プロローグ
僕と美幸が恋仲になったのは高校一年の七夕だった。
人生二回目の告白を彼女から受けた。
ただ好きですと言われ、僕は思わず何で?と尋ねた。
だって、彼女は僕とは違って、とても可愛くて、人気者で、それでいて誰よりも優しかったから。
彼女は言った。
「理由なんてないよ。あーくんだから好きになったの」
知らなかった。
所謂幼なじみとして育ってきた僕たちは、本当に長い時間……下手をすれば家族よりも時間を共有してきたと思う。
それこそ本当の兄妹のように。
「知らなかったでしょう?」
うん、気付かなかった。
笑いかける彼女にそう答えた。
でも、と僕は続けた。
「今は、知っているよ」
彼女は満足そうに肯いた。
「そうね。あーくんがそれを知ったことで、私たちはこれから始まるんだと思うの」
「随分な自信だね。僕はまだ返事していないんだけど」
「だって私は知っているもの。私はあなたが好きで、あなたも私が好きってことを」
小悪魔のように微笑む彼女には、それを信じさせる魅力があった。
「そうかもしれないね」
魅了されてしまった僕には、彼女が言うことがすべて正しく聞こえる。
だからそう答えた。
いや、そうだね……と。
「せっかくの七夕なんだから、なにかお願いしようよ」
消えそうな灯のように輝いている空を見上げ彼女は言った。
「美幸の願いを教えて。僕はそれが叶うようにお願いするから」
「二人分の希望ね。責任重大だわ」
うーんと…ね。
「一生……死ぬまで一緒にいられますように」
一度唸って、それでもやっぱり微笑んで天を仰ぎ、夜空に願いを込めた。
「これは、その証」
それは一瞬だったけれども、とてもとても甘いものだった。
顔が火照って、堪らず空を仰いだ。
頭上に広がる夜空が、眩しかった日。
そんな夏の日に、誓いを立てるように、僕も願掛けた。
一生一緒にいられますように――