第36話 ガブリエーレ登場(1)
エレナ視点
せっかく入念に準備してあの女に噴水に突き落とされる場面を演出したのに!
あの女は消えるし、それでも急いで演技して叫び声をあげればいけると思ったらあの男が邪魔して!!
何よ!
余計なところを見てんじゃないわよ!
ずぶ濡れになって大損しただけじゃないの!
あの女、悪運が強いったら!!
ほんっとムカつくわっ!!!
濡れた服が張り付いて気持ち悪いから着替えるために私は寮に戻った。
だけど乾いた服に着替えたって苛立ちは全然おさまらないわ!
あら?
こんなネックレス、持っていたっけ?
どうせ誰かに貢がせたものでしょ。
覚えていないけど。
そうよ!
いいこと思いついた!
このネックレスをあの女が盗んだことにしてやればいいわ。
こんなネックレスいらないし。
さっそくあの女の部屋に持っていってどこかに押し込んできてやるわ。
やっぱり私って頭いいわね。
とにかく特待生用のフロアへ行かなくちゃ。
この時間なら使用人が誰かいるでしょ。
この私が可愛らしく聞けばあの女の部屋を教えるはずよ。
ふふふ。
見てらっしゃい。
悪役令嬢エミリアーナ!
と思ったのに。
特待生用のフロアへ入ることができないわ。
フロアへの入り口に扉がついているのにドアノブが無い。
押してみてもびくともしない。
どういうこと?
あら、よく見れば魔石が埋め込まれているじゃない。
ここに手をかざせばいいんだわ……って反応しないじゃない!
もう!!
どうしてよ!!
腹が立って扉を思い切り叩いたら、警報みたいな音がビービー鳴り出したので、私は慌てて階段を下りて自分の部屋へ逃げ込んだ。
なんなのよ!
あの扉!
扉の分際で私の邪魔をするなんて!!
腹立ちのあまり握っていたネックレスを壁に投げつけてやったわ。
金具が壊れたけどそんなことどうでもいいわ。
もういらないし。
それにしてもあの女。
次はどうしてくれよう。
ほんとあの女許せないわ!
イライラがおさまらないからノートを破いて投げ捨ててやった。
もう着ない服も破いてやった。
もう履かない靴も壁に投げつけてやったら踵が折れて壊れた。
それでようやく気が済んだから私は校舎へ戻ることにした。
もう授業はサボってクラスルームに行って誰かとおしゃべりすればいいわ。
校舎に戻って廊下を歩いていると、すれ違った二人の女子生徒の話し声が耳に入る。
「ガブリエーレ・アカルディ侯爵ですって」
「え?あの魔剣術騎士団団長の?」
え?
ガブリエーレ?!
私は思わず二人の話し声に耳を澄ませた。
「銀髪碧眼の美形で有名な方でしょう?」
「ええ。今学期末の特別講義の講師でここにおいでになるそうよ」
「素敵!ぜひご本人の尊いお姿をこの目で拝見したいわ」
銀髪碧眼の美形ガブリエーレ?!
いたんだわ!
ガブリエーレはいたんだわ!!
この学園の生徒じゃなくて騎士団団長だったんだ!
絶対にそうだわ!
騎士団団長だなんてこの私にふさわしいじゃない。
ふふふ。
あら?
あの人集りはなにかしら?
女子生徒たちが集まっている場所に近づいてみると掲示板に告知が貼り出されている。
特別講義.
魔剣術
講師.
王室魔剣術騎士団団長ガブリエーレ・アカルディ侯爵様
場所.
訓練場
…………
やっぱりガブリエーレだわ!
講義は来週ね。
訓練場なんて野蛮な場所に行ったことはなかったけど、ガブリエーレを攻略するためなら行くわよ。
そして潜り込める場所を探すべきだわ。
当日はそこからガブリエーレをしっかり堪能して絶対にお近づきになるんだから。
今度こそ攻略対象を落としてみせるわ!!
絶対に!!
もうあの女には邪魔させないんだから!!
見てらっしゃい!
悪役令嬢エミリアーナ!!




