第5話 新入生代表挨拶を仰せつかる
雑談をしながらラウルと一緒に昼食を終えた。
「それで、午後はどうするつもり?」
「あちこち見て回るつもりなの」
「まずは訓練場、てとこ?」
「あと、図書館ね」
「それじゃ、このあと一緒に図書館に行ってみない?僕もまだ中までしっかり見ていないんだ。ここの蔵書はとにかくすごいらしいから楽しみなんだよね」
「ええ、そうしましょう」
トレーを返却口に返し、受け付けに寄って用意してもらった持ち帰り用サンドイッチを受け取り、私はラウルと食堂を出た。
その時。
「エミリアーナ」
聞き覚えのある声に呼び止められてそちらを向くと、次兄のロレンツォがこちらに歩いて来る。
「誰?」
「兄のロレンツォよ。三年生なの」
ラウルを紹介してから、何か用があったかしら、と首をかしげてロレンツォを見る。
「エミリアーナ。お前が入学式の新入生代表挨拶をすることに決まったからね」
えーーーーー!!
なぜ私が?
そんな面倒な……いえ、光栄なことを?
入学式では恒例で入学試験で最高得点を取った特待生が代表挨拶をすることになっている。
今年は対象者が四人いたため、生徒会がくじ引きで挨拶をする新入生を選んだところ、私が当たった。
そうロレンツォに説明されて、思わず目を泳がせてしまった。
隣でラウルがぐっと拳を握って嬉しそうにしている。
ちょっと、ラウル?
当たったら嫌だと思っていたようね?
私だってこういうくじには外れたかったわ。
でも当たってしまったからにはきちんとやり遂げなくちゃ女が廃るわね。
「わかりました。精一杯努めます」
「頼むぞ。入学式当日、時間前にひと通りリハーサルをするから……そうだな、開式一時間前に会場入り口脇の生徒会用待機室前に来てくれ」
「はい」
忙しそうに去っていくロレンツォの背中を見送り、私はラウルに断った。
「そういうことで、私は訓練場を見てから寮に戻って挨拶を考えることにするわ」
「うん。がんばって。君の代表挨拶、楽しみにしてるよ」
「ありがとう」
「図書館は、また明日にでもどう?」
「ええ、そうね。それじゃまた明日」
剣術の稽古のため、訓練場だけは下見を済ませておきたかったのでそちらに回り、学園事務局で明日からの使用許可が下りていることを確認してから寮に戻り、代表挨拶の構成を考え始めた。
もちろん間食にはサンドイッチを食べて英気を養う。
ラウルといろいろ話したことがヒントになって、どうにか夕方には挨拶文ができあがり、ほっとする。
それにしてもいきなり入学式の代表挨拶を仰せつかることになるなんて。
これは波乱に満ちた学園生活の始まりを示唆しているのかしら。
それに特待生トップ、新入生代表挨拶は長兄アントニオも次兄ロレンツォも通った道よね。
ダンジェロ公爵家三兄妹の一人として、私もそこを外さずにすんだ、と思えばいいのかしら。
そんなことを思いながら、私は夕食を取り夜食を持ち帰るために寮を出て食堂に向かった。




