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第8話 入学式

フォンタナ王立学園の入学式当日。


こんな日でももちろん私は早朝の剣術の稽古を欠かさなかった。

いつも通り稽古して、寮に戻ってシャワーを浴びて身支度したら食堂へ行ってしっかり朝食をとる。

それから寮に戻って代表挨拶の原稿を再度確認。

リハーサルの待ち合わせ時間にはまだ余裕があるけれど、早めに行こうと思い、部屋を出た。


寮の外に出ると、真新しい制服を着た大勢の新入生たちの姿が目に入る。

男子寮の前にはたくさんの女子生徒がいて、中から出てくるお目当ての男子生徒に駆け寄って声をかける子が何人もいて賑やかだ。

三人ほど女子生徒たちに囲まれている男子生徒が目に入る。


そういえば。

長兄のアントニオもいつぞやの夜会ではあんな感じに囲まれていたっけ。

でもアントニオは全然嬉しそうにしていなかったし、にこやかでもなかったわねぇ。

むしろ無表情って感じだったわ。

確かに美形なんだけど、ああいった時は他者を寄せつけない、というより、はじき飛ばしてしまいそうな雰囲気になっていたっけ。

 

そんなことを思い出しながら、私はその賑やかな人集りの横をすり抜けて、まっすぐ入学式の会場へ向かった。


会場入り口脇の生徒会用待機室の前でしばらく待っていると、廊下の向こう側から生徒会長を務めているカルロ王太子殿下と次兄のロレンツォが歩いてくるのが見えた。

二人は私に気づくと足を早めて近づいてきた。


殿下がにこやかに声をかけてくださる。


「やぁ、エミリアーナ。久しぶりだね。元気そうで何よりだ」


私も久しぶりに殿下と会えたので嬉しくなる。


「お久しぶりにございます。ご無沙汰をしておりました。カルロ王太子殿下」

「君にそういう口調でカルロ王太子殿下と呼ばれると、ムズムズするな」


私は澄まし顔を作って言う。


「わたくしも大人になりましたの。少なくとも殿下と一緒に剣を振り回していたお転婆娘だった頃よりは」

「お転婆は今も、だろ」

「お兄様?」


ロレンツォがつっこむのでちょっと睨むように見る。

殿下もロレンツォの言葉に同意しているような表情に見えるけれど、きっと気のせい。

もうお転婆は卒業して淑女な私ですからね。


「いずれにしろ剣術科目は取るつもりなんだろう?」

「もちろんですわ」

「手合わせが楽しみだな」


殿下が嬉しそうに言ってくださるので私も嬉しくなった。


殿下は母方の従兄で、長兄のアントニオ、次兄のロレンツォ、そして私の三人兄妹とは仲が良く、私たちが王都で過ごしているときは同じ師匠について共に剣術を習った仲。

さすがに近年は殿下はお忙しく、共に稽古する機会は減っているけれど、そういう機会があれば必ず手合わせしていただける。

この学園では学年に関係なく同じ剣術科目を受けられるので、そこでも手合わせしていただける機会があるかもしれない。

私も殿下との手合わせがとっても楽しみだわ。

 

雑談のあと、三人で会場へ入り、早速リハーサルをする。

自分の席から壇上に上がり、代表挨拶、壇上から降りて自分の席に戻るまでの一連の流れを実際にやってみる。

壇上から見渡す会場は広々としていて、たくさんの椅子が並ぶ様は壮観だ。


ここで代表挨拶をするのね。


そう思うと少しばかり緊張を感じる。


「挨拶の出来もなかなか良さそうだ。本番、楽しみにしているよ」


私の緊張感に気づいたのか、殿下がそう励ましてくださった。

今、リハーサルした挨拶文の一部を聞いての言葉だから、素直に嬉しく思ってお礼を述べる。


「ありがとうございます。本番もきちんと務めますわ」


殿下は優しい笑顔で頷いてくださった。


リハーサルを終え、まだ準備で忙しい殿下とロレンツォを残して私は会場を出た。

新入生の待機室へ向かおうと歩き出したところに、ひょいとラウルが顔を見せてくれた。


「やあ、エミリアーナ。代表挨拶の準備できた?」

「ええ。今、手順を確認してきたところよ」

「どう?緊張してる?」

「少しね」

「大丈夫。僕がついてる」

「それは……本当に、とっても、この上なく、心強いですわ」


冗談にはことさら真面目な顔で返したくなって答えたけれど、ラウルは吹き出すし、私も笑いを抑えきれず。

二人で笑い合い、私はさらに緊張感がほぐれた。


そして。


入学式は滞りなく終わった。

王国の縮図のようなここフォンタナ王立学園で思う存分学んで楽しんで輝かしい未来への土台を築くべく共に成長していきましょう、といった趣旨の代表挨拶は手応えのある反応をもらえて、私はとても嬉しくなった。


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