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お転婆エミリアーナは好奇心のままにつき進む 〜私は悪役令嬢だそうですがヒロインにつきあっている暇はありません  作者: 帰り花


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第50話 薬草学とポーション作成

「皆さんはこの授業で、物事は進歩、進化する一方ではなく、衰退、退化もするということを肌で感じることになるでしょう」



これは、特待生だけが受講可能な科目『薬草学〜古代から現代まで』の最初の授業でビアンキ教授が冒頭に仰った言葉。




一学期で私たち受講生は、千年前、禁忌魔術の大暴走によって一国が滅びた時、魔力汚染により植生が変わり優れた薬草も壊滅状態となったが、そこからの五百年で、土壌を復活させ、影響を受けなかった地域に残った薬草を探し、保護し、研究し、栽培するとともに、かろうじて残された資料から過去の優れたポーションの製法を試行錯誤により復活させた人々の苦難の歴史を詳しく学んだ。


その後の二百年でポーションの黄金期を迎えたのだが、それ以降、人が持つ魔力量が徐々に減ってきたため特に効果の高い最上級のポーションを作れる人が少なくなり、代わりに医療技術が進歩したこともあって、最上級のそれを作る技術は廃れ、その原材料である希少な薬草も使われなくなり、その知識は文献上だけのものとなってしまったことも学んだ。


現在は五百年前から三百年前までの黄金期よりかなり衰退した状態にあるということがありありと実感をともなって腑に落ちたのだけれど、失われた薬草や技術があまりにも多く、私はなんとも言えない気持ちになった。



私が作れる外傷用の上級治癒ポーションは、剣による切り傷や刺し傷、内臓損傷なども治せるけれど、骨折に対しては万能とは言えず、骨折状態によっては医師や治癒師の手を借りて骨の状態を慎重に見極めズレなどを直した上で服用する必要がある。

私は治癒魔法で骨折を治せるけれど、同じく骨の状態を魔力で慎重に探って元の位置に直してから治癒するのでやはり時間がかかるし、魔力量もかなり必要となる。


でも黄金期の最上級ポーションはそういった難しい骨折も含めたすべての外傷を治せたのだ。

そのうえ、千年以上前には四肢欠損まで治せるポーションがあったとも言われている。


四肢欠損までは無理にしても、黄金期にはあったとわかっている、それも今あれば間違いなく役に立つとわかっているポーションが作れなくなっている、というのは何というか、悔しく思えてくる。



失うのは一瞬でも、復興には気の遠くなるような年月が必要となるのだ、ということが歴史を学ぶとよくわかる。


でも、そんなところからでも人はやがて立ち上がって歩き出す生き物なのだ、ということもまた歴史から学べた。




そして失ったものを嘆くだけに終わらず、希望を持って歩いていける話はこの薬草学の科目にもある。


フォンタナ王立学園には二百年〜百年ほど前まで王国内の森で当たり前のように採取できていた貴重な薬草の種や、根のついた薬草そのものがおよそ六十種ほど特殊保存されている。


そのうちの数種類の薬草については栽培方法とそれを用いたポーションの製法が解明されたため、今、ビアンキ教授主導、助手のコスタ先生管理のもと学園内の薬草園で試験栽培されている。

そして三学期終盤に、その試験栽培で育てた薬草を使い、実際にポーションを作る予定となっているのだ。


ここ二百年ほど作られることが無かった失われたポーションの再現にこの科目の受講生たちは闘志を燃やしていて、ポーション作成の技量を一段も二段も上げたいと皆やる気に満ち溢れている。




ポーションを作る時に使う魔力は、薬草の内部組織を壊して薬効成分を取り出しその力を引き出し引き上げる、といった一連の流れに必要な破壊、探査、抽出、活性化などの力が混ざり合ったもの。

だからその色は一つの色というわけではなく、複数の色が混在している。

色と色が混ざって違う色になるのではなくて、それぞれの色が絡み合いもつれ合って常に動いている状態。


私の目で見ると、人の体内にある魔力は体の中央部にあり、淡く光りゆらゆら揺らぐぼんやりとした霞のようなもので、意思を持って魔法や魔術を発動する時に必要な量の魔力がぐっと凝縮され、属性が定まると同時にその属性の色に変わり放出されていく。

無属性に分類されるものも性質や働きによって皆、違う色を持っている。

だから人がポーションを作っている時の魔力は色とりどり、その流れはゆっくり穏やかでとても綺麗だといつも思う。




そしてポーションの作成手法は二つ。

一つは魔力を注ぎながら鍋で煮込む方法、もう一つは熱を入れずに魔力のみで作る方法。


前者の熱を入れる手法は、薬草の内部組織を壊して薬効成分を抽出するところまで熱の力を借りて行う。


後者の熱を入れない手法は、すべての工程を魔力のみで行うので、最終的にたくさんの魔力が必要となるし時間もかかる。


熱を入れる手法と比べると、薬効成分を熱で失わず機能低下させずに余すことなく抽出するのに向くという利点があるが、その分魔力量も微細な魔力コントロール力も必要となる難しい手法。


三百年前あたりまでは熱を入れない手法が主に使われていたそうだが、現在では熱を入れる手法が一般的なものになっている。


でも、失われたポーションの復活には熱を入れない魔力のみの手法が必須。


この科目の受講生は薬草栽培を生業とする家の実子や子弟、薬師(私もこの立場)あるいは薬師の後継といった面々。

だからポーション作成には慣れているのだけれど、熱を入れずに作る手法は皆ほとんど経験したことがない。


でも三学期終盤に予定されている失われたポーション再現には熱を入れずに作る手法をしっかり自分のものにしたうえで臨みたいから、二学期に入った今、私たちは皆この手法でポーションを作る練習を重ねている。





ところで、この薬草学の授業では時々あらかじめ指定された複数の薬草を使ってポーションを作る課題が出される。


組み合わせ次第でポーションが何種類も作れるように指定されているので、そこからどのようなポーションが作れるか自分で考えて作るのだが、薬草そのものの知識の他、薬草の組み合わせによる効能の知識も必要。


この課題では授業で学んだことを反映したうえで、できるだけ多種類のポーションを作りたいところ。

実際に一学期では私もそれを心がけていた。


そして二学期ではそれに加えてポーション作成手法を両方使って薬効に違いが出るかどうかを調べてみたいと思っている。


また、近代薬草学の本によると、三百年前あたりまでは野外で材料を現地調達してその場で熱を入れない手法でポーションを作る、ということがよく行われていたらしいので、二学期に入ったらそれを自分でもやってみるつもりでいた。




ということで、二学期最初の課題が出された時、私はビアンキ教授から許可を得て、王都の外れにある森へ行って課題のポーションを作ることに決めた。


これを想定して休みにタウンハウスへ帰った際、アントニオにそのための護衛を頼んでおいたので、早速手紙で日取りを知らせるとすぐに快諾の返事があり、私は意欲満々になってポーション作りに必要な道具を揃えて週末を迎えた。


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