第23話 階段から突き落とされる演技実行よ
エレナ視点
どうして噂の広まりが悪いんだろう。
あの女が大勢の男子生徒にすり寄って手を出してるって噂だけじゃなくって、特待生だってことを笠に着て一般生徒に威張り散らしてるって噂も追加してやったのに。
こうなったら他にもっとわかりやすいことをした方が良さそうね。
それにはやっぱり、私が階段から突き落とされ、王太子に助けられるエピソードを実行するのがいいわね。
シナリオでも王太子との仲が深まって、あの女がますます信用を落とす重要な出来事だったわ。
その出来事が起こることが大事なんだから、すれ違いざまにあの女に突き落とされたふりをして、無理矢理にでも起こしてやればいいのよ。
今朝見たのはそれがうまくいく夢だった。
これは啓示だわ!
ちょうどあの女と面識もできたことだし、いいタイミングだわ。
だから今日、決行するわ!
ふふふ。
案の定、おあつらえ向きのシチュエーションが用意されていたわよ。
私が学園の中央階段を下りていくと、あの女が廊下の曲がり角から姿を見せてそのまま階段を上ってくる。
その直後、階段下に王太子が現れて、階段に目を向けてきた。
ほら!
これよ!
今朝見た夢の通りだわ!
間違いなく成功するわ!
成功を確信して思わず口元が緩んじゃう私。
私はあの女の方へ少しずつ近寄りながらタイミングをはかる。
あの女が私の横に並んだ瞬間。
「あら、エミリアーナ様。ごきげんよう」
にこやかにそう言って、わざとあの女に押された風を装い、階段下へ落ちていく演技をした。
……と思った瞬間、体が強い力で受け止められ、勢いのまま、まっすぐな体勢に戻ってしまった。
何?
どういうこと?
何が起きたの?
この後わざと叫ぶつもりだったのに声を出す暇もなかったわ。
急に私の耳元であの女の声がする。
「お気をつけあそばせ。エレナ様」
私は自分の体があの女によって支えられていることに気がついた。
「っ!」
なんてこと!!
思わずその顔を見るとあの女は微笑んでいる。
でもなぜかその眼の光に気圧されて何も言えない。
「エミリアーナ嬢」
階段下から誰かに声をかけられたあの女は、そちらを向き、それから私に軽くお辞儀をしてみせた。
「ごきげんよう。エレナ様」
な、な、なんて嫌味な女!!
あの女は階段を下り始めた。
でも私は体を動かすこともできず、ただ階段を下りていくあの女を見つめるしかなかった。
その姿が消えてようやく体が動いた。
本当になんなのよ!
あの女!!
これ以上ないタイミングだったのに、また邪魔して!!!
しかも王太子にくっついて!!!
許せない!!!
絶対に許さないわ!!!
こうなったら直接あの女に言い聞かせてやるわ!
あの女も転生者だって私はわかってるとつきつけてやるわ!
脇役は脇役らしくしていろと命令してやるわ!
この私の命令をあの女は聞くべきなのよ!
わたしがこの世界の中心で主役なんだから!!




