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第7話 失われた古代技術

トーニオとラウルの目が驚きで丸く見開かれている。


実際、物心つく前から何度も誘拐未遂や襲撃に遭ってきているので、私の中ではよくある出来事になってしまっていて驚くようなことではないのよね。

だから普通にあること、といった感覚で喋ってしまったわ。

でもそんな目に遭う方が少数派に決まってるわね。

これからはもっと発言に気をつけなくちゃ。

 

ふと、トーニオが何か思い当たった、といった表情で言った。


「そういえばダンジェロ公爵家の現当主夫人は国王陛下の妹君だったね」


それを聞いたラウルも思い出した、という表情になった。


「ええ」

「それに第一騎士団副団長を務めている剣術の天才アントニオ様は君の兄君だろう?そういう母君、兄君を持ち、王家の血筋、公爵家令嬢、こういった魔道具を考え出す頭脳……って利用したい奴や排除したい奴は多いだろうね。言われなき嫉妬も多そうだ」

「それに、誘拐して身代金をいただこう、なんて考える奴らもいるだろうなぁ」

「ええ。こちらに非があるなしにかかわらず悪意に晒されることも多いし、思わぬ理由で嫉妬されたりつけ狙われたりすることも多いのよね」

「なかなか大変だなぁ」

「でも、そういう目に遭ったからこそ、ますます自分を鍛えようと思うし、こんな魔道具があったらいいかもしれない、なんてことを思いつけるってわけ。悪いことばかりじゃないわ」

「なるほどね。それにしてもおもしろいものを考え出したよね。ちょっと僕もそういう魔道具、作ってみたくなったよ。もっと簡易な設計でさまざまな分野へ応用もできそうだしなぁ」


トーニオがかなり本気で興味を持ったようなので私は嬉しくなった。


「この指輪も試作段階だし、トーニオがこういった検知器の性能を高めてくれたら嬉しいわね」

「そのアイデア、僕が応用してもいいってこと?」


トーニオの目が輝く。


「もちろんよ。一人で考えているだけでは、行き詰まることも多いし、複数の頭脳で考える方が進歩も早いと思うから」

「ありがとう、エミリアーナ。これは真剣に取り組む価値があると思うんだ。僕のここでの研究のテーマのひとつにさせてもらうよ。今度また時間をとって、その指輪の詳しい仕組みを教えてもらいたいんだけど」

「いいわよ。私もこのニッチな魔道具をどんな風に応用、展開できるのか、あなたのアイデアをぜひとも聞きたいわ」


そう。

こういう交流が、実のあるやり取りが、ここフォンタナ王立学園ではできる。

それを今、私はしみじみと実感していた。



それからトーニオは熱心にこの学園でやりたい研究について喋ってくれた。


「僕は失われた魔道具の技術を掘り起こしてそれを再現したいんだ」

「失われた技術?」

「そう。千年前に禁忌魔術の大暴走で一夜にして滅びた国があった、という話は聞いたことがあるだろう?」

「その話、本で読んだわ」

「僕も読んだことがある。その跡に五百年ほど経った頃このフォンタナ王国の前身であるフォンタナ公国が興ったんだったよね」

「うん。千年前の魔術は現代より遥かに強大で優れていたらしいけど、五百年前も、もっと下って三百年前も今とは比べ物にならないくらい優れた魔術や魔道具があったんだよ」

「現代の方が劣化しているってこと?」

「一概にそうだとは言えないけれどね。例えば日常生活に欠かせない技術は現代の方が優れている。寮の各部屋にバスタブやシャワー、トイレが備わっているのはその恩恵だし、食堂の厨房設備も進化している。個人が持つ魔力量に左右されずに誰でも使える魔道具はここ百年ほどの間に急速に進化してきたからね。でも尖った技術による魔道具は作り手と共にどんどん廃れてしまったんだ。例えば結界を張る魔道具だけど、三百年前までは小型の結界をいつでもどこででも張れる魔道具があったんだよ」

「小型の結界?」

「そう。昔は魔物が今より多かったからね。森で薬草を採取したり、狩りで野営をする者にとっては必需品のようなものだったそうだよ。僕はそれを再現してみたいんだ」

「それは自分の周りだけに結界を張れる魔道具ってこと?」

「その通り。四、五人くらいまで守れる結界が張れる魔道具なんだ」

「それって今も役に立ちそうだけどなあ」

「うん。でも魔物の数が減ってきて討伐方法も狩る技術だけじゃなく罠の進歩もあって魔物の脅威そのものも減ってきたよね。でも脅威はゼロにはならないし、いざという時に結界をすぐに張れる訳じゃない、となると普段から大きな結界で建物とその敷地、あるいは村や都市をまるごと守っておく方が効率が良いだろう、という方向になってきたんだ。だから結界を張る魔道具の作り手もそちらに比重を置きだすし、消費魔力量を減らして結界を大型化する技術が発展した一方、小型の方は需要も減っていって作り手もいなくなったってわけ」

「なるほどね」

「その魔道具の作り方は残されているの?」

「うん。それ、この学園の蔵書にあるはずなんだ。閲覧許可指定本になっているかもしれないけど」

「それはどうしたって見つけ出して読みたくなるわね」

「そうだろう?それに失われたのは魔道具だけじゃない。魔法陣だってそうだ」

「魔法陣も?」

「うん。現代では汎用的なものを除いて魔法陣を使うやり方はほとんど廃れているよね」

「そうね。三百年前あたりまでは魔法陣や詠唱を駆使して強大な魔術を使っていたそうだわ。でも現代は魔力量が多い人も減ってきているし、そういった魔術を使いこなせる人はほとんどいないだろうと言われているわね。たぶん必要がなくなってきたからだろうと思うのだけれど。でも私は古代魔術に興味があるからその科目を取るつもりだし、図書館でその分野の本を探して読みまくるつもりでいるの」

「それなら今から図書館、行こうか?」


ラウルのひと言で私たちは立ち上がり、昨日行けなかった図書館へ意気揚々と歩いていった。


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