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お転婆エミリアーナは好奇心のままにつき進む 〜私は悪役令嬢だそうですがヒロインにつきあっている暇はありません  作者: 帰り花


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第60話 特別講義〜実戦剣術(3)

受講生全員がアントニオとの対戦を終えたところで休憩が入れられた。

その間、リッカルド様とフェデリコ先生から怪我の治癒がなされる。

脚に剣を喰らって動けなくなった受講生は幸い骨に異常はなくフェデリコ先生の治癒で治り、気絶した受講生も復活。

水分補給もして全員が動ける状態になったところでアントニオが告げた。



「これより二回目の対戦に入る」



その言葉に受講生の声なき動揺が広がったのは無理もないことだと思う。

怪我は治癒された。

だけど、体力回復ポーションを飲むことは禁じられていたので、アントニオとの対戦で体力も気力も使い果たした今、次の対戦で思うように動けるかどうか心許ない、と思う受講生もいるはず。



でもアントニオは淡々と告げる。


「騎士の出番というものは、己の状態が万全でない時であっても容赦なくやってくる。三日三晩ろくに物も食えず行軍したあげく魔物と戦う羽目に陥ることさえある。己の状態を言い訳に逃げることは許されない。今がその時だと思え」



アントニオは当然、体力回復ポーションなど飲んでいない。

座って休みもせず、水分補給をしただけだ。

それでも疲れた様子などまったく見えない。

それに自分がボロボロになった状況下で強者と対戦するなど、これから先にあるとしたらそれは訓練時ではなく、まさしく本番そのものなのではなかろうか。

となれば。



受講生全員の表情が変わった。


「「「はい!」」」



二回目の対戦が始まった。


名簿順の一番手ブルーノがアントニオに斬りかかる。

ブルーノは一回目と同じように攻撃し防御している。

体の動きも良い。


次第にアントニオの攻撃の強さと速さが上がる。

そしてブルーノは防戦一方になってきた。

それでもブルーノは一歩も引かず、隙を見てアントニオへ攻撃を仕掛ける。

ただ体のキレは落ちてきている。

表情にも余裕は無い。


でも目には力がある。


ブルーノはそのまま二度目の九十秒間を乗り切った。

そして一度も剣を落とさなかった。


アントニオと礼を交わして下がってきたブルーノは、流石に疲れ果てた様子だった。

でもその表情には充足感が漂っていた。



次に名前を呼ばれた私は始めの合図と同時にアントニオに斬りかかった。

アントニオは正面で私の剣を受け止め、私に逃げる隙を与えることなく反撃してきた。

しかも私の左側を狙って執拗に攻撃してくる。

これは弱点を狙われているということ。

私は必死にアントニオの攻撃を防御しながら、体の動きを工夫してどうにかアントニオと距離を置くことに成功した。

これは狙われるうちに頭が考えたというより、体が自然にそう動いた、といった感じだ。


でも油断している暇などない。

アントニオはすぐに攻撃を仕掛けてくる。

左側狙いが続くかと思えば右へ、脚へと攻撃を変化させてくる。

剣で受けるだけでなく、横へ飛んだり後ろへ飛び退ったり、足元に来た剣を飛び上がって避けたりするうちに確実に体力が削られていく。

自分でも息が上がり、体のキレが鈍ってきているとわかる。

目も眩みそうだ。


それでもこういう時に諦めて降参する、という選択肢は私には無い。

これが本物の襲撃であれば諦めた途端に命は終わってしまうから。

だから気力が続く限り喰らいつく。

何度か剣を落としそうになったが、気力で堪える。



「そこまで!」


ウベルト先生の声に私は我に返った。

どうにか九十秒間保ったらしい。


アントニオと礼を交わして下がると、途端に重い疲労感と打撲の痛みが意識にのぼってきた。


とにかくまず水を飲む。

そしてフェデリコ先生から治癒を受ける。

ようやく人心地がついたところで、なんとも言えない充足感が込み上げてきた。


体は疲れ果てて重い。

けれど充足感に満ちた胸の内は明るく、軽い。


このような感覚を味わうのは本当に久しぶりのことだ。


これだけでも実戦剣術の特別講義を受講した甲斐があったと言うものだ。

それほどの充足感。


そして喜び。


あのアントニオとの対戦を二度。

九十秒間の対戦を二度、最後まで粘り切れた。

またほんの少し進歩した。

成長できた。

そのことへの喜びが湧き上がってきた。



私は受講生たちの中に戻った。

そして皆の対戦を見る。


皆、確かに疲れがあり、徐々に体の動きが鈍ってくる。

それでも気力を振り絞ってアントニオに向かっていく。

中にはふらついたところにアントニオの一撃を喰らって気絶した者、九十秒間戦って終わりの合図とともに倒れ込んでしまった者もいた。

でも誰も諦めもせず逃げ出しもせず、最後まで立ち向かった。



二十四人全員の対戦が終わった時、いつしか皆の間には、ある種の高揚感が漂っていた。


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