第24話 目撃者カルロ
カルロ視点
僕はこの茶番の一部始終を目撃していた。
中央階段を上っていくエミリアーナを見つけた時、上から下りてきた金髪の女子生徒がおかしな動きを見せたのではっとしたが、エミリアーナは信じられないほどの速さで動き、階段をわざと落ちようとした金髪の女子生徒の体を支えてそれを止めた。
その金髪の女子生徒は何が起こったのかわからなかったようだ。
それほどエミリアーナの動きは素早かった。
見事な動きだ。
そう感心したが、同時にその金髪の女子生徒の不審な動きが気になった。
事を荒立てるより念のためエミリアーナに事情があるなら聞いておこう、と咄嗟に声をかけて呼び止めた。
「今の動きは見事だったね」
「ご覧になっていらっしゃったのですね」
「たまたま通りかかってね。ふと階段の方に目をやったら君がいることに気がついた。同時にあの女子生徒がわざと君のそばに寄って行ったように見えたからね。何をしようとしているのか見ていたんだ」
エミリアーナは苦笑している。
「何か、彼女とあるのかい?」
「なぜかあの方はわたくしのことが気に入らないようですわ。これまで何ひとつ接点などなかったのですけれど。先ほどは、わたくしがあの方を押して階段から突き落としたように見せたかったのかもしれません」
なぜそんな危険な茶番をする必要があるんだ?
下手をすれば大怪我をするだろうに。
エミリアーナは僕を見て尋ねてきた。
「殿下はあの方をご存じでいらっしゃいますか?」
「いや。まったく知らないな」
「バローネ子爵家の長女エレナ様です」
「バローネ子爵か……ああ、思い出したよ。溺愛している一人娘が領内でちょくちょく問題を起こして、挙げ句の果て地元の有力者と揉めたと聞いている。欲しいものがあれば他人のものでも見境なく手に入れる、といった類の事だったらしい」
「そうでしたの」
「何か君から奪いたいものでもあるのかな?」
エミリアーナは複雑な表情をして言った。
「一昨日、カッサンドラ様のお茶会に招かれまして、その席で初めてエレナ様にお目にかかったのですが……わたくしのことは将来の王太子妃と思ってくださればよい、と、このように言われましたの」
なんだ?その言動は。
僕とは一面識もないのに?
しかも。
「カッサンドラ嬢のいる前で?」
「はい。エレナ様はカッサンドラ様のお立場のこと、ご存じないようでしたわ。そしてわたくしが王太子の婚約者候補を狙って殿下にべったりくっついており、エレナ様の邪魔をしている、と思っているようですの」
なぜそうなる?
妄想癖か?
「なぜそういう思考になるのか理解に苦しむな」
「わたくしもまだそこがわからないのですが……いずれにせよ、そのような思い込みに基づいて動いているようですので、今日のような事をまたするかもしれません。まともに対立することは避けるつもりですが、降りかかる火の粉は払います」
「そうか。それならばいい。深入りは避け、注意は払っておくことだな」
「はい。十分気をつけます」
「それがいい。まあ、これも危機対策、危険回避の実践にはなるだろう」
「ええ。わたくしもそう思います。ですから手を抜くことはいたしませんわ」
エミリアーナは少しばかり不敵な表情を浮かべた。
僕はそれを見てエミリアーナなら大丈夫だ、と確信した。




