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お転婆エミリアーナは好奇心のままにつき進む 〜私は悪役令嬢だそうですがヒロインにつきあっている暇はありません  作者: 帰り花


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第91話 出会い

ブルーノ視点

幼い二人が出会ったあの日のことは今でもはっきりと覚えている。




五歳になったばかりのあの日、俺は屋敷をこっそり抜け出して、森の入り口へとやって来た。


さらに奥へ進み、自分だけの秘密の場所へと足を運ぶ。

そこは鬱蒼と茂った木々の中にぽっかりとひらけた丈の低い草花だけが広がる空間だった。


太陽の光が差し込んで生い茂る草花を柔らかく照らしている。

その時は見事な紫の藤の花が咲き誇り、花の香りが風に乗って漂っていた。


俺はいつも登る大きな木の下に立って上を見上げた。

その俺の目に小さな黒い靴が映った。



誰か知らないヤツがのぼってる?

ぼくだけのひみつの木のぼり場所なのに!



そう思い、ムッとした俺は上に向かって叫んだ。


「そこにいるのは誰だ!」


驚いたのか小さな黒い靴がピクリと動き、葉をかき分ける音がして小さな顔が覗いた。


上を睨みつけていた俺はびっくりした。

男の子かと思っていたのに、顔を覗かせたのは女の子だったからだ。


その黒い髪の女の子の印象的な紫の瞳に魅せられて、俺は次に言う言葉を失った。


「これ、あなたの木?」


そう問いかけて、女の子はするすると木を下りてきた。

膝丈のワンピースを着たその女の子が俺の目の前に立ち、謝ってきた。


「ごめんなさい」


俺はなんとなくこの子に意地悪な男だと思われたくないと感じた。

さっき感じた腹立ちもおさまっている。


「別に……いいんだ」


ぶっきらぼうな言い方になってしまったが、その女の子は安心したらしく笑顔になった。


「あそこまでのぼったら何が見えるかな、と思ってのぼっちゃったの……ここ、とってもすてきね」

「君、どこの子?」


あたりを見回していた女の子は俺に目を向けて言った。


「あっちにおじさまのおうちがあって、今はそこに住んでるの。でもきっと、もうすぐわたしの本当のおうちに帰れると思うんだ」

「ふうん」


あの時の俺には女の子の言っていることがよくわからなかった。

ただ女の子が指差した方向にはマリーノ侯爵家の別邸がある。


こうしゃくさまのことかな?


女の子の身なりからそう思ったが、俺は別に気にならなかった。


「あのね……またここにあそびに来てもおこらない?」


女の子が俺を伺うように見て聞いてきた。

お気に入りの場所をその女の子が気に入ってくれたのがなんとなく嬉しくて、俺は思わず笑顔になって言った。


「おこらないよ。また来てもいいよ」

「ありがとう」


女の子の顔がぱっと明るくなった。


その時、俺はまわりの木々がざわめき、満開の藤の花の色がより濃く鮮やかに輝き、花の香りが強くなったように感じた。

まるでまわりの草木も喜んでいるような感じだ、と思った。


「もう帰らなくちゃ。また明日来るね」


このまま別れるのは嫌だと思った俺はその女の子の名前だけ聞いておこうと思った。


「ぼくはルノ。君は?」

「リアよ」

「それじゃ、またね。リア」

「うん。またね。ルノ。ごきげんよう」


リアは小さな手を振って帰っていった。




こうして出会った俺たちは、それから時々、森の中の秘密の庭、と名付けたその場所で一緒に遊ぶようになった。


木登り競争をしたり、リアが持ってきたおやつをいっしょに食べておしゃべりしたり、探検気分で少しだけ森の中に分け入ってみたり、拾った木切れを剣に見立てて騎士ごっこをしたり、倒木を魔物に見立てて討伐ごっこをしたり、海賊ごっこをしたり、と森の中で手に入るもので夢中になって遊んだ。

何もかもがリアと一緒だと楽しかった。


聞いてみればリアはもうすぐ俺と同じ五歳になるという。

同い年だとわかって嬉しくなった。


リアにせがまれて自分の手のひらを見せてあげると、剣の稽古をしているため少し固くなっている所をそっと触って、私と同じ、と嬉しそうに言いながら手のひらを見せてきた。

その時の俺は小さな女の子のリアが剣の稽古をしていることに驚いた。

なぜなのかは聞かなかったからその理由を知ってはいない。

だが、自分と同じようにリアも剣の稽古をしている、という事実に嬉しくなったことを覚えている。



この楽しみは俺がその時住んでいた本邸から都市中心部にある別邸へ引っ越すまで、二か月ほど続いた。


俺の家、ガッティ子爵家は海の魔物や海賊討伐を担う一族。

領地は貿易都市カタラーニアに隣接するが、迅速に討伐に向かうには都市中心部にある別邸を拠点にする必要があり、父親はほとんどそちらに住んでいた。


そして五歳になった俺は父親に別邸へ呼び寄せられ、本格的に海での討伐に慣れるための訓練を始めることになった。



別れの日、リアは目にいっぱい涙をためて俺に言った。


「ルノとあそべてとっても楽しかった……元気でね。また会えるといいね」

「うん。きっと会えるよ……リアのことは忘れないよ」


俺は涙をこらえて言った。


「うん。私も忘れない」


リアはそう言ってくれた。


まだ幼い俺たちは、お互いにどこに住んでいるのかも本名も聞くことなく別れた。




俺は印象的な黒髪で紫の瞳の女の子、リアのことを忘れなかった。

あれは幼い頃の初恋だったのだろう。

だから折にふれリアのことを思い出していた。


引っ越してから一年ほど後、本邸に行った時にあの森へ何度か行ってみたがリアとは会えなかった。


きっとリアの本当の家に帰ったんだろう。


そう思い、俺は寂しさを感じた。




俺は成長するにつれ、あの頃にはそれと認識できなかったリアの特徴がはっきりとわかってきた。


リアが無邪気に喜んだ時、嬉しくてたまらない様子を見せる時は瞳の色が明るい紫に変わった。


いつも持ってきていたおやつも幼い子供のものとしては量が多かった。


木登りをすれば自分と変わらない速さで登っていく。

おそらく身体強化をしていたのだろう。


こういった特徴からリアは魔力量がかなり多いことがわかった。


リアは本格的に剣の稽古をしていた。

身体の動きがそれを物語っていた。


リアは好奇心も旺盛だった。

森の中の草花の特徴を熱心に観察し、それを図鑑で調べては知ったことをよく話してくれた。

森でよく見かける小動物や鳥のことも注意深く観察しては、やはり図鑑で調べて話してくれた。

海の生き物について俺が教えてあげると目をキラキラさせて聞いてくれた。


本を読むのが大好きだ、とも言っていた。

俺も本好きで、父親の書斎に潜り込んでは子供には難しいと言われる本でも読んでいたが、リアが読んだと言っていた本の何冊かは俺も読んだことがある難しい本だった。

そういった本をたくさん蔵書しているのはたいていが貴族だ。


そしてリアは幼なくとも高位貴族のものと思われる所作を身につけていた。



こういったことを認識するようになってから、俺はひとつの確信を得た。


リアは最高の教育を受けられるフォンタナ王立学園に進むだろう、と。


なぜそう確信したのかはわからない。

だが、妙な自信があった。

高位貴族の令嬢で魔力量が多く、好奇心旺盛で難しい本も読みこなす頭脳、そして剣術。

そういった女性がより高度な教育を受けるとしたら、この国では最高峰のフォンタナ王立学園しかない。


成長したリアはどんな女性になっているだろう。


俺もフォンタナ王立学園へ特待生として入学するべく準備を進めていた。


合格すればきっと、いや必ず、学園でリアに会える。


自分でも不思議なほどの確信があった。




俺は無事試験に合格し、特待生としてフォンタナ王立学園に入学することとなった。


そして合格者名簿のトップ特待生の中にエミリアーナ・ダンジェロの名前を見つけた。


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