ずっといっしょだよ
焼けて爛れた肉に、ナイフが入る
引き千切られた断面から、朱い汁が飛び出る
皮の下に堆積した脂は融け、滴り落ちる
小さな塊へと分解された肉片を口へと運ぶ
柔い肉が犬歯にあたって裂かれる
裂かれた肉を口腔の奥へと舌が運ばれる
奥歯が磨り潰し、唾液が混ざる
肉は原形を失い、ペースト状になって胃液に落とされる。
くちゃりくちゃりと肉を咀嚼する少女は、目の前の男に向けて声をあげた。
「まだこのステーキ焼けてないよ。パパ」
「おや、それは悪かったね。持っておいで、もう一度焼きなおそう」
少女から肉を受け取り、フライパンの上に置いた。
じゅわじゅわと音を立てて脂が飛び散り、その音は段々と乾いた音へと変わってゆく。脂の乗った肉汁の香りが、惜しみなく振られた粗挽き胡椒の刺激ある香りと絡み合う。
赤みがかった肉の断面は、きつね色へと変化した。
「みてごらん、おいしそうだろう?」
少女は背伸びをして、フライパンの中を覗き見る。
その瞬間、ぱちっと音が立った。肉の脂が飛び跳ね、少女の顔にあたる。少女は思わず仰け反り、涙目になった。
「痛いよ。パパ」
しゃがんで少女を胸に抱きしめる。痛かったね、熱かったねと呼びながら背中をぽんぽんと軽く叩く。
「ほら、これで焼けたよ。席にお座り」
父はフライパンから、肉を皿の上に置いた。
そして、少女の前に置いて、正面に座った。
少女が肉を頬張り、顔を綻ばせる。口の中の肉塊が無くなるより前に次の塊を放り込む。
「ゆっくり食べなさい。行儀よくしないと神さまにお仕置きされるよ」
少女の食べる速度は変わらない。喉につっかえながらも口を肉でいっぱいにして、口の中で噛むほどに溢れ出す脂を堪能している。
「おいしいね。ママ」
少女は、ママに笑顔を向けた。
煙突のある小さなれんがづくりの家。その家からは、いつまでも父と娘が笑い合う声が届いてきた。




