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お転婆エミリアーナは好奇心のままにつき進む 〜私は悪役令嬢だそうですがヒロインにつきあっている暇はありません  作者: 帰り花


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第43話 特別講義〜魔剣術(5)

「よろしくお願いします!」


アカルディ侯爵とブルーノが訓練場の中ほどで正対し、剣を構える。



ブルーノが攻撃を開始した。

最初は大きいウインドエッジを三つ。

速い。


でもアカルディ侯爵は難なくそれを弾き返し、すぐにアイスエッジを三つ放った。

ブルーノは素早い剣捌きでそれを弾いたが、ひとつだけ鈍い音を響かせる。

ほんの少しだけ受ける位置がずれたようだ。


ブルーノはすぐに攻撃に転じ、短いウインドアローを五本放った。

アカルディ侯爵は目にも止まらぬ剣捌きで四つを弾き飛ばし、一つを弾き返し、さらにファイヤアローを放つ。


ブルーノは弾き返されたウインドアローを弾き飛ばし、ファイヤアローを剣で受け止めて勢いを殺して切って捨て、すぐに攻撃に転じる。


ブルーノが放った最後のウインドエッジは五つ。

それは途中までまっすぐ飛び、急にバラバラの方向へ角度を変えてアカルディ侯爵を襲った。


だが侯爵はそれをすべて弾き返し、同じウインドエッジを五つブルーノめがけて放った。

それは同じように急にバラバラの方向へ角度を変えてブルーノを襲う。


ブルーノは四つまで剣で弾いたが五つめは横に飛んで躱した。


二人は再び向かい合って立ち、お互いに礼を交わす。


「ありがとうございました!」


ブルーノはそう言ってアカルディ侯爵に深々と頭を下げた。


「お見事でした」


侯爵がそう声をかけるとブルーノは顔にほんの少しはにかんだような色を浮かべた。




名簿順で次は私の名前が呼ばれた。

私は進み出てアカルディ侯爵に正対した。


侯爵は自分の得意技で攻撃せよ、と仰った。

だから私は同時発動の技で挑むと決めている。


「よろしくお願いします!」


私は剣を構えて侯爵の目を見た。

表情は柔らかいが目には鋭い光が宿っている。

王国随一の魔剣術の使い手の圧力をひしひしと感じる。


とにかく胸をお借りして全力でぶつかるのみ。



私は剣身に同時発動でアイスブロック五つとスパイラルウインドの元を纏わせ剣を振った。

《氷塊旋風》がアカルディ侯爵の胸元をめがけて鋭く飛ぶ。

侯爵の剣が難なくそれを捌き、アイスブロックが剣に当たって高い音を立てる。


間髪を容れず侯爵の剣から《氷刃旋風》が繰り出された。

スパイラルウインドに乗って螺旋状に旋回しながらアイスエッジがスピードを上げて飛んでくる。


鋭いアイスエッジ三つをなんとか剣で弾いたが、剣に当たるとかなりの衝撃が走った。


それでもどうにか持ち堪え、私はすぐに同時発動で再度《氷塊旋風》を放った。


ただし今度はアイスブロックを小さめにしてスパイラルウインドの威力を増す二つの属性に強弱をつけたもの。


アイスブロックは先ほどよりスピードを上げてアカルディ侯爵へ迫る。


侯爵がそれを捌く剣の動きは私の目には残像がいくつか見えただけだった。

アイスブロックはすべて弾き飛ばされ、すぐに同時発動で《氷矢旋風》が返ってくる。


スパイラルウインドに乗って螺旋状に旋回しながら鋭い矢尻のアイスアローが唸るような音を立ててスピードを上げ迫ってくる。

私はどうにかアイスアローの動きを見切って剣身で押すようにしながら受け止めて勢いを殺し剣で切った……つもりだったが、アイスアローは折れただけで切るところまではいかなかった。

でも体に当たることなく防御はできている。


私はその剣を元に戻しつつ同時発動で《火球旋風》を放った。

ファイヤボール(火球)がスパイラルウインドで大きさを増しながらアカルディ侯爵へ迫る。


侯爵はウォーターシールドを展開し、そこにぶつかった《火球旋風》は衝撃音とともに消え、侯爵からすぐにスパイラルウォーターの攻撃が返ってきた。


私の体は考える間も無く自然に動き、左側へ体を倒しながら右から左へと剣を振ってスパイラルウォーターの先端を避けつつ本体を横から真っ二つに切っていた。


自分でも不思議なほどスパイラルウォーターの動きを見切れていた。


でもそれをはっきり認識したのはその後。

勢いが落ちてただの水の塊になったものが地面にバシャッと音を立てて落ちた時だった。


私は跳ね起きてアカルディ侯爵と正対する位置に戻る。


「お見事です」


アカルディ侯爵がそう声をかけてくださった。


「ありがとうございました!」


私は充実感を感じながらアカルディ侯爵に深々と頭を下げた。

 



驚くことに、アカルディ侯爵はそのまま休止も入れず、受講生二十七人と対戦し続けた。

しかも最後の相手はおそらく受講生の中で最も実力のある三年生のパオロ様。

彼は同時発動で攻めていたが、当然のことながらその技は私より威力もスピードも優っている。


けれどアカルディ侯爵は難なく防御しては攻撃に転じていた。

終わってなお、余裕のある表情。

体力も魔力量も桁違い。

本当に恐ろしいお方だ。



すべての対戦が終わり、私たちは整列した。


「皆さん、お疲れ様でした」


アカルディ侯爵が私たちの前に立って労いの言葉をくださる。


「皆さんはこの対戦で実戦の感覚を多少なりとも掴めたでしょう。対戦相手からどのような攻撃が来るか見極め、防御し、反転攻撃に転じる。これを遅滞なく進めるには、それまでにどれだけの基礎訓練を積み重ね、身につけているかが重要であることも体感できたことと思います」


アカルディ侯爵は私たちの表情を確認するかのように皆の顔を見た。


「今日の訓練ですでに気づいている方もいるでしょう。魔剣術は魔術に頼り過ぎてもいけません。基礎となる剣術がしっかりしていてこそ、魔術が生きるのですよ。ですから日々の鍛錬を疎かにせず、しっかりと積み重ねることが大切です。その積み重ねを土台とした上で魔剣術の訓練を重ねていってください」

「「「はい!!」」」


「ではこれにて本日の講義を終了します」

「「「ありがとうございました!!!」」」



こうしておよそ三時間に及ぶアカルディ侯爵による魔剣術の特別講義が終了した。


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