第21話 お茶会にて
私宛てにお茶会の招待状が届いた。
カッサンドラ・アゴスタロ公爵令嬢の開くお茶会だ。
カッサンドラ様には入学式前に挨拶していて、いずれ学園での生活が落ち着いたらお茶会を開くから来てほしい、と言われている。
カッサンドラ様は三年生で、生徒会役員を務めていらっしゃる。
由緒ある公爵家の令嬢であり、金髪碧眼で切長の目が特徴の知的な美人だ。
一般生徒だけど、頭脳に優れ、成績が良いのはもちろん、マナーのみならず貴族的な駆け引きに長けており、かと言って居丈高なところはなく、他の生徒たちの人望も厚い。
そのカッサンドラ様には昔から仲良くしていただいている。
そして私の理想的な淑女像はカッサンドラ様そのもの。
それにカッサンドラ様の開くお茶会は、単なる噂話や流行話だけで終わるような単純なものではない。
お茶会は三日後、中庭で行われる。
きっと今回のお茶会も何かあるに違いないわ。
お茶会当日の約束の時間。
私は中庭に着いた。
すでに丸いテーブルを囲んでカッサンドラ様と三人の女子生徒が座っている。
ああ、制服姿でもカッサンドラ様は上品で優雅だわ。
本当に素敵。
「カッサンドラ様。お招きくださいましてありがとうございます」
「お待ちしておりましたわ。エミリアーナ様」
私はカッサンドラ様の目に少しいたずらを楽しむような色が浮かんでいることに気づいた。
すでに来ていた三人の女子生徒の中に、金髪碧眼で目のぱっちりした人目を引く容貌の美少女がいる。
記憶しているバローネ子爵家の当主夫妻と令嬢の特徴を思い出してみる。
もしかしてこの方がエレナ嬢かしら。
カッサンドラ様の引き合わせにより、その令嬢が私に向かって自己紹介する。
「バローネ子爵が娘エレナですわ。わたくしのことは将来の王太子妃と思ってくださればよろしいのよ」
ひゃあ。
エレナ嬢ったら、カッサンドラ様の前ですごいことを言うわね。
カッサンドラ様は自身で周囲にアピールするような真似をしないため表立って言われてはいないけれど、王太子の婚約者候補筆頭と目されるお方。
エレナ嬢の言い方はそれを知った上であてこすった、というより、知らないため平気で言ってのけた、といった風だわ。
しかも子爵家令嬢の目上にあたる公爵家令嬢の私に対する挨拶としては稚拙で無礼なものだけど、本人はまったく気にしていないようね。
私も気にしていないけれど。
むしろ新鮮でおもしろいと思ってしまったわ。
きっと自分の方が上だ、と見せたいのでしょうね。
流石にカッサンドラ様は表情ひとつ崩さない。
よって私もそれに倣った。
「ダンジェロ公爵が長女エミリアーナですわ。初めてお目にかかりますわね。どうぞよろしくエレナ様」
これはあの噂の出処と思われるエレナ嬢の実際の人柄や好み、考え方などを知るいい機会のようね。
初っ端から毒気を抜かれそうになったけれど、おもしろくなってきたわ。
他の二人、スザンナ嬢とリオネッラ嬢も共に子爵令嬢で、エレナ嬢とは親しげだ。
「エレナ様とは親しくさせていただいておりますの」
自己紹介でわざわざ、そう付け加えていた。
「そろそろ学園生活にも慣れてきた頃合いかしら?」
カッサンドラ様の問いに答える。
「ええ。おかげさまで、とても楽しく過ごしておりますわ。見識を広めるにもこの学園での生活と学びは良いきっかけになると思っておりますの」
「文字通り王国各地から生徒が集まっていますものね。どうかしら。あなた方の領地の素敵なところをわたくしに教えてくださらない?」
カッサンドラ様の問いに皆がそれぞれ領地の自慢を話して聞かせる。
カッサンドラ様は興味深そうに皆の話を聞き、ときおりポイントとなる点を賞賛して喜ばせ、うまく話を引き出している。
そうやってカッサンドラ様は三人の懐にするりと入り込んだ。
その手際に私はひたすら感心するばかり。
そういえば、用意されているお茶菓子はどうやら招待客それぞれの好物ばかりのようだわ。
私の好みのものはもちろん、三人ともお世辞ではなく自分好みのお茶菓子だと喜んでいるから。
学園内での気軽なお茶会であっても、こういうところにも手を抜かないカッサンドラ様は本当に素敵。
「ところで、近頃おもしろそうな噂がありまして?」
学園内でのちょっとした噂話がいくつか持ち出されたところでエレナ嬢が扇を開いて少しカッサンドラ様の方へ身を寄せた。
そして私の方をチラリと見ながら言った。
「カッサンドラ様。身の程知らずにも自分が王太子殿下の婚約者候補だと思い上がって媚を売っている愚かな方がいらっしゃいますこと、ご存じでした?」
さあ、来たわね。




