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第25節:皇帝の永遠の誓い 〜ルミエール跡地に築く職人の聖域と、冷徹な再建屋を辞めて愛する少女の専属守護者となる皇帝の至高の求婚〜

第25節:皇帝の永遠の誓い 〜ルミエール跡地に築く職人の聖域と、冷徹な再建屋を辞めて愛する少女の専属守護者となる皇帝の至高の求婚〜



西新宿の高層ビル群。

その一角にそびえ立つ、かつて「ルミエール」の本社だった巨大なビル。

経営破綻し、誰もいなくなったその建物を、神宮寺じんぐうじこうが個人資産ですべて買い取ったというニュースは、業界を震撼させた。


「……神宮寺さん、ここ、本当に壊さないんですか?」


つむぎは、かつて自分が地下室で埃にまみれてミシンを叩いていた場所を見上げ、不思議そうに尋ねた。


「ああ。ここはもう、誰かを蹴落としたり、虚栄心を競い合ったりするための場所ではない」


神宮寺は、改装工事が始まったばかりのロビーを見渡し、静かに、しかし力強く語った。


「ここは『若手職人とデザイナーのための育成センター』に生まれ変わる。紬、君が教えてくれた『着る人を笑顔にする仕事』を、次の世代に繋ぐ聖域にするんだ」


かつて「日陰の存在」として蔑まれていたパタンナーや縫製職人たちが、自分の名前に誇りを持ち、主役として働ける場所。

効率や数字ではなく、一針の重みを大切にする新しい服作りの拠点。

現代日本の歪んだアパレル業界を、紬の「仕事」が、根底から作り替えようとしていた。




   ◆ ◆ ◆




ブランド「TSUMUGI」の人気は、とどまるところを知らなかった。

パリ・コレへの招待、名だたるデザイン賞の受賞。

世界中が彼女を追いかけ、富と名声が押し寄せている。


だが、当の本人は――。


「あ、健太くん。お気に入りのクマさんの腕、もう取れないようにしっかり直しておいたからね。……うん、布さんも『また遊んでもらえて嬉しい』って言ってるよ」


アトリエの軒先で、近所の子供のぬいぐるみを修理して、ふにゃりと笑っている。

彼女にとっての「成功」とは、パリのランウェイを歩くことではなく、目の前の誰かが「ふふっ」と笑ってくれることだった。


「紬。……君は本当に、無自覚に世界を救っているな」


神宮寺は、窓際でその光景を眺めながら、独白した。


「難しいことはよくわからないけれど……布さんが喜んで、着た人が幸せになる。それだけで、もう十分なんです」


濁った欲望にまみれた業界を、ただ純粋な「仕事」への愛だけで浄化した少女。

合理的で冷徹な再建屋だった神宮寺は、今や彼女のその底知れない「優しさ」に、完全に敗北していた。




   ◆ ◆ ◆




「紬ちゃん! 今日は俺たちが主役だぞ!」


日暮里繊維街の広場。

そこでは、世界的なブランドの成功を祝う、これまでにない風変わりな祝賀会が開かれていた。


着飾ったセレブや政治家の姿はない。

ハッピを着た源蔵げんぞうをはじめとする、強面の職人たちが、一升瓶を持って大笑いしている。


「紬ちゃん! 伝説の布で作ったこの酒を飲んでくれ!」

「あんたは俺たちの希望だ! 職人の意地を世界に見せつけてくれて、ありがとうな!」


ガツガツと富を追い求めるのではなく、地域や仲間、そして古いものを大切にしながら、世界に認められる。

そんな現代日本が求める「新しい成功の形」を、紬は体現していた。

彼女を支えたのは大企業の資本ではなく、現場で汗を流す職人たちの「愛」だったのだ。




   ◆ ◆ ◆




賑やかな喧騒を離れ、紬は一人、祖母・タキの墓前を訪れていた。

手には、自分が一番最初に仕立てた「端切れのハンカチ」を携えて。


「おばあちゃん、報告に来たよ。……布さんの声、ちゃんと聞こえたよ。みんな、笑ってくれたよ」


線香の煙が、穏やかに秋の空へ昇っていく。


「私、パタンナーっていうこの仕事に、本当の意味で誇りを持てるようになったよ。……おばあちゃんの孫に生まれて、本当によかった」


墓前の陰で、紬の邪魔をしないように静かに待っていた神宮寺。

彼は紬の「仕事」だけでなく、彼女がこれまで歩んできた、苦しくも美しい軌跡のすべてを、慈しむように見つめていた。




   ◆ ◆ ◆




星が降る夜。

新しく完成した、繊維街を見下ろすアトリエのバルコニー。


神宮寺は、紬の隣に立ち、夜風に吹かれながら、静かに口を開いた。


「紬。……俺は、コンサルタントも、再建屋も辞めることにした」


「えっ……!? 神宮寺さん、どうしてですか? あんなに凄いお仕事ができるのに……」


驚く紬を、神宮寺は愛おしそうに見つめた。


「これからは、ただの『君の隣にいる男』になりたいんだ」


神宮寺は、紬の前でゆっくりと膝をついた。

差し出されたのは、ダイヤモンドの指輪ではない。

紬がずっと探し求めていた、伝説の職人が作ったとされる、幻の「銀の指抜き」だった。


「紬。君のデザインを横取りする者、君を傷つける者、すべて俺が一生かけて排除し続ける。君はただ、太陽の下で、好きな布を縫っていてくれ」


神宮寺の深く、震えるような誓いの言葉。


「君の指先から生まれる魔法を、俺が一番近くで守り続けたい。……君を溺愛することを、俺の生涯唯一の『仕事』にさせてくれないか」


「……っ、神宮寺さん……」


紬の大きな瞳から、ポロポロと涙が溢れ出した。

自分には何も価値がないと思っていた日陰の少女に、最強の皇帝が、すべてを捨てて「隣にいたい」と請う。


「……はい。私……神宮寺さんの隣が、一番、布さんの声が綺麗に聞こえる気がします。……私と一緒に、歩いてください」


二人は、星空の下で静かに口づけを交わした。




   ◆ ◆ ◆




その後。

美神麗奈みかみれいなは、過去のすべての作品の著作権が「柚木紬」にあることが裁判で確定。

莫大な賠償金と、業界からの永久追放により、彼女の名前はファッションの歴史から完全に抹消された。

偽物に魂を売った人々は消え去り、本物を愛した人々だけが、紬の周りに残った。


復讐を目的としなかった紬が、誰よりも輝く場所に立ち。

執着にまみれた麗奈が、誰からも忘れ去られる。

これこそが、本質的な価値が勝利した、最も残酷で美しい「ざまぁ」の結末だった。




   ◆ ◆ ◆




ラストシーン。

「TSUMUGI」のプライベート・ショー。


ランウェイを歩くのは、プロのモデルだけではない。

繊維街の職人たち、エマ・ワトソン、そして、少し照れくさそうに歩く紬自身。


観客は皆、紬が作った「空気のように軽い服」を着て、心からの笑顔で拍手を送っている。

そこには、階級も、国境も、憎しみもない。

ただ、服を纏う喜びだけが溢れていた。


舞台袖で、神宮寺が紬の手を優しく握った。


「行こう、紬。君の作った『笑顔』が待っている」


「はい、神宮寺さん! ……あ、布さんたち、今日もとってもいい声で歌ってますよ。おめでとう、おめでとうって!」


二人が光の差すランウェイへと歩み出す。

カメラのフラッシュが星のように瞬き、拍手の嵐が彼らを包み込む。


着る人を幸せにする、魔法の服。

日陰の天才と、彼女を愛した皇帝の物語は、最高の笑顔とともに、永遠の未来へと紡がれていく。



――了――

何らかの縁でストーリーを発見いただき、

最後まで読んでいただきましたこと感謝が絶えません。


ありがとうございます。


自分のストーリーつくりのテーマは「癒し」なんですが

楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけましたら

「ポイントを入れて作者を応援しよう」の★★★★★での応援が、

 自分のストーリー創作のモチベーションの源になっております。


 お手数をお掛けしますが、ご協力いただけるとうれしいです。

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