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お転婆エミリアーナは好奇心のままにつき進む 〜私は悪役令嬢だそうですがヒロインにつきあっている暇はありません  作者: 帰り花


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第59話 特別講義〜実戦剣術(2)

「次は制限時間を設けての対戦だ」


アントニオは次の訓練に入ると宣言してからそう言った。



「時間は九十秒。ただし途中で怪我をするなどダメージを負った場合はそこで終わりとする。剣を落とした程度では終わらんから心せよ」

「「「はい!」」」


アントニオとの九十秒間の対戦は短いようでいて実際はとても長く感じられるはず。

全員が九十秒間保つとは限らないだろう。


でも粘り切る。

アントニオとの対戦を一秒だって欠くことはしたくない。


私は闘志を燃やした。



やはり名簿順で一番手はブルーノだ。


「よろしくお願いします!」


アントニオとブルーノが正対する。


「始め!」


ウベルト先生が開始を告げると、ブルーノはすぐに攻撃を始めた。

激しく何度もアントニオに打ちかかる。

さらにブルーノは軽い助走で飛び上がっては上から打ち下ろす攻撃を幾度も織り交ぜてアントニオに迫った。


アントニオはしばらく防御に徹していたが、突如攻撃に回った。

ブルーノは防御でも多彩な動きを見せる。

それは無理に動いているのではなく、いかにも体に染みついたもの、という動きだ。

おそらく領地にいる時、実戦で腕を磨いてきたのだろう。


アントニオは身長190cm。

ブルーノはそれより10cmほど低いが、その身長にしては身軽な動きをしている。

飛び上がるだけでなく、時に地面を素早く転がりながらアントニオの剣を掻い潜り、すぐに攻撃へと移る。


二人の打ち合いはどんどん攻撃と防御が激しく入れ替わるものへと移行していった。


それを見ているうちに、私はふと気づいた。



アントニオが楽しんでいる!



もちろんアントニオの表情にそれは出ていないけれど、兄妹だからなのか、私にはアントニオが剣での対戦を楽しいと思っている時にはそれがわかる。


きっと、アントニオはブルーノの技量や才能を認めたんだろう。


そう思って私はブルーノが羨ましくなった。




「そこまで!」


ウベルト先生の声で二人は動きを止めた。

静かに正対して互いに礼をする。


「ありがとうございました!」

「見事だった」


礼を述べるブルーノにアントニオがそう返した。



ブルーノが下がると、すぐに私の名前が呼ばれた。


「よろしくお願いします!」


私はアントニオと正対し、剣を構えた。


「始め!」


ウベルト先生の合図で私はすぐに攻撃を始めた。

アントニオも同時に踏み込んでくる。

いきなり剣と剣が打ち合わされ、一瞬の睨み合いの後、私はいったん後ろへ飛び退り、さらに踏み込んできたアントニオを避けるように動いてまた剣を打ち合わせた。


アントニオは私に一切手加減しない。

アントニオも私が全力で挑んでいくとわかっている。

時間切れになるまでは剣を弾かれようが怪我をしようが最後まで喰らいつくのみ。


私はアントニオに向けて何度も斬りかかった。

正面を避け、横から、下から打ち込み、足元を狙って剣を振る。

それをことごとく弾き返される。

返す刀で数回、脇腹や腕に打ち込まれたがなんとか剣を落とさず反撃に転じる。


懐を狙って飛び込めば剣で弾き返され私は地面に転がったが、そのまま転がり続けて追い迫るアントニオの剣を避け、飛び起きて突きを狙い、弾かれれば横から剣で薙ぎ払う。


とにかく息つく間も無い。

ひたすらアントニオに打ちかかり、防御し続ける。

アントニオの打ち込みを何度も受けては全身に重さと衝撃を感じる。

受け損なえば剣を落としそうになる。


肩や腹に喰らいそうになった時はどうにか避けたが、体勢が崩れたところを狙われ、すぐにアントニオに攻撃される。

そうなると防戦一方となってしまう。

必死で受け続けながら一瞬の好機を捕まえてアントニオとの距離を広げ、体勢を立て直し剣をしっかり握り直してまた攻撃に転じる。


激しい攻撃と防御の繰り返しにいつしか時間の感覚は無くなっていた。


アントニオとの正面での打ち合いが続いた後、突如、物凄い圧力を受けるとともに剣を弾き飛ばされた。

瞬時に飛ばされた剣の軌道を目に入れつつ走って剣を取りに行き、拾い上げると同時に振り向き、背後から襲いかかってきたアントニオからの攻撃を渾身の力で受け止める。

そのままアントニオに押し潰される前に地面を転がって離れ、片膝をつく低い姿勢になってアントニオに剣を向けたところで声がかかった。


「そこまで!」


私とアントニオは元の位置に戻って正対し、互いに礼をした。


「ありがとうございました!」

「見事だった」


その言葉をもらって私は下がった。



九十秒間保った。

これでもかと攻め続け、受け続けて九十秒。

一秒も欠くことなくアントニオと対戦できた。

その喜びが込み上げてくる。



少し緊張が緩み、そこでようやく体力をかなり消耗したことに気づいた。

左腕と左脇腹に受けた打撲の痛みにも気づく。


フェデリコ先生に声をかけられ、打撲の治癒をしてもらってから私は受講生たちの中に戻った。

今、アントニオと対戦しているのはマルコ。

ジェラルドとジュリアーノの対戦は残念ながら見逃してしまった。


対戦を外から見ることによって気づくことも多いから、他の人の対戦だとて見逃すわけにはいかない、と受講生は皆、二人に真剣な目を向けている。

見るだけでなく、自然と体が動くのか、太刀筋や体の動きをなぞって確かめている受講生もちらほら。

自分の弱点を克服するために何ができるか、他の人の対戦を見ながら考え、掴み取ろうとしての動きでもあるのだろう。


その後の対戦を見続けていると、アントニオは防御が弱いと見た受講生には攻撃を強め、攻撃が弱いと見た受講生には攻撃を誘って防御を強めているようだとわかった。

さらにそれぞれの弱点を執拗に狙ったりもする。

私も左側が弱いから狙われて左腕と左脇腹に打撲を負った、ということだろう。



アントニオはほとんど休みを入れずに受講生二十四人と対戦し続けた。

九十秒保たずに動けなくなったり、肩に受けた衝撃で気絶したり、脚に喰らって動けなくなった受講生たちをリッカルド様が救助した時だけ少し間が空いたが、休みはその時間だけ。

まさしく化け物クラスの体力だ。


そして私たち受講生は軽くても数か所打撲を負うなどして、誰一人として無傷では済まなかったのだった。


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