第70話 オオトカゲと対峙
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期せずして、私たちはオオトカゲから二人同時に攻撃されないような間隔を空けて立つこととなった。
オオトカゲもどちらを狙うか目を動かしながら探っているようだ。
魔物討伐の経験があるブルーノが作戦の主眼をどこに置くか示してくれる。
「オオトカゲの弱点は体温低下だ。それを狙った攻撃に集中しよう」
「了解」
「オオトカゲに標的を定めさせないよう、二人で時差攻撃する」
「はい」
「足は速いが、立ち上がって攻撃を仕掛ける時に間がある。そこが狙い目だ」
「はい」
「俺は剣と風魔法で狙った所をひたすら斬り刻む」
「では私がその傷にアイスアローかアイスエッジを打ち込むわ」
「君に狙いが向いたらすぐ俺が背中か足を狙いに行く」
「口を開けたら口中にアイスブロックを打ち込んでみる。あとは足下に落とし穴を」
「了解」
私たちは交互に前後左右に動いてオオトカゲの迷いを誘いながら何をするか確認しあった。
経験のあるブルーノの存在が頼もしい。
倒すのではなく、体の動きを鈍らせて時間を稼ぐ。
そのために、今この時、自分にできることをするだけだ。
戦ううちに連携も取れてくるだろう。
そう、根拠のない自信が湧いてくる。
「まず俺から行くぞ」
「はい」
ブルーノが突然オオトカゲに向かって走り出した。
オオトカゲが反応して前足を振り上げ攻撃してきたが、ブルーノはそれを避けて脇腹へ真剣を何度か振るって斬りつけた。
私は少し遅れてこちら側に向けられた反対側の脇腹に向けてウインドエッジを五つ放った。
それは鋭く鱗を攻撃するが、傷はつけど切り裂くほどではない。
やはり鱗はかなり固いようだ。
オオトカゲがこちらに反応して目を向けてきた。
ブルーノは体の向きを変えたオオトカゲが勢いよく振った尻尾を飛び上がって避ける。
オオトカゲが私に向かって口を開けながら走りだしてきた。
私はすかさずアイスブロックを五つ口中めがけて放った。
いくつかは喉の奥まで入るのが見えた。
まったく足りないが、それでもオオトカゲの足を止めるのには役立った。
ブルーノは背後からオオトカゲの背中に飛び乗って真剣で斬りつける。
オオトカゲが体をくねらせてブルーノを背中から振り落とそうとするが、その前にブルーノは軽々と地面に飛び降りた。
今度はブルーノがオオトカゲの正面に位置する。
そして私はブルーノがオオトカゲの脇腹に切りつけた傷が見える位置に立った。
一番深そうな切り傷に向けてアイスエッジを放つ。
それはうまく切り傷に打ち込めた。
うまくいきそうだわ。
厳のような巨体だけど、身体強化したアントニオに斬りかかってもまるで歯が立たなかった時と違い、どうにか攻撃が通じている。
そう思って私は少し心強くなった。
よし。
切り傷にはアイスエッジ、口中にアイスブロックに加えてアイスアローを放ってみよう。
アイスエッジを打ち込まれたオオトカゲが私に意識を向けてくるが、すぐブルーノが飛びかかり前足を狙って切りつける。
後足で立ち上がってブルーノに攻撃をかけようとしたオオトカゲの足下に、私は土魔法で穴を開けた。
四つ足だからあの体勢に落とし穴は効くわね。
オオトカゲは足下が急に沈み込んだため体勢を崩して倒れ込んだ。
驚いたようにこちらを見たブルーノが大声で言う。
「凄いな。その技、かなり使えるぞ。また頼む」
「了解」
それから私たちはブルーノが真剣でオオトカゲの体に斬りつけて切り傷を作り、私がそこへアイスエッジを打ち込むことを何度も繰り返した。
口を開けたら口中にアイスブロックとアイスアローを放つ。
私が持つのは稽古用の剣なので、斬りつけるのは真剣を持つブルーノに任せて、私は魔剣術を駆使してアイスエッジ、アイスブロック、アイスアローを放ち、隙をみて足下に穴を掘る。
いつしか私たちはそのような連携による攻撃を繰り出すようになっていた。
「だいぶ弱ってきたようだ」
そう言ったブルーノは息を切らしている。
私も気がつけば肩で息をしている始末。
体内の魔力が相当減ったことにふと気がつく。
「あともう少し持ち堪えれば……」
「ええ。助けが来るわ。必ずよ!」
「よし!もうひと息だ!」
「はい!」
私たちは声を出して気力を奮い立たせた。
そしてそれぞれに剣を構え直してオオトカゲと向き合う。
と、その時。
遠くから微かに蹄の音が聞こえてきた。




