第48話 学期末
ところで、学園祭での各クラスの売り上げ結果はどうなったのか、というと、一年生の三クラスは僅差でほとんど差がなかった。
ただ、利益はかろうじて私たちのクラスが一番だったけれど、売り上げ額はラウルたちのクラスが上回っていた。
三年生と話をつけて紅茶を割り引くサービスをつけ、お茶席の売り上げ増加にも寄与した、という点を評価されてラウルたちのクラスが一位となった。
結果が出たあと、トーニオがぼやいていた。
「あの爆弾令嬢は口だけ出して引っ掻き回し、結局なんの役にも立たず、当日はお客さんの値踏みをしていつの間にかどこかに消えてしまったよ。きっと好みの人でも見つけて楽しくやっていたんだろう」
ロレンツォに確かめてみたら殿下はエレナ嬢と顔を合わせることなく済んだ、と言っていたし、大きな混乱もなく終わったから本当に良かった。
そして学園祭は準備から当日まですべてがとても楽しかった。
一つの商品を作り出すためにどれだけ人の手がかかるものなのか具体的に掴めたのは収穫だったし、クラスメイトたちと協力し合って商品を作り、それをお客様に販売し、さらに商品に対する反応や意見を集められたことも収穫だった。
ただ楽しむだけではない学園祭の意義はこういう所にあるのだろう。
それに、クラスメイトたちとぐっと距離が縮まったのも収穫だった。
最初はなんとなく壁を感じていた子たちとも仲良くなれた。
仲良くなってから彼女たちは壁を作っていた理由を教えてくれたけれど、その原因はエレナ嬢の流した噂だった。
婚約者候補云々の方ではなくて、私が男子生徒に手を出しまくり侍らせているという噂の方。
実際、私は隣の席のブルーノとよく話しているし、食堂でもブルーノだけでなくラウルやトーニオともよく一緒に食べているから、てっきり本当のことだと思ってしまったらしい。
でも食堂でたまたま近くの席に座った時に私たちが喋っている内容に耳をすませてみれば、何やら小難しそうな話ばかりしていて浮いた感じの雰囲気もなく、思っていたのとは違う。
気をつけて観察してみれば、侍らせるという雰囲気は皆無、食堂でもいつも同じ顔ぶれで食べている訳でもない、ということがわかって噂の方が間違っているのでは、と思うようになった。
そうこうするうちに学園祭の準備期間に入り、私と直接いろいろ話すようになって壁は消えた。
と、そういう事だったそうだ。
彼女たちが実際の私を見て仲良くなってくれた事が本当に嬉しかった。
その学園祭の余韻冷めやらぬまま、すぐに学期末試験週間が始まった。
私はかなり多くの科目を受講しているので、試験も多く、毎日朝から晩まで試験ばかり、という日々を過ごした。
成績が悪ければ次学期の受講が叶わない科目もあるし、年間を通しての総合成績にも影響があるからどれも疎かにできない。
でも試験期間が終わればニ学期が始まるまでおよそ三週間の休みがある。
それを楽しみに私はひたすら試験をこなした。
試験期間が終わると、すぐに成績が発表される。
さらに成績上位者は学園の掲示板に名前が貼り出されることになっている。
生徒それぞれ選択する科目も科目数も異なり、単純に合計得点で順位は決まらないので、科目数と合計得点の割合で算出されて、学年毎に特待生と一般生徒上位十名ずつの名前が貼り出されるのだ。
もちろん私も結果は気になっていたので、成績が発表されるとすぐに掲示板を見に行った。
三年生の成績上位者にはカルロ殿下、ロレンツォ、そしてもちろんカッサンドラ様の名前があった。
恐る恐る一年生の成績上位者の名前を見れば、無事、私の名前もあってほっとする。
一応特待生得点トップで入学した手前、ここで名前無しは恥ずかしいと思っていたので本当にほっとした。
ブルーノもラウルもトーニオももちろん名前があり、私は二学期もこの三人に遅れをとらないようがんばろう、と決意を新たにした。
この日は一学期最終日ということで、私たち四人はラウルの発案で夕食を一緒に取ることにしていた。
試験期間中は掛け違ってばかりで食堂で顔を合わせることも少なかったので、この四人が揃うのは久しぶりのこと。
「一学期、お疲れさま」
「みんな上位十名に入ってたね」
「僕たちがんばったよな」
「これで二学期も取りたい科目全部いけるな」
夕食を取りながら私たちはお互いのがんばりを褒め合う。
その後はもちろん休みの間何をするか、という話に花を咲かせる。
休みの間、私とラウルは家に帰ることにしている。
トーニオとブルーノは領地が遠く、馬車での往復だけで休みの半分近くを無駄にするよりは、と寮に残ることに決めていた。
私はタウンハウスへ戻り、敷地内にあるダンジェロ公爵家の護衛騎士たちが使っている訓練場で魔剣術の特訓をするつもりでいる。
そして日課となっているポーションやマッサージオイル作りをいつも通りこなし、あとは好きな本を読んだりたまに買い物に出たりしてのんびりする予定。
ラウルは家に戻ってやりたい事があるとのこと。
馬車での往復も通りかかる町や村の視察を兼ねたようなものだから苦にならないらしい。
ブルーノはやはり魔剣術の訓練を集中的にやる、と意気込んでいる。
そして何と言っても一番燃えているのはトーニオだった。
「休みの間はずっと小型結界装置の試作に明け暮れるつもりなんだ」
トーニオは目を輝かせながら言った。
小型結界装置は失われた技術のひとつ。
三百年以上前までは使われていたものの、現在では作り方も忘れ去られてしまっている。
トーニオは暇さえあればその復元を目指して昔の文献を探しに探し、製作方法を発掘していた。
その製作方法にどうやら目処がついた、と私たちがトーニオから聞いたのは学期末試験直前のこと。
「ベニーニ教授に許可をもらったから休みの間は研究室に籠るよ」
ベニーニ教授の担当は魔道具設計の授業。
私とブルーノもその授業を受けている。
「僕が長い時間と手間をかけて集めまくった魔道具用の部品や素材がかなり役に立つし、要の魔法陣もどうにか作れそうだ。魔石はベニーニ教授が用意してくださったから問題無い。ブルーノにも手伝ってもらうし、できればこの休みの間に試作一号機を物にしたいんだ」
「俺は休みの間にすることと言えば魔剣術の集中稽古くらいだからな。小型結界装置には興味があるし、関わらせてもらえるのが楽しみなんだ」
この二人にかかれば試作一号機は本当に休みの間に完成してしまいそうに思えて、私は休み明けがとても楽しみになってきた。




