応上がってるわね……!
肝心のスキルはどうかしら……!
ユニークスキル:トメィトゥ
スキル名 《《トマトカッター》》の条件が解放されました。
や、やったー!! 何か覚えてる!!
「トマト・カッター?を覚えてるわ!もしかしたら強いスキルかもしれない!!」
「そ、そうか!」
ユウタの顔が少しほころんだ。
「ええ! 早速試したいところだけど、どんなスキルかわからない以上、この場所じゃあ撃てないわね。人気もあるし。それにお腹空かない?」
「確かに。今まで、食べてなかったな」
「まずは、ご飯にして、それからスキルを試してみましょうよ!」
「わかった!」
機嫌を取り戻したユウタと私は、今いる村。ユクモ村の
食堂へ向かった。
♢ ♢ ♢
ガラガラガラ。
少し古びた扉を開けると、いかにも元気の良さそうな
薄着のおっちゃんがいた。
「へい、らっしゃい! ……ん?
なんだ嬢ちゃん達のその格好は……ここら辺じゃ見かけねぇ格好だなぁ」
食堂のおっちゃんは、目をまん丸にして、じっと私たちを見つめている。
それもそのはず、私たちの格好は、村の人たちと比べて豪華である。
衣類の装飾にしても、素材にしても、天界グランドヴァルで作られた
特注品。これは、人々がすぐに勇者だとわかってもらう為らしい。
「私は女神リザイア!! 数々の勇者を誕生させた熟練の女神よ!!! 私は……ってそれはもういいか、こっちが勇者よ」
私はユウタに向けて指を指す。
「ユウタだ、よろしくなおっちゃん」
「へぇー、勇者がこんな小さな村にねぇ……
まぁ、ここ数百年、魔物に襲われたなどの報告はない平和な村だが、勇者がいるならうちも安泰だな! ガッハッハッハッハ!!」
おっちゃんは豪快に笑っている。そんなおっちゃんを見て、
私はユウタにヒソヒソと耳打ちする。
「あらユウタ、あの人、貴方の事を頼りにしてるわよ。
スキルがトマトだって知った時、おっちゃんの唖然とした顔が目に浮かぶわね」
「黙れ。それにしても、この村は平和と言っていたが?」
「ええ、大女神ミカヅチ様に頼み込んで、まずは安全な村にしてもらったのよ」
「……なるほど、それは助かる。なら俺の出番は必要なさそうだな」
ホッとユウタは胸を撫で下ろしている。
「そうよ、だからはやく経験値を身につけて、なんとかステータスだけでも魔物に対抗できるようにするわよ!! いいわね!!!」
「おう!!」
私とユウタは固い握手を交わし、食事をとることにした。
まずは、目の前の野菜スープからいただく。
「美味しいー!!」
二人同時に声が上がる。
「美味しいわ! このスープ! 絶品ね!!」
「ああ、すごく旨い」
それを聞くと、
ガッハッハッハ。とまた、おっちゃんが笑う。
「そうだろう、そうだろう! うちの自慢のスープだ!」
あぁ……癒されるわー。
後輩サケノミコのせいで嫌な目にあったけど……。
このスープの美味しさが浄化してくれるわ。
ずっと、こんな平和な日が続けばいいのに……。
私は心からそう思った。
しかし、そんな至福の一時は一瞬にして、掻き消されることになる。
『みんな逃げろおおおおおおおおおおおおおお』
──店の外から突如聞こえた、その大きな悲鳴とともに。
♢♢♢
「な、何事よ……!!」
ガラガラガラ!!
勢いよく、ドアを開け、息を切らした青年が入ってくる。
「おい、どうしたんだぁ? そんなに慌てて……俺のスープでも飲んでゆっくりしてけよ」
「はぁはぁはぁ……スープなんかいらない!」
「……おぉぉぉい!!! 兄ちゃん、俺のスープが飲めねぇってのか!?」
「違う……!! 出たんだ……出たんだよ!!」
「おい、一体、何が出たんだ?」
息を切らした青年が私たちの存在に気付く。
「貴方達は一体……いやそれよりもおっちゃん! みんな! でた……でたんだよ!! 早く逃げないと!!」
「お、落ち着けって!! だから何が出たんだ!」
おっちゃんはその青年を落ち着かせようと、
話しかけるが、青年は、居ても立っても居られないという様子で
大粒の汗をかいている。
それほど緊急事態ということなのか。
「出たんだ……ついにこの町に魔物が……それも……ただの魔物じゃない……!!
あれは……サタンだ!!」
それを聞いて私は耳を疑った。
サタン……? 嘘でしょ……!?
いえ、きっと聞き間違えよ……!!
だって、こんな平和な村に……居るわけが。
「ちょ、ちょっと貴方!?
サタンってあの、大魔王サタンのことじゃないわよね!?」
「そ、そうです!! 大魔王サタンです……!」
「まさか、そんな……!」
私は、膝から崩れ落ちる。
本当に……!?
「おい、しっかりしろ女神! サタンってやつはそんなに強いやつなのかよ!」
「……つ、強いなんてもんじゃないわ。人間を滅ぼそうとする魔王界のピラミッドの頂点に君臨する大魔王。人間だけでなく、魔物達の間でも恐れられている間違いなく最強の魔王よ……」
それに私は、大女神ミカヅチ様から、先日、Sランク相当の勇者たちをサタン討伐に向かわせたと聞いていた。つまりは、最強の戦力が適わなかったってこと……?
「お、おい……どうしてそんな奴がここに……! ここは平和な村なんじゃなかったのかよ!!」
「……わ、私にもわからないわよ!!」
「ど、どうするんだ女神!」
勇者ユウタも、この危機的状況を感じ取ったのか、
動揺が見られる。
一体どうすれば……!
くっ……!! でも……でも、私たちがやらなきゃ。
そうよ、ここで逃げたら女神の名が廃る。
それに、目の前の青年が村の人たちが助けを求めてる!!
「……私は腐っても女神。行くわよ!! ユウタ!!!」
「あ……ああ!!」
私たちはおっちゃんや青年、食堂の人達を避難させるとともに
青年から聞いた情報から、サタンがいる場所へと向かった。
♢ ♢ ♢
──辺りには、これまでとは違う、威圧感が漂っている。
「闇の力よ……我の力の糧となりその力を示せ
デッド・パニッシュ」
禍々しい闇の中から、
巨大なハンマーが出現する。
「放て」
その一言で、巨大なハンマーは、八百屋、道具屋、
装飾品屋、どんな店であろうと
店を次々に破壊していく。
(なんなのこの常軌を逸した力は……! でも、怯んでられないわ!)
「や、やめなさい!!」
「……なんだ貴様らは?」
「私たちはこの村の平和を守る、女神と勇者よ!!」
大魔王サタンは小馬鹿にしたように少し笑う。
「ふん……こんなちんけな村にまで勇者がいたのか……」
「あんた大魔王でしょ! 大魔王なら、城でドンと構えているのが普通でしょ!大体あんたを倒しに3人のSランク勇者が昨日向かったはずよ!」
「あぁ……それなら先程、全て返り討ちにしてきたところだ。あまりにも貧弱すぎた。その後、物足りなくなってな、弱小の村でも憂さ晴らしに潰しにきたところだ」
「……な、なんですって!!」
──昨日倒しに向かったのは、Sランク勇者。
何度も、町や国を救っている。経験も実力も優れた精鋭が向かったはずなのに……。
そんな、あっさり倒されてしまったというの……!!
大魔王サタン……。一体どれほどの力を持っているという
のよ!!
こんな奴を相手にどうやって……。
「女神……俺を信じろ」
勇者ユウタが、
頭を抱えている私の肩に手を当てて、優しく声をかける。
「ユウ……タ?」
「俺はさっき、スキル トマト・カッターを習得した。
今の俺なら……やれる気がするんだ」
勇者ユウタの顔は輝いていた。
太陽よりも眩しいようなその目で、私を見つめていた。
カッコいいわユウタ……!!
……そうよ。忘れていたわ!
勇者を助けるのが女神である私の役目!
私が信じないで誰が信じてあげるというのよ!!
「ユウタ……信じるわ……!!
あいつをやっつけてしまいなさい!!」
「我に刃向かう気か……? 面白い。その勇気は褒めてやろう勇者よ。だが、手加減はせんぞ?」
大魔王サタンはコキコキと首をならしている。
「いくのよ! ユウタ!! 貴方ならできるわ!」
コクリと頷いたユウタは、戦う覚悟を決めたようだ。
「喰らえ!!!! トマト・カッター!!!!!!!!!!」
ユウタの前に丸ごと一個のトマトが出現する。
赤く、神々しい光をトマトは放っている。
そしてそのトマトは、一枚一枚、
私たちの目の前でスパスパと切れていく。
空気が震えた。サタンも眉をひそめる。
「まさか……貫通系スキルか?」
私は確信した。──いける。
そして、綺麗にスライスされたトマトは……
──地面にただポトリと落ちた。
「……」
「……」
「……何これ?」
♢♢♢
──私たちはそれはそれは全力で逃げていた。
女神のプライドなどもうない。
そして、走りながら、私たちは喧嘩をはじめる。
「なにしてんのよおおおおお!!何が俺を信じろ……よ!少しでも信じた私がバカだったわ!!このトマトバカ!!」
「うるせええええ!大体お前ら女神が悪いんだろうがああああ」
後ろを振り向くと、大魔王サタンが追ってきている。
「逃がさんぞ……無駄な時間を使わせおって」
「「ひいいいいいいいいいいい」」
走りながら、ユウタが尋ねる。
「なんかないのか女神!!」
「だってもうなにも……」
あ、そ、そうだ!
「ユウタ!この緊急事態だから大女神様も許してくれるはず、あなたのレベルを今から最大まで上げるわ!|フェアリープロテクション《妖精の加護》!」
先程と同じ妖精が出現し、勇者ユウタに力を与える。
「早くスキルの確認を!」
「わかってるわ!」
ステータスはもうどうでも良い!相手はSランク勇者3人を返り討ちにした化け物……!こんなステータス値なんてゴミ以下よ!
潰されてケチャップにされてしまうわ!
そんなことよりもスキルよスキル!!
「あっ何か覚えているわ!!!」
──【ユニークスキル:トメィトゥ】
スキル名:トマト・ケチャップ
解放。
スキル名:トマト・トマト
解放。
スキル名:最終奥義
トマト・ゴットブロー
解放。
「最終奥義……!!」
これしかないわ!!
他のはなんか弱そうだし……
それに、トマト・トマトって何よ!!
ん……?
「ねぇユウタ、確かゴリラの正式名称もゴリラ・ゴリラ・ゴリラだったわよね?」
「今それどうでもいいわ!」
「よし、ユウタ!! 最終奥義よ!
トマト・ゴットブローで大魔王サタンを倒すの!!」
「やってみる!!」
足を止める。
私たちは振り返った。
「なんだ?命乞いか?」
「命乞いじゃないわ!!」
「私たちには──最終奥義があるのよ!!」
「ほう……やってみろ」
「ユウタ!!今よ!!」
「喰らえええええええ!!
トマト・ゴットブロォォォォ!!」
ユウタの前に──
丸ごとのトマトが出現した。
しかも今回は違う。
鋭い回転を放っている。
落ちない。
ポタッともしない。
第一段階クリア!!
「いけえええええ!!」
トマトが──動いた。
一直線。
そして。
大魔王サタンの顔面に──
ヒット。
弾けた。
「「……」」
大魔王サタンは、ゆっくり息を吸い込むと──叫んだ。
「ふざけとんのかあああああああああ!!」
「「すいませんでしたああああああ!!!」」
やっぱ無理だった!!
ただトマトぶつけただけだった!!
「終わりだ」
サタンは顔のトマトを拭い、呪文を唱える。
「デッド・パニッシュ」
巨大なハンマーが出現する。
もう逃げ場はない。
「ユウタ……」
「なんだ」
「私、トマト嫌いなのよね」
「最後の会話それ!?」
あっけない人生だったわ。いや、女神生か。
絶対に死んだらサケノミコを呪ってやるんだからね!!
きゃあああああああああああ!!
……って。あれ?
サタンが動かない。
「おい!!!!」
「「はい!!!!!」」
「これはなんだ」
「た、ただのスキルですけど……」
「そうか」
サタンはトマトを見る。
「……非常に美味だ」
「は?」
「生産者の努力が感じられる」
え、褒めてる?
「お前が作ったのか?」
「いや、作ったというか……」
「よい。言わずともわかる。我もトマト栽培をしている。魔界で唯一のな」
「ずっと孤独だった……」
「うっ……まさか同志に出会うとは……頑張ってよかった」
なんか大泣きしながら、
一人でぶつくさ言ってるんですけど。
情緒どうなってんの。
「決めた」
来る。
やはり殺される流れ──
「勇者よ」
「は、はい!!」
「我と協定を結べ」
「はい?」
「人間界は襲わぬと誓おう。そして、農地を半分やろう」
「「ええええええええ!!?」」
コソコソ
「おい、こういう時の半分って世界だろ」
「今そこじゃない!!」
「俺トマトにそんな興味ないんだけど」
「やりなさい!!」
「おい、結ぶのか結ばんのかどっちだ!!」
「「結びます!!!!」」
♢ ♢ ♢
こうして──世界は救われた。
TMT協定によって。
魔界と人間界の戦争は終わり──魔物も消えた。
勇者は伝説となった。
そして私は──トマトの女神と呼ばれるようになった。
「まったく……変な世界だったわね」
異名もダサいし。
でも──
ユウタが作ったトマトを一口。
「……ちょっとだけ、美味しいじゃない」




